がんのリハビリテーションマニュアル 第2版
周術期から緩和ケアまで
保険収載から約10年。がんリハはここまで進化した!
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がんリハ第一人者らによる実践書,待望の改訂版。各種がんについて,原発巣,症状,ライフステージに応じてその概要から実際のリハアプローチ方法にいたるまで,臨床のエキスパートがわかりやすく解説する。第2版では,症例/ケース紹介,訓練・手技等がみてすぐわかる「付録動画」を新たに33本収載し,さらに充実した内容に。がんリハに携わる全ての職種必携の一冊。
編著 | 辻 哲也 |
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発行 | 2021年09月判型:B5頁:436 |
ISBN | 978-4-260-04643-5 |
定価 | 5,500円 (本体5,000円+税) |
更新情報
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2022.05.02
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2021.10.12
- 序文
- 目次
- 書評
- 付録・特典
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序文
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序
近年,悪性腫瘍(がん)は疾病対策上の最重要課題として対策が進められ,がんが“不治の病”であった時代から,“がんと共存”する時代に様相が変わりつつあります.がん患者にとっては,病としてのがんに対する不安に加え,がんの直接的影響や手術・薬物療法・放射線療法などによる「身体障害に対する不安」も同じように大きいものです.がん患者が,がんの経過に合わせた最適な治療やケアを受けるためには,さまざまな職種による,“多職種チーム医療”を展開し,治癒を目指した治療からQOLを重視したケアまで切れ目のない支援体制を確立していく必要があります.また,近年のめざましいがん医療の進歩とともに,障害の軽減,運動機能や生活機能の低下予防・改善,介護予防などを目的としたリハビリテーション診療の必要性は,今後さらに増していくと考えられます.
“がんのリハビリテーション診療”には,がん医療全般の知識が必要とされると同時に,運動麻痺,摂食嚥下障害,浮腫,呼吸障害,骨折,切断,精神心理など,がん患者に起こり得る障害や問題に対する高い専門的知識が要求されます.そこで,実践的な入門書として本書を企画し,第一線でがん医療やリハビリテーション医療に携わっておられる先生方にご執筆いただき,2011年に初版が刊行されました.おかげさまで多くの方々にご愛読いただき,2018年には韓国語版も刊行されました.
初版から10年が経過し,この間,がんのリハビリテーション医療は,医療行政や人材育成,学術面ともに,大きな発展を遂げてきました.そこで,第2版では,初版の内容を大きく刷新し,がん悪液質などの症状やライフステージに応じたトピックスを新たに章立てしました.また,新しい試みとして,動画による説明も導入し,より実践的な内容になるように工夫をしました.科学的なエビデンスに基づいたup-to-dateな内容を盛り込みつつ,執筆陣の豊富な臨床経験から培われた内容が満載されており,がん医療に携わる医師,看護師,薬剤師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,管理栄養士,歯科衛生士,臨床心理士,介護福祉士,医療ソーシャルワーカーなどのメディカルスタッフの日々の臨床の入門書・実践書として,お役に立てるものと自負しています.
本書が,がん医療の質の向上に貢献し,がんサバイバーのQOL向上の一助となることを期待しています.
2021年8月
辻 哲也
目次
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序章 悪性腫瘍(がん)のリハビリテーション診療――過去から未来へ
I がんのリハビリテーション診療総論
1 がんの基礎的理解
2 がんのリハビリテーション診療の概要
II がんのリハビリテーション診療の実際
原発巣別
1 脳腫瘍
1 脳腫瘍の特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
2 頭頚部がん
1 頭頚部がんの特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
3 肺がん
1 肺がんの特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
4 消化器がん
1 消化器がんの特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
5 乳がん
1 乳がんの特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
6 婦人科がん
1 婦人科がんの特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
7 泌尿器がん
1 泌尿器がんの特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
8 原発性骨・軟部腫瘍,脊髄腫瘍
1 原発性骨・軟部腫瘍,脊髄腫瘍の特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
9 造血器悪性腫瘍
1 造血器悪性腫瘍の特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
症状別
1 リンパ浮腫
1 リンパ浮腫の診断・発症予防・治療の概要
2 リンパ浮腫へのアプローチ
2 がん悪液質
1 がん悪液質の特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーション診療(運動と栄養)
3 リハビリテーションアプローチ
3 転移性骨腫瘍
1 転移性骨腫瘍の特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
ライフステージ別
1 小児,AYA世代
1 特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
2 働く世代
1 特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
3 高齢者
1 特徴・診療・リハビリテーション診療の概要
2 リハビリテーションアプローチ
III 緩和ケア主体の時期のリハビリテーション診療
1 リハビリテーション診療の概要
2 がん疼痛
3 呼吸困難
4 精神心理的問題(こころのケア)
5 日常生活動作(ADL)障害
6 緩和ケアチーム・緩和ケア病棟におけるリハビリテーション療法士の役割
索引
書評
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目配りの利いた編集と実践的な内容満載のマニュアル
書評者:志真 泰夫(筑波メディカルセンター代表理事)
今日,がん医療では治療やケアの進歩に伴い,患者の生存期間が延長し,がんと共生する時代となった。
わが国におけるがんのリハビリテーションの黎明期は,2002年に静岡県立静岡がんセンターが開院し,リハビリテーション科が設けられたことに始まる。その時の初代部長は,本書の編者の辻哲也先生である。そして,2010年度診療報酬改定で「がん患者リハビリテーション料」が設けられて,これを契機としてがんのリハビリテーションの成長期が始まった。それから4年を経て「がん対策基本法」(2016年改正)第17条に「がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が確保されるようにすること」と定められ,がんのリハビリテーションは法的な根拠を持つようになった。そして,本書初版から10年を経て,この間の臨床と研究の成長を踏まえて,第2版が発刊された。
さて,本書を手に取ると,編者の視野の広さと目配りの細やかさに驚かされる。私は「マニュアル」というものを通読する本ではなく,必要に応じて手に取って開くものと思っている。しかし,本書はまず「目次」にしっかり目を通してほしい。第I章は総論,第II章は原発巣別・症状別・ライフステージ別の診療の実際,第III章は緩和ケア主体の時期の診療,について解説されている。臨床の場で実際に困ったり,疑問に思ったりすることがあれば,第II章から拾い読みをするのがよいだろう。例えば,「リンパ浮腫」の項は,疫学に始まり,病態生理,診断,治療とコンパクトにまとまっており,中堅・若手の外科医にはぜひ読んでほしい。
緩和ケアに関心があり,実際に携わっている者は,第III章を通読することをお勧めする。「患者のQOL」,「その人らしく生きる」という2つのキーワードは,リハビリテーションと緩和ケアに共通している。そして,リハビリテーションと緩和ケアは,同じ方向を指すベクトルを持っている。患者のQOLは言うまでもなく「主観的」,「多次元的」であるが,「その人らしく生きる」ということは,「個別性」を尊重し,「多様性」を認めることである。そして,時間の限られたこの時期にあっては,患者の希望と要望をしっかり受け止めて,それをかなえるために多職種チームによるアプローチが必要不可欠である。
最後に「ケース紹介」と「付録動画」について触れておきたい。本書の第II章では各節ごとに事例(ケース)の紹介がある。この間の臨床の積み重ねが生かされており,臨床実践の実際がイメージできるようになっている。さらに,さまざまな技法について動画を用いた学習ができるように配慮されている。動画視聴もぜひお勧めする。
支持療法の成功モデル,がんリハ――進化とその実践
書評者:田村 和夫(福岡大名誉教授)
2021年9月,本書が発刊された。初版から10年がたち,がん治療の進歩とともに,がんのリハビリテーション(以下,リハ)はエビデンスが蓄積され,標準化が進み改訂に至ったものである。がんに携わる全ての医療者が,がんリハ専門家の指導のもとでがんリハを実践できるように記載された本書をぜひ推薦したい。
評者は半世紀にわたり化学療法の創成期から現在のゲノム医療まで共に歩んだ腫瘍内科医である。当初,がんを治すことをめざし,徹底した治療を行っていた。ある時,精巣腫瘍の高校生を診る機会があり,脱毛がいやで治療に消極的だった彼を説得しシスプラチン併用療法を開始した。悪心・嘔吐(CINV)が強く心身の疲弊から「もう,許してほしい」と懇願され,治療が完遂できなかった。その後,有効な制吐薬が開発されCINVは制御できるようになった。このような支持療法はがん対策推進基本計画の重要な施策の1つに掲げられているとはいえ,系統立った教育,研究,診療が不十分な領域である。
その中でがんリハは,最も成功している非薬物的支持療法である。その理由の1つ目は,リハが病院の診療部門として機能し,その基盤の上にがんリハが導入されたこと。2つ目は2007年度からがんリハの系統だった研修プログラム(CAREER)が開始され,2010年度にがんリハ料が診療報酬上で算定可能となったことである。各施設のがん診療チームが本研修を終了していることが算定の要件となっていて,がん診療連携拠点病院のほぼ全ての施設でがんリハが導入されている。
本書は,辻哲也先生をはじめ執筆者の多くがCAREER研修の運営にかかわり,豊富ながんリハの経験をもとに記載されており,「マニュアル」にふさわしい内容となっている。まず,がんリハに必要な基礎的な知識が得られるようがんの病態・治療,リハ診療の概要の記載から始まる(第I章)。その後,具体的ながんリハに入り,各節(原発巣,症状,ライフステージ別)の冒頭に「ここがポイント」⇒診療の概要⇒リハのアプローチ⇒ケース紹介と系統立って記載されている(第II章)。経験の少ないセラピストも自信を持って治療に当たることができる内容である。さらに基本的な技術に関するWeb動画33編が閲覧でき,それを利用して日常診療の中でアドバイスができる。
がん罹患者の多くは高齢者であり,サルコペニアや心身の脆弱例ではがん治療が十分にできず,まさに「がんと共生」することになる。また上記,精巣腫瘍の例のようにAYA世代は成人とは異なるアプローチが要る。本書ではこれらライフステージに応じたリハ,またがん悪液質,緩和ケア中心の患者のリハにも果敢にチャレンジしている。今後,外来がんリハ保険適用獲得のための有用性の検証,さらにはがんの軌跡(trajectory)に応じて対応できるような人材育成と体制づくりを期待したい。本書はその基盤となる包括的な実践書であり,病棟・外来に置いてぜひ参考にしていただきたい。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。