医学界新聞

書評

2022.01.31 週刊医学界新聞(通常号):第3455号より

《評者》 自治医大病院教授・麻酔科学・集中治療医学

 『小児と成人のための超音波ガイド下区域麻酔図解マニュアル』。書籍のタイトル自体で,「小児」が「成人」より大きく書かれていることがまずユニークだ。平置きで「映える」こと請け合いである。麻酔科領域において,確かに小児の鎮痛は長いことおざなりにされてきた。そもそも暴れて泣き叫ぶ小児に,区域麻酔など危なくてできやしない。術中もおとなしくしているはずもない。手術の大小にかかわらず,何か必要があればすぐに全身麻酔。大人なら併用するはずの硬膜外麻酔もなく,戦う武器はせいぜい仙骨ブロックのみ。起きた患児は,創は痛いわ足は動かないわでパニック状態。手術をした後もやっぱり手がつけられない。「母親が1番の薬だよ」と全ては母親に丸投げ……。私自身,恥ずかしながらこういうプラクティスを繰り返し,古くからの悪習を後輩に伝える悪い先輩だったことだろう。しかし,前職の東京慈恵会医科大学で小児麻酔への考えを改めさせられた。JPOPS(Jikei Post-Operative acute Pain Service)という術後疼痛管理チームが術後痛のプロトコールを決め,小児でも胸部や腰部の硬膜外を実施し,区域麻酔の補助のあるなしにかかわらず,薬をタイトレーションして覚醒させ,抜管後にスヤスヤと過ごすわが子を母親がそばの椅子に座って見守る風景が当たり前の術場回復室(PACU:Post-Anesthesia Care Unit)。もし子どもが泣いていようものなら「なんで泣いてんだ!?」とU主任教授が怒り心頭でやってくる。それ以来,小児事例が当たると,わが子の麻酔と思って他のスタッフと同じような穏やかな目覚めを提供できないかを考えるようになった。

 現在,鏡視下手術全盛期を迎え,硬膜外に代わり,超音波ガイド下区域麻酔がシェアを拡大している。私は成人で行う程度で小児に関してはまだまだ未熟者だが,そもそも小児の体は水分に富み,しかも深度が浅いので成人と比べても超音波の通りがよく,画質もはるかによいので,神経ブロックのよい適応のはずである。なるほど,本書内に盛り込まれた成人と小児の超音波図譜,カラフルな解剖解説や実施体位を見ると,「ね,あなたも小児でやってみない?」と誘われる気分になる。これまで,小児の神経ブロックを解説した書籍はほとんど皆無である。第3版になるまでインドで眠っていたこの書籍を日本に知らしめた中島芳樹先生,上村明先生のご慧眼に感服する。さらには,小児の鎮痛のことは成人よりも大きく取り上げられてしかるべきだと考えてか,原書ではChildren&Adultsという同じ文字サイズのタイトルを訳すに当たり,小児の文字サイズをあえて大きくした医学書院の英断にも敬意を表したい(次回は背表紙の文字も……)。なお,書籍の最後には近年流行りの気道・肺・胃といった麻酔科医に関連深いpoint of care ultrasoundの掲載もある。手元に置いておきたい相棒といえる一冊である。


《評者》 千里リハビリテーション病院副院長

 本稿執筆時点で,本書が出版されて半年が経ちました。本来ならば,出版後まもなく書評を書かせていただくべきところですが,ここまで延びてしまったことをお詫びしなければならないと思います。本書『神経システムがわかれば脳卒中リハ戦略が決まる』は,著者である手塚純一先生と増田司先生のこれまでの学びが臨床にどのように反映されているかが,見事に表現されている一冊です。甚だ失礼な言い方ではありますが,「〇〇大学教授」というような重々しい肩書きのないお二人の真摯な取り組みがここに集約されており,しかもこの後の展開が期待できるような一冊になっています。これに感動を覚えない,痺れないセラピストはいないでしょう。そのためにも早く皆様に紹介しなければならなかったのですが,本書の価格とは不釣り合いなほどその内容が重厚であり,一瞬,筆が止まってしまったことを覚えています。

 2014年9月に理化学研究所を研究拠点に「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」が立ち上がりました。多くの方は,脳を局所機能解剖的に学んでこられたのではないかと思います。それはそれで重要なことですが,現在では脳は局所的というよりもいろいろなネットワークを組みながら,システムとして機能していると受け止められています。その全容解明が世界的取り組みとして進められており,これまで多くのシステムが報告されてきました。

 本書では,それらの中からリハビリテーション医療に即生かせそうなものを取り上げて解説しています。ただシステムを理解するだけではなく,その障害が見られたとき,どのような戦略が考えられるかを具体的に提案しています。「戦略」とは,「戦いに勝つための策略・企て」という意味を持ちます。しかし,本書では「戦うことを略して勝つ」という意味の「戦略」を優先して考えていこうとしています。セラピストが無用な戦いを挑んでいる臨床場面をよく見かけます。そうしてしまう原因は,その病態が生じた理由,すなわち脳の中で何が起こっているのかということを理解せず,また活用できそうな残された部分に気付かないまま,患者に挑んでいるからだと思います。

 脳のシステム障害に関して,これほどまでに多くの知識とリハ戦略のヒントをまとめた書籍はありません。日々の臨床の傍らに携えておきたい一冊です。


《評者》 一般社団法人日本作業療法士協会会長

 竹林崇氏らによる『作業で紡ぐ上肢機能アプローチ――作業療法における行動変容を導く機能練習の考えかた』が上梓された。竹林氏や本書編集協力の澤田辰徳氏とは,某紙の対談において作業療法(OT)の「質と量」について議論したが,本書はまさにそれに応える内容であり,臨床家,教育者,学生に多くの示唆を与えてくれると確信している。また,OTの歴史的課題について,「機能に焦点を当てた練習」と「作業に焦点を当てた練習」の二つの信念対立の構造から,利用者中心のEBPに基づく複合的なアプローチを紹介している。

 以下に各章の内容を紹介するが,あらためて,学ぶことの楽しさやその必要性を強く再認識させてくれる良書である。

 「1.作業療法におけるエビデンスと上肢機能に対するEBP」では,基本的なevidence-based practice(EBP)について解説し,また上肢機能アプローチを網羅的に整理している。加えて,対象者中心のコミュニケーション,shared decision making(SDM)model,予後予測などについて論述している。「エビデンスの圧政」についての記述はまさしくその通りと思う。

 「2.作業を用いた上肢機能アプローチ」では,constraint-induced movement therapy(CI療法)について論述している。本書の根幹となるパートで,課題指向型アプローチの理論,メカニズムとEBP,ShapingとTask practice,課題設定と難易度調整,インタラクション,練習環境や課題運営による影響,行動心理学的戦略(Transfer package)および行動契約,モニタリング,複合的アプローチの現在といったことがまとめられている。

 「3.上肢機能に対するアウトカム」では,ゴールドスタンダードと呼ばれるアウトカムが紹介されている。それぞれの臨床において,項目を見直す際の参考となる。

 「4.代表的な上肢機能アプローチ」では,ボバースコンセプト,活動分析アプローチ,認知神経リハビリテーション,促通反復療法などわが国で行われている一般的なアプローチを解説している。竹林氏が述べるように,臨床ではさまざまなアプローチが行われているが,それらを理解し,患者のニーズに合わせた複合的アプローチを行うことが今後の主流となると思われる。

 「5.EBPに焦点を当てた事例報告のまとめかた」では,4章で紹介したおのおののアプローチについて事例が紹介されている。1章から4章までの振り返り,知識の確認と整理という位置付けで,読み込むことでさらに理解が深まる章である。

 本書は一貫して「臨床的視点」「世界の標準」の二軸で編さんされ,それがEBPという切り口でまとめられていることにより,まるで物語を読むように読者を魅了するはずである。また,冒頭にも述べたが,OTの「質と量」が見える化されており,多くの臨床家の悩みに対し光明を見いだしてくれることと思う。さらには,本文の記述に加え各項目の末尾に紹介されている文献も世界のゴールドスタンダードであり,それらを糸口に研さんを積むとよいのではないだろうか。

 最後に,本書が多くの臨床家,教育者,学生の傍らに置かれ活用されることを願っている。


《評者》 筑波メディカルセンター代表理事

 今日,がん医療では治療やケアの進歩に伴い,患者の生存期間が延長し,がんと共生する時代となった。

 わが国におけるがんのリハビリテーションの黎明期は,2002年に静岡県立静岡がんセンターが開院し,リハビリテーション科が設けられたことに始まる。その時の初代部長は,本書の編者の辻哲也先生である。そして,2010年度診療報酬改定で「がん患者リハビリテーション料」が設けられて,これを契機としてがんのリハビリテーションの成長期が始まった。それから6年を経て「がん対策基本法」(2016年改正)第17条に「がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が確保されるようにすること」と定められ,がんのリハビリテーションは法的な根拠を持つようになった。そして,本書初版から10年を経て,この間の臨床と研究の成長を踏まえて,第2版が発刊された。

 さて,本書を手に取ると,編者の視野の広さと目配りの細やかさに驚かされる。私は「マニュアル」というものを,通読する本ではなく,必要に応じて手に取って開くものと思っている。しかし,本書はまず「目次」にしっかり目を通してほしい。第I章は総論,第II章は原発巣別・症状別・ライフステージ別の診療の実際,第III章は緩和ケア主体の時期の診療,について解説されている。臨床の場で実際に困ったり,疑問に思ったりすることがあれば,第II章から拾い読みをするのがよいだろう。例えば,「リンパ浮腫」の項は,疫学に始まり,病態生理,診断,治療とコンパクトにまとまっており,中堅・若手の外科医にはぜひ読んでほしい。

 緩和ケアに関心があり,実際に携わっている者は,第III章を通読することをお勧めする。「患者のQOL」「その人らしく生きる」という2つのキーワードは,リハビリテーションと緩和ケアに共通している。そして,リハビリテーションと緩和ケアは,同じ方向を指すベクトルを持っている。患者のQOLは言うまでもなく「主観的」「多次元的」であるが,「その人らしく生きる」ということは,「個別性」を尊重し,「多様性」を認めることである。そして,時間の限られたこの時期にあっては,患者の希望と要望をしっかり受け止めて,それをかなえるために多職種チームによるアプローチが必要不可欠である。

 最後に「ケース紹介」と「付録動画」について触れておきたい。本書の第II章では各節ごとに事例(ケース)の紹介がある。この間の臨床の積み重ねが生かされており,臨床実践の実際がイメージできるようになっている。さらに,さまざまな技法について動画を用いた学習ができるように配慮されている。動画視聴もぜひお勧めする。


《評者》 横市大大学院教授・研究デザイン学

 本書の著者・辻本哲郎先生は,私が国立国際医療研究センターに勤めていた頃の同僚で,『Diabetes Care』『Hypertension』をはじめとする,一流誌に多数の論文を発表し続けている臨床研究のトップランナーの一人です。

 どうすれば,辻本先生のようにハイペースで,かつインパクトのある論文を執筆できるのか,いつかこっそり教えていただきたいと思っておりました。本書は,臨床研究の論文作成を究めた辻本先生による秘伝の書となっており,論文を書くためのイロハと,良い雑誌に採択されるための秘訣がちりばめられています。

 さらに,論文作成の方法だけではなく,

・リサーチクエスチョンは最重要かつ最難関
・徹底的な論文検索が不十分だと,最終的に論文にすることが困難
・PECOを意識した研究の具体化が重要
・新規性,臨床的重要性,実現可能性を考慮する

など,臨床研究を進めるための勘所も書かれていて,これから臨床研究を始める方にオススメの一冊です。

 大学院教員の立場としては,本書を読んで,大学院に通わずに論文作成できる研究者が増えてしまいそうで困ってしまいます。臨床研究の論文を書きたいと思っている臨床医や医療職の方々は,この本を読んで,ぜひ臨床研究を始めてみてはいかがでしょうか?


《評者》 慶大名誉教授

 頭痛の診療ガイドラインは,2002年に『慢性頭痛治療ガイドライン2002』として初版が発刊されて以来,わが国の頭痛診療の標準化に大きな役割を果たしてきた。今回,2013年の改訂版『慢性頭痛の診療ガイドライン2013』から大幅な改訂がなされ,また,タイトルも『頭痛の診療ガイドライン2021』として関連学会が共同監修したもので,まさに頭痛診療を全て網羅した大作である。これを主導した先生方のご努力は大変なものであったと思うが,その御功績に盛大なる拍手をお送りしたい。

 今回のガイドラインは,『Minds診療ガイドライン作成の手引き』2014年版に準拠して作成され,一部のクリニカルクエスチョン(CQ)では患者さんやメディカルスタッフが参加するGRADEシステムが導入された。また,二次性頭痛の項目が新たに加えられ,この数年間で飛躍的な進歩を見せた抗CGRP抗体や抗CGRP受容体抗体などによる最新治療までも触れられている。最新の手法を取り入れ,最新のエビデンスに基づいて,頭痛診療の広範な領域を包含し,丁寧なCQによって構成された,素晴らしい診療ガイドラインである。

 驚いたのは,そのCQの内容の豊富さである。通常のガイドラインであれば,診断,評価,治療などが中心に構成されるところであるが,本ガイドラインにおいては,疫学,病態,医療体制,患者指導など,まさに診療の現場で患者さんやその家族から投げかけられる疑問に答える内容となっている。各CQに対して,推奨は,太線内に簡潔にまとめられ,その背景・目的と,解説・エビデンスに続き,検索式・参考にした2次資料が掲載されている。興味のある読者はエビデンス構築の基となった資料に容易にアクセスでき,大変便利で統一された紙面である。さらに,本文473ページにも及ぶ大部であるが,巻末には,英文と和文の索引があり,目的とする項目に素早くたどり着ける工夫がなされており,診療現場で大きな力を発揮すると思われる。同時に,医学教育的な価値も大変高く,頭痛の専門診療のみならず,幅広い分野の日常診療,医師以外のメディカルスタッフや行政の場など,さまざまな場面で本書を活用していただければ幸いである。


《評者》 京大大学院教授・人間健康科学

 「本当の骨格筋をまだ誰も知らない」という刺激的な帯のついた坂井建雄先生と加藤公太先生の共著である解剖学書『人体の骨格筋 上肢』が出版された。坂井先生は,私が最も信頼し,手に取ることの多い解剖学書である『プロメテウス解剖学アトラス』の監訳者でもある。

 本書には,これまでの解剖学書では例のない全ての上肢筋の単離筋標本の写真が掲載されており,骨格筋そのものの構造が非常によくわかる。単離筋標本とすることにより,骨格筋の構造を起始から停止まで観察することができ,起始腱や筋束のねじれなどの詳細が明確に示されている。この単離筋標本は,健全な1体の解剖体から加藤先生が作製されたそうである。大変な苦労と時間をかけて作製されたと思われるが,非常に良質の単離筋標本である。

 この単離筋標本を作製するに当たって,分離不可能と思われていた共通腱を持つ筋であっても,腱組織は筋ごとに分離できたと記載されている。また隣接する筋と癒着していると言われている筋さえもうまく分離できたということであり,全ての骨格筋が完全に分離可能ということは衝撃的でもある。また,単離筋標本から判明した「起始・停止面の対立の原則」や「筋線維長一定の法則」など,これまでの解剖学書を超えるような興味深い記述もある。単離筋標本だけでなくCT画像から再構築された立体再構築像が掲載されていることも本書の大きな特徴である。これにより各筋の三次元的な形状と骨との位置関係がよくわかる。

 本書では,各筋に対して3つの記載がされている。まず,解剖学書として必須の解剖写真と模式図による筋の全体像が記載されている。次に本書の特徴である単離筋標本の詳細な画像とこの標本からの所見を基にした筋の形状,起始・停止端の構造,筋束の配置の記述が詳しくされており,非常に興味深い。さらに筋の構造からみた機能特性として,筋長,筋線維長,PCSA(生理学断面積)比率,モーメントアームなどが記載されており,筋の運動学としての興味深い情報が記載されている。

 著者があとがきで書かれている「解剖学が人体の構造を全て解き明かした『過去の学問』ではないこと,新しい知見をもたらすのが細胞や分子といったミクロの解剖学だけではないこと」という言葉が非常に印象に残った。

 骨格筋を扱う多くの医学関係者が本書を手に取り,新しい発見を体験されることを期待する。

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