絶対に失敗しない学会発表のコツ
[第5回] ポスター発表を甘く見ない!
連載 後藤 徹
2022.02.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3457号より
ポスター発表は口演より難しい
ポスター発表を行うことが決まった際に落胆する若手がいます。それは,ポスター発表を“口演発表に落ちた演題の行く末”とのイメージを持っているためでしょう。しかし甘く見てはいけません。私は「口演発表より難しい形式に当たってしまった」と気が引き締まるほどです。その理由を2つご紹介します。
1)観衆が読んでいる前提でのプレゼン
ポスターは発表時間より前に掲示します。デジタルポスターであれば,学会の開催期間中いつでもスマートフォンなどで閲覧できます。これは,相手に自分の発表を予習されてしまうということです。その分野の深い知識を持つ専門家が発表のハイライトとオチを知っている状況ですから,口演発表と同じプレゼンでは満足してもらえません。
2)物理的距離と心理的ハードルの小ささ
連載第4回(3452号)でも紹介したように,口演発表では演者と座長,聴衆との間に一定の物理的距離があります。聴衆にとっても,質問する際はマイクを要求し会場内の聴衆全員の前で話すため,ある程度の心理的ハードルが課されます。ところがポスター発表ではそれらがありません。自分の隣に座長がいて,注目を集めるポスターの場合は観衆に取り囲まれます。距離が近いせいか,真理に迫ろうとする鋭い質問や,口演の会場では聞かないようなざっくりとした質問も投げ掛けられやすいです。座長や観衆,ポスターとの距離が近いぶん威圧感も大きく,逃げ場のない状況です。
上記2点を考慮して今回は,この“難敵”ともいえるポスター発表の攻略法を探っていきましょう!
“小さな論文”を説明する
ポスター作成時の大原則は「読めば中身が分かること」です。口演発表であれば,スライドにFigureを1つだけ出して新規性のある箇所を口頭で説明して補うことも可能です。しかしポスター発表では紙面のみで内容を完結させる必要があり,説明文(Legend)の記載が必須です。したがって,小さな論文を書くイメージで作成します。Background,Hypothesis,Methodの流れは抄録でできているはずですから,図表(Results)から全体をデザインしましょう。FigureやTableをいくつ使うのか,各Legendはどれくらい必要か。これらを完成させてから図面で配置を決めます。
ポスターの大きさは学会によって異なります。主に縦長(日本の学会に多い),横長(海外の学会に多い)の2タイプがありますが,いずれも左上から右下に向かう流れで書くのが基本です。ポスターは大判一枚に絵画を書くイメージです。文字の大きさも「8の法則」(第2回参照)は無視して,A4サイズに縮小印刷して読める程度の大きさなら問題ありません。
ポスターができたら,口頭での説明の仕方を考えます。書かれていることを読むだけでも発表は成立しますが,観衆は一度ポスターに目を通しているとの前提を考慮すると,それでは物足りません。ポスター発表ではメリハリをつけることが重要です。頭から一字一句そのまま読むのではなく,容易に理解できる部分は説明を省略したり,発表の面白さを強調するためBackgroundを詳しく説明したりして,聴衆のリアクションも加味しつつ,エンターテインメントとしてより多くの情報を織り交ぜてわかりやすくプレゼンしましょう。また,例えば「当院はこの手術メソッドに○○年からこだわってきましたが,新規に○○法を試験導入した結果を本日は供覧させていただきます。まだ導入初期であり,皆さまのご意見を賜れますと幸いです」など,口演発表の会場では言いづらい情報や,意見が欲しい部分に的を絞ったコメントを入れて議論の方向性を操ることもできます。
ここまでの内容を踏まえて,ポスターセッションで避けるべき発表スタイルを4つご紹介します(図)。いずれも①ポスターは小さな論文であることと②観衆に配慮してプレゼンすることを意識すれば回避できますので,図を反面教師にしてポスター発表で観衆を虜にしましょう!
締め切りが早く,修正がきかない
ポスターセッションの注意点は,口演より早めに完成させる必要があることです。データの事前提出が求められる場合は締め切りが口演発表の際より早く,ポスターを持参する場合は事前の印刷準備に時間がかかります。また,一度提出ないし印刷してしまったら後から修正できません。口演発表のように,学会会場でデータを登録する直前まで内容を吟味し続けることはできないのです。加えて,大きな紙や布への印刷は高価です。本番印刷前には必ずA4サイズで試し印刷をして,文字化けや改行ミスが無いかを確認しておきましょう!
ポスター発表の特徴を最大限に生かす
ポスターセッションの強みを最大限に生かして,自分を成長させる糧にする方法を2つご紹介します。
1つ目は「双方向コミュニケーション」。座長や聴衆との距離が口演より近いということは,こちらも話し掛けやすい状況なわけです。相手の質問に答えるばかりでなく,こちらから質問もしてよいはずです。「同じような症例のご経験はありますか?」「先生のご施設ではどのような対策をされていますか?」などなど。一方的な情報提示のみならず,演者も新しい情報を吸収して帰りましょう!
2つ目は「ミニポスターを配る」です。自分のポスターの縮小版(A4サイズ)をあらかじめ何部か印刷しておいて,発表時間前に見に来てくれている方に渡します。携帯電話やスマートフォンで気になるポスターは撮影する時代ですが,ここであえて紙を直接渡すという一見古風な技は効果絶大。受け手は発表に対する熱意を感じて敬意を持ってくれますし,発表中は人影でポスターが見えない……なんて場合にも有用です。発表後はポスターの横に「ご自由にお取りください」とでも書いて置いておけばOKです。その際のポイントは自分のメールアドレスも書いておくこと。後に連絡をもらえれば医師同士の関係性強化につながります。
Take-home Message
☑ ポスターセッションは事前に内容を予習され,発表時の観衆との距離が近い。
☑ ポスターは小さな論文であることを意識して作成する。
☑ プレゼンでは,聴衆のリアクションを加味したエンターテインメントを提供する。
☑ 逆質問とミニポスターの配布で効果的な発表をしよう!
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