医学界新聞

取材記事

2022.03.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3461号より

 漢方医学教育の発展・充実をめざして2017年に設立された日本漢方医学教育振興財団による「漢方医学教育SYMPOSIUM 2022」が2月11日,Web配信形式で開催された。同財団による2018年度漢方医学教育研究助成対象となった7研究の最終報告の他,2021年度漢方医学教育奨励賞・功労賞受賞者の講演,総合討論などが行われた。

 奨励賞を受賞した近畿大東洋医学研究所の武田卓氏は,更年期障害や月経関連疾患に漢方薬が多く処方されている現状を紹介し,女性のヘルスケアにおける漢方の重要性を強調した。氏も作成委員を務めた日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会監修による「産婦人科診療ガイドライン――婦人科外来編2011」では,漢方の内容を多く盛り込み,若手医師の漢方診療教育に寄与したという。今後の展望として,「漢方医学教育を研修医に実施し,全診療科の医師が女性ヘルスケア疾患の初期対応をよりスムーズに担えることをめざしたい」との見解を示した。

 続いて「漢方医学教育には,漢方薬を用いて患者中心の医療を提供できる臨床医の育成が重要」と主張したのは,功労賞を受賞した松田隆秀氏(聖マリアンナ医大)。漢方薬を用いた臨床医の育成には,学修者が①漢方医学の知識と技能,②医療倫理をはじめとする漢方医学の「作法」を修得する必要性があると訴えた。また大学間で漢方医学教育資源の格差が大きい現状を問題視し,解決に向けて全国82の大学医学部が参加する日本漢方医学教育協議会を2015年に立ち上げたと報告。同協議会は医学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,コアカリ)に準拠した漢方医学教育基盤カリキュラムなどを作成したという。今後,同協議会では漢方医学教育でPBLやTBLなどに活用できる教育方略の検討を予定していると語った。

 「医学部における漢方教育の在り方――医学生にわかりやすい漢方教育を目指して」と題した総合討論(座長=高知大病院・瀬尾宏美氏)で瀬尾氏は,「漢方医学の重要性が国内外で増している」と説明した。発言の背景には,2019年に世界保健総会で採択されたICD-11に漢方医学を含む伝統医学の章が初めて収載されたことや,2015年に「医学教育分野別評価基準日本版」(世界医学教育連盟グローバルスタンダード準拠)に「補完医療との接点を持つ」と明記されたことがある。これらを踏まえて,医学生にとってよりわかりやすい漢方教育の在り方を探りたいとした。

 指定講演「漢方教育の課題と展望」では,広島大の蓮沼直子氏がコアカリにおける漢方教育の記載の充実化に注目した。医学教育の到達目標として「和漢薬を概説できる」が2001年に記載され,最新の2016年度のコアカリではより詳細に「漢方医学の特徴や,主な和漢薬(漢方薬)の適応,薬理作用を概説できる」と記載されたという。一方で残る課題として,教え方や評価がコアカリに記載されていない点を指摘し,具体的な学習内容の提示や評価の情報共有が必要だと主張した。追加発言を行ったのは松田氏。卒前教育では全医学部で実施できる漢方医学教育に取り組むこと,卒後教育では専門医制度を通じて漢方専門医の教育をさらに深めることが必要だと述べた。

 全体のまとめとして,日本漢方医学教育振興財団常務理事の三潴忠道氏が,「漢方医学教育の発展に向けて基盤カリキュラムや標準テキストの整備,さらには質を担保した講師の確保が必要」と訴えた。その上で同財団では,漢方医学教育がより充実する環境を整えるための活動を続けるとし,一層の理解と支援を参加者に呼び掛けた。

 2022年度漢方医学教育研究助成,奨励賞・功労賞の募集は5月より行われる予定。詳細は,募集と同時期に財団ウェブサイトにて公開される。

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