医学界新聞

こころが動く医療コミュニケーション

連載 中島 俊

2022.02.21 週刊医学界新聞(通常号):第3458号より

 欧州31か国で79人の家庭医を対象に実施された,医師の価値観に関する2020年の調査1)では,中核的価値として「患者中心のケアの提供」が最も多く挙げられました。その大切さは医療者にとって議論の余地がないものですが,患者中心の医療を医療者が提供できているか,患者さんとのコミュニケーションが適切かなどはどう評価するのでしょうか。本稿ではその測定方法について紹介します。

「どのようなかかわりであれば,『患者さんの立場に立っている』と言えるのか」と医師3年目のAさんは悩み,10年目の先輩医師Bさんに相談する。Bさんは「患者さんの気持ちを想像してみてはどうか」「他の人たちが患者さんと話しているところを見て学ぶのはどうか」と答えるが,より具体的なアドバイスを求めるAさんの反応はいまひとつだ()。

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  先輩医師Bさんに患者との接し方を相談する後輩医師のAさん
Bさんのアドバイスでは,Aさんのコミュニケーションのどの要素が不足しているのかがわからず,具体的な行動変容につなげるのが難しい。

 Aさんのどの要素が不十分かを適切に評価できないと,コミュニケーション力の向上のための具体的なアドバイスにつながらないだけでなく,Bさんの指導力にも疑問符が付きかねません。ではどうすれば“不十分さ”を評価できるのでしょうか?

 医療者―患者とのかかわりを行動観察の手法から定量的に評価する方法2)が,1950年代から開発されてきました。この潮流は行動観察にとどまらず,質問項目に回答してもらう質問紙に基づく評価にまで広がっています。その中で医療者の共感力や医療者―患者間の相互作用,患者中心のかかわりなどの多様な側面を測定するさまざまな評価尺度が作られ,特定の構成概念を測定する尺度についての系統的レビュー3)も実施されています。

 先述の通り,医療者のコミュニケーションの質を定量化して「可視化」する方法には,行動観察と質問紙があります。第三者評価による客観性を担保したい場合は行動観察,主に患者さんの主観的体験を大切にしたい場合は質問紙など,それぞれの目的に応じて使い分けられています。

◆行動観察に基づく評価
 最も主流な測定法が,録音・録画した面接場面の音声や映像を理論的枠組みに基づいて第三者が観察・評価する「コーディング・システム」です。このうち代表的なものに,動機づけ面接での医療者のコミュニケーション力などを測定するMotivational Interviewing Treatment Integrity(MITI)4)があります。これは面接の音声を1~2回聞いて全体的なやり取りの特徴を5段階で評価する総合評価と,面接における医療者の行動を集計する行動カウントの2つから構成されています。米ニューメキシコ大内の依存症センターであるCASAAが公開するマニュアル5)では,日本語版MITIが掲載されています。

 その他には,患者中心のコミュニケーションの程度を測定するThe Measure of Patient-Centered Communication(MPCC)6)が挙げられます。これは患者さんと医療者の発言のうち「全人的に理解する」など特定の構成要素に関してコーディングを行うものです。『患者中心の医療の方法(原著第3版)』(Moira Stewart, 他著,葛西龍樹監訳,羊土社,2021年)では,日本語版MPCCが掲載されています。

◆質問紙に基づく評価
 質問紙に基づく評価のうち有名な評価尺度が,診療場面における医療者の共感力を患者さんが評価するThe Consultation and Relational Empathy Measure(CARE Measure)7)です。これは項目数が少なくて使用しやすいこともあり,世界的に活用されています。日本では名大病院総合診療科の研究グループが日本語版CA......

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