医学界新聞

絶対に失敗しない学会発表のコツ

連載 後藤 徹

2021.10.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3440号より

 学会発表の目的は,自分が論じたい内容を正しく伝えることです。「正しく」とは,個々の症例と一般化したエビデンスを,聴く人の役に立つ内容に仕上げることを意味します。1つの発表で伝えたいTake-home Messageは1つが原則です。中でも学会発表の要約である抄録では,1つの絶対的メッセージを軸に肉付けをし,発表の魅力をわずか数百文字に凝縮して相手に伝える技術が必要です。第1回の今回では,どのように発表内容を組み立てて,どう準備していくのかを,一手一手考えていきましょう!

 若手の最初の発表は症例報告が基本です。しかし症例についてカンファレンスのごとく全て書いて,最後に「若干の文献的考察を踏まえ発表する」……で締める抄録では魅力がいまひとつです。

 症例報告は①診断に苦慮した症例,②珍しい症例,③治療や合併症に難渋した症例の3つに大別されます。それぞれどの診断プロセスが重要なのか(①),珍しいだけではなく診断することにどういう意義があるのか(②),合併症にはどのような落とし穴があっていつどんなリカバリーショットが必要なのか(③)を強く主張・警告する必要があります。それが発表者の伝えたいことですから!

 では,具体的な構想はいつから考え始めればよいのでしょうか? 自分の専門が決まっている方は,将来所属する学会ウェブサイトを確認しましょう。どの時期に抄録募集がかかり,締め切りはいつなのか,そこから逆算します。併せて初期研修医や若手医師のアワードセッションがあるかも確認します。優秀演題賞は経歴に箔をつけるよい機会で,若手医師勧誘のために副賞付きのプレゼンの場を設ける学会も増えていますので,ぜひチャレンジしましょう。

 一方で,自発的でなく上司から突然学会発表を勧められ,受け身的に取り組み始める場合もあります。その際,勧められた内容が自分の関心分野と必ずしも一致しない,あるいは打診の時点ですでに抄録の提出期限が迫っているケースもあります。しかしそれも大事な経験の1つ。できるだけ断らず,時間の許す範囲内で準備を整えましょう!

 発表内容は,基本的には自分でClinical Question(臨床の疑問点:「A治療はB治療より成績が良い?」「合併症率の違いは?」など)を設定して研究モデルを書き上げるのが理想です。何かを論じる場合,数例の症例報告では不十分で,統計学的検討が必須です。したがって,同様の過去の学会発表や報告論文では何例の症例が必要だったのか確認し,適応基準は何か,研究デザインは前向きか後ろ向きか,何のデータをアウトカムとするか,データ解析はどの手段を用いるか等を研究開始前に決めておきます。もちろんこれらの研究は,若手一人ではできませんから上司に協力してもらう必要がありますし,倫理委員会の承認を受けることや,データの管理についてのルールも遵守しましょう。

 構想だけで抄録は作れません。症例報告でも1か月,Cohort studyでは集める患者数(N)によりますが,倫理委員会申請等を含めると数か月~1年以上,情報収集に時間を要します。上級医の厳しいチェックが必要な若手の皆さんは,先手で準備を進めましょう。上級医も診療や自身の学会準備で忙しく,締め切り直前に十分な指導は見込めませんから。

 情報収集は発表準備の中で最も大切です。抄録を書く際には患者データとエビデンスの情報全てを集めておきましょう。珍しい疾患の症例報告であれば,国内外における同症例の報告数,患者のバックグラウンド,診断基準,診断プロセス,積極的診断の有無に関する症例報告の論文やレビューを読みあさります。Pubmedで最新の論文を見つければ,後はReferenceから過去の論文が芋づる式にピックアップできます。国内や地域に特有の症例などは,英語検索だけでなく医中誌などで和文報告もきっちり読んでおきましょう。これらは考察作成に直接役に立ちます。

 そして可能であれば論文のFigureが完成した状態での抄録作成が理想です。というのも,中途半端にカルテから情報収集,あるいは途中まで統計処理して抄録を書いてしまう方がいますが,発表前によくよく調べたら該当しなかった,統計結果が変わったという失敗をよく聞くからです。こうなると発表時に訂正する必要がありますし,最悪抄録を撤回しなくてはならない場合もあります。

 また抄録提出後に異動して,発表前のスライド作成時にデータにアクセスできなくなることもあり得ますので,きっちり準備しておきましょう。

 まず,抄録を作る時は「施設の書式」を守りましょう。書式は各医局や施設,指導医によってクセがあります。例えば和文抄録では「。」「、」ではなく「. (半角スペース)」「, (半角スペース)」を使うことが多いです。その他,Nの大文字または小文字,数式の「=イコール」の前に付ける半角スペースの有無やP値の斜体など細かいルールがあるので,指導医の過去の抄録を見てまねして書きます。

 次に,クリアカットな抄録を作るには2つのポイントがあります。1つ目はわかりやすいAbstract title,すなわち読んで内容がわかる体言止めの演題名です。例えば「スパイナルドレナージ併用の胸部ステントグラフト内挿術後に急性硬膜下血腫を生じた1例」。私が初期研修時に優秀賞をもらったこの演題名では,タイトルでオチを悟らせています。他にも「Indication and efficacy of laparoscopic appendectomy for acute appendicitis in our institute」。これは指導した初期研修医の優秀演題賞のタイトルです。一読しただけで同一施設内でCohort studyをして何らかの対照群と比べた検討だろうとピンときます。タイトルが本文を読む重要なきっかけになりますから,しっかり読み手の心を射止めましょう。

 2つ目は黄金比率のAbstract bodyです。最も美しい論理として黄金律理論「目的:方法:結果:結語」=「2:3:4:1」1)をご紹介します。

目的:簡潔に記載された内容
   未だ答えのない新しいテーマ
   1研究1目的の原則に従う
方法:目的の証明に必要な症例・適応・術式・解析
結果:陽性所見(positive data)のデータ化と統計学的検討
結語:首尾一貫した1文の主張

 症例報告では背景(目的),症例提示,結語と3段階になるケースが多いですが,ダラダラと症例提示をしていると思わせないためにも,目的と結語は明確化する必要があります。

 学会発表のセッションにはランクがあり,上級演題()からそれらに該当しない一般演題やポスター発表までさまざまな形態があります。上級演題は若手が思い付きで抄録を書いても通ることは難しいです。なぜなら一部の演者は推薦で決定されており,残された公募枠ではエビデンスレベルが高く,先進的かつ画期的な内容が求められるからです。

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表 学会での上級演題の形態と特徴

 そのため自分の発表内容がどのエビデンスレベルかを把握しておくことが重要です。エビデンスレベルは高い順に,Meta analysis>Randomized control trial(RCT)>Cohort study>Case control study>Case report(症例報告)>Expert opinionとなります()。構想の段階で自分の発表内容のエビデンスレベルは想定できるので,上級演題での発表を狙う場合はCohort studyやCase control studyに挑戦してみましょう。

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図  エビデンスレベルのピラミッド
上級演題での発表を行うためには,よりエビデンスレベルの高い研究が求められる。


1)高山忠利.黄金律.

Toronto General Hospital, Multi-organ Transplant

2011年秋田大医学部卒。医学部在学中に基礎研究内容を国内・国際学会で発表した。初期研修時には内科と外科の学会で優秀演題賞を受賞。外科後期研修においても国内外で積極的に発表を行い,外科同門会の年間全国学会発表数1位をはじめ,日本肝胆膵外科学会U40 Liver sessionで発表。手術ビデオコンテスト優勝など受賞多数。17年より京大院肝胆膵・移植外科に所属し,18年にカナダ・トロント大に留学。21年度より同大病院腹部移植部門クリニカルフェロー。米移植学会ベストポスター,カナダ移植サミットシンポジスト,日本外科学会総会国際シンポジスト等多数経験。
Twitter ID:雑草外科医 @multitransplant

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