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『百症例式 胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス』より

連載 拡大内視鏡×病理対比診断研究会 アトラス作成委員会

2021.10.22

 

拡大内視鏡の登場・普及に伴い,これまで見えなかった所見が可視化され,臨床医であっても病理組織学的な所見をより一層意識した読影力が求められるようになってきました。この力を身に付けるため,好評書『百症例式 早期胃癌・早期食道癌 内視鏡拾い上げ徹底トレーニング』の第2弾として編まれたのが『百症例式 胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス』です。医学界新聞プラスでは本書の中から3回にわたって内容を抜粋。連載第3回目には,「『百症例式』トレーニング」と題した読影力を鍛えるコーナーもあります。ぜひ最後までご覧ください。

通常観察(白色光)

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図1

    通常内視鏡像(遠景像)

    胃粘膜には萎縮を認めないことから,H.pylori未感染胃と判断した.胃体中部前壁に10mm大の発赤調の隆起性病変を認めた(図1).

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図2

    通常内視鏡像(近接像)

    隆起の立ち上がりは急峻で,病変の境界は明瞭であった.隆起の頂部は浅く陥凹し,凹凸不整であった(図2).

IEE観察

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図3

    NBI拡大内視鏡像

    NBI拡大観察では,背景粘膜はsmall round pitを認めることから,萎縮のない胃底腺粘膜と考えられた(図3a).病変部は腫大した絨毛様構造が観察された(図3a,b). 拡大率を上げて観察すると病変辺縁部ではwhite zone(WZ)の幅が均一で構造の不整は乏しかったが,中心部ではWZが不鮮明となり,構造の不整も認めた(図3c,d).拡大観察では大部分で構造不整が乏しく,構造不整を認める領域との境界も不明瞭であったため,上皮性腫瘍と診断することは困難であった. 生検病理診断はGroup 2で,確定診断することはできなかった.背景粘膜や拡大内視鏡所見から低異型度分化型胃癌(胃腺窩上皮型)を疑い,診断的治療目的でESDを行う方針となった.

マーキング・切除標本・病理組織像

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図4

    マーキング画像と固定切除標本

    マーキング施行後,ESDにて一括切除し,マーキングの位置で内視鏡像と切除標本の位置合わせを行った.固定切除標本では大きさ12×8mmの不整形隆起性病変で,病変の中央部は不整形陥凹を呈していた.

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図5

    ピオクタニン染色標本

    病変の辺縁部は不整の乏しい絨毛様構造であったが,中心部では構造の不整を認めた.

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図6,7

    切り出し図と病変部のルーペ像

    代表切片の病理(#5)
    萎縮のない胃底腺粘膜を背景に,類円形の小型核と独特な赤紫調を示す胞体を持つ細胞(MUC5AC-, MUC6+, pepsinogen Ⅰ+)が,腺管を密に形成しながら増生していた.辺縁部では同腺管は粘膜の中層と深層を主体に進展して表層の非腫瘍粘膜成分を押し上げ,明瞭な立ち上がりを示す隆起性病変を形成していた(図7,8).病変の中央部は炎症細胞浸潤が目立ち,上皮の表層が菲薄化していた.


    図8

    また同部では粘液性の胞体を有する異型細胞(MUC5AC+,MUC6−,pepsinogen Ⅰ−)が不整な腺管を形成し,表面に開口し(図9),赤みを帯びた胞体を持つ細胞(H/K ATPase+)も混じっていた.これらの細胞は異型が弱く,腫瘍は粘膜内に限局し,脈管侵襲像も観察されなかった(図10).MIB-1に陽性を示す腫瘍細胞はまばらに分布しており,標識率はhot spotで約5%と低値であった(図10).以上の所見より,悪性度の低いタイプの胃底腺粘膜型胃癌(0-Ⅱa+Ⅱc,12×8mm,pT1a,Ly0,V0,pHM0,pVM0)と診断した.癌の周囲には数個の胃底腺ポリープも認めた.


    図9


    図10

マッピング像と内視鏡像,病理組織像の対比

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図11

    マッピング

    隆起に一致して癌を認めたが,辺縁では癌が表面に開口せずに発育していた.中央部は主に腺窩上皮への分化を示す癌腺管が表面に開口していた(図11).

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図12
―― 癌が表面に開口せずに発育,―― 癌が表面に開口.
腺窩上皮細胞への分化を示す癌腺管が表面に開口,胃底腺細胞への分化を示す癌腺管が表面に開口.
矢印はメルクマークとなる溝.同色の矢印がそれぞれ対応している.

    内視鏡像と病理組織像の対比

    内視鏡像と病理組織像の対比は切除標本と内視鏡像を見比べ,それぞれ対応する部分を同定することで行った.対比を基に内視鏡像に仮想の割線を入れた(図12,白点線).病変辺縁の構造不整が乏しい領域は表層が非腫瘍の領域に対応し,病変中央の軽度の構造不整を伴う領域は炎症細胞浸潤を伴って癌が表面に開口している領域に対応した.表層の癌腺管は図12の矢頭で,その領域は狭いため,中央部のNBI拡大所見は主に炎症を伴う非腫瘍上皮の像と考えられた.

最終病理学的診断

胃底腺粘膜型胃癌,Type 0-Ⅱa+Ⅱc,12×8mm,pT1a(M),Ly0,V0,pHM0,pVM0

この症例のポイント

H. pylori未感染胃を背景とする胃底腺粘膜型胃癌の1例を経験した.NBI拡大観察で構造不整が乏しい領域は表層が非腫瘍の領域,構造不整を伴う領域は癌の開口部に対応していたが,開口した癌腺管が少ないため,この所見から癌と診断することは困難であると考えられた.本疾患の内視鏡診断は背景粘膜,通常光観察も含め,総合的に判断する必要があると考えられた.

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