医学界新聞

絶対に失敗しない学会発表のコツ

連載 後藤 徹

2022.03.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3461号より

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行してから,ほとんどの学会はオンサイトでの開催がかなわずオンライン形式に移行しました。忙しい臨床医からは「Web上での学会発表は,移動が不要かつ事前収録が可能で便利!」などと好意的な感想が多く聞かれます。COVID-19の収束はいまだ見通せず,今後現地開催が増えてもハイブリッド形式(Web参加も可)を採る学会は多いでしょう。

 初めに断っておきますが,Web発表はかなりの難敵です。第1回(3440号)の冒頭でも述べたように,学会発表の基本目的は「伝える」こと。これは演者の熱意と工夫はもちろん,聴衆側もある程度の緊張感を持って聞いてくれることが前提です。ですがオンライン学会では,聴衆の顔が演者に見えないのをいいことに,お菓子やお茶をたしなむなど,別のことをしながら聞く人も多くいるでしょう。私も日本の学会に北米から参加した際に,時差で眠くてベッドから視聴したことがありますが,理解度が著しく下がりました。今回は,このような極端に集中力を欠いた聴衆にもしっかり主張を伝えるためのTipsを考えていきます。

 これはデジタル機器に慣れた若手よりも指導医や座長クラスにお伝えしたい内容ですが,本番前にはオンラインツールの操作方法を必ず予習しておきましょう。マイク・カメラのON/OFF,スライドの共有は演者自ら行う必要があります。アプリやソフトウエアによって仕様は微妙に異なりますが,おおむね図1の通りです。普段はマイク・カメラをOFFに,出番になったらさっとONにしてスライドを共有する。これをスムーズにできるよう,事前にアプリを起動して確認します。また,当日の緊急事項の周知や質疑応答はチャット機能を用いて行われる場合もあります。チャット欄に更新がないか,定期的に確認することをお勧めします。

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図1  Web発表で必要になる,オンラインツールの主な操作

 聴衆の集中力は演者側からコントロールできません。だからこそ聴衆の理解度を下げないよう,できる限り見やすく,聞き取りやすい発表を心掛けます。特に気を配るべきTipsは図21)にまとめました。中でも視聴者が気になるポイントは,音環境と背景です。事前収録されたデータに救急車やPHSの音が入っていたり,質疑応答中に医局の他の誰かの雑談が聞こえてきたりといった状況は,「その程度の意気込みの発表か」と聴衆にがっかりされます。また,病院の会議室や医局デスクからの発表参加者も多いですが,山積みの書類や「○○のお知らせ」といった院内プリントなど機密情報が映るのは避けるべきです。背景設定で周囲にモザイクをかけるか,背景画像を設定して自分以外を映さない工夫が必要です。

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図2  オンライン会議・面接で気を付けたい6つのTips(文献1より)(クリックで拡大)

 Web発表では座長と大会スタッフとの事前打ち合わせがあります。演者がマイクをONにするタイミングなど,当日の流れについて細かな説明が行われます。これを「タイムキーパーは座長だから」などと軽んじて蔑ろにしてはいけません。本番当日にスムーズな発表・質疑応答をするためにはもちろん,事前打ち合わせは座長や他の演者に自己紹介するチャンスでもあるので,遅刻や欠席はせずしっかり参加しましょう。

 学会発表をゲームに例えるなら,本連載第1~5回までをクリアしてきた皆さんはいわばLv.99の勇者です。しかしWeb発表時のデバフ(不利な状況,能力を下げる効果)に足をすくわれて発表が台無しにならないよう,以下に注意しましょう!

1)台本の誘惑と早口言葉
 Web発表ではスライドに音声ファイルを付けて提出する“事前に収録しておくタイプ”と,当日自分のスライドを共有しながらLIVEで発表する“リアルタイム配信タイプ”の2つの形式があります。カメラに映らなければ何をしていても聴衆には分からないのがWeb発表の特徴ですから,台本を見たい誘惑に駆られる方も多いでしょう。特に前者のタイプでは撮り直しも可能なため,情報を詰め込み過ぎて早口になりがちです。音声が聞き取りづらくならないよう注意しましょう。Web発表はネット環境やデバイスを介するため現地よりクリアな声が相手に届きにくいものです。一段階スピードを落としてゆっくり話しましょう

2)時間感覚の麻痺
 Web発表では,現地開催時の壇上のようにタイマーが用意されていません。オンラインツールやソフトウエア上に残り時間を表示し続ける機能も,私が知る限りありません。従って,自分のPCや手元の時計で時間管理を行う必要があります。発表練習が甘く,また普段から論理的かつコンパクトに話すことを意識していないと,時間感覚が麻痺して長々と発表してしまいます。

 以前,“リアルタイム配信タイプ”の発表で上級口演の最終演者となった時のこと。それまでの発表が押しており,自分の番が来た時にはすでに予定の半分しか持ち時間が残っていませんでした。座長から「時間がないので巻いて発表してください」とチャットが来た時は本当にがっかりしました。座長も,現地開催に比べて発表を遮って「時間が押しています」とは言いにくいですから,他の演者のためにも自分でしっかりコントロールします

3)孤独との戦い
 Web発表の最も難しいところは,聴衆の顔が見えない点です。事前収録の場合はそもそもプレゼン中に聴衆はいませんし,リアルタイム配信の場合もスライドを見ていて座長に目をやる余裕はありません。しかも演者以外はだいたいマイク・カメラをOFFにしています。リアクションが見えない中で聴衆の理解度を把握するのは難しく,第5回までに紹介したようなアドリブができません。また時間に多少ゆとりのあるWeb講演会などで笑いどころを入れても当然全く反応がなく,エンターテイナーとしてはスベり続ける中で漫才を継続するような厳しさです。このような状況下でも惑わされず自信を持って発表をやり遂げましょう

4)質疑応答の出所と会話のタイミング
 Web発表での質疑は,座長が自身の質問を聞いた後にチャットで公募した質問を読み上げるパターンが多いです。座長によっては同じセッションの演者に質問を促す場合もあるので,他の演者の発表もしっかり聞いて質問を考えておきましょう

 そして質疑に応答する時は,質問者と被らないように答えるのがポイントです。皆さん電話で同時に話してしまい,「どうぞどうぞ」と譲った経験がありますよね。お互いにActiveに話そうとするWeb学会ではこれが頻繁に起こります。コツは,相手の口元を見てコメントが終了したと思ってから1秒数えて話し始めること,あるいはこちらの応答時の一言目は相づちで統一することです。また,指導医からの助言を受けられないのもWeb発表の注意点です。会場で発表する時のように共同演者を「召喚」できませんので,気合を入れていきましょう!


1)後藤徹.オンラインツールを使いこなす者がコロナ禍を制する!.週刊医学界新聞3395号.2020.

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