こころが動く医療コミュニケーション
[第14回] チェックリストを活用してコミュニケーションを促す
連載 中島 俊
2021.12.20 週刊医学界新聞(通常号):第3450号より
患者さんの生活をより良いものにするのは,医薬品や医療技術の進歩に限りません。「コミュニケーション」をチェック項目に加えたチェックリストによっても,医療の質は改善可能です。本稿では,医療におけるチェックリスト活用の研究を通じて,医療者がこれを臨床現場に取り入れる有用性についてご紹介します。
CASE
総合病院勤務1年目の医療者Bさんは,5年目の先輩Aさんから,来週開催される地域ケア会議の資料を作成してほしいこと,完成したら確認させてほしいことの2点を伝えられた。Bさんは前日に資料を完成させた。しかしAさんは多忙そうであり,Bさんは確認の依頼ができずに会議当日を迎えた。当日の朝,なんと資料にC先生の確認が必要であると発覚。C先生は出張で不在であるため資料を確認してもらうことができず,BさんはAさんに「なぜもっと早く言わないのか」と叱られてしまった(図)。

医療現場ではコミュニケーション不足に起因して,CASEのような会議資料の不備のトラブルから人命にかかわる重大な医療事故まで,さまざまなレベルの問題が発生し得ます。ではこれらの発生を防ぐためには,どのような工夫ができるのでしょうか。
チェックリストの有効活用で得られるさまざまな効果
1つにはチェックリストの活用が考えられます。これによりチームワークが高まったり,患者さんの安全性が向上したりすると報告されています1)。WHOが2009年に出版した「WHO Guidelines for Safe Surgery 2009」(以下,WHOガイドライン)では,安全な手術のためのチェックリストを提示しています2)。その上で手術におけるチェックリスト活用のメリットとして,①変化が激しく多くの点に気を配るべき状況の患者さんにおいて,見過ごされやすいささいな問題の確認に役立つこと,②複雑なプロセスにおいて最低限必要な手順を可視化できることなどを挙げています2)。ある研究では,手術の際にこのチェックリストを導入することで,手術に関連した死亡率と合併症の発症率が導入前に比べて低下したと報告されています3)。また「石けんで手を洗う」「マスクや滅菌ガウン,滅菌手袋を付けてカテーテルを挿入する」など単純な確認事項のチェックリストを用いるだけでも,中心静脈カテーテル留置における合併症が発症する割合が減少したと示されています4)。
チェックリストの活用は,医療者同士のコミュニケーションを増やすことにもつながります。手術の困難さや医療者のスキルなどに加えて医療チームのコミュニケーション不足が手術の結果にかかわる要因と考えられており5),改善が求められます。ではなぜコミュニケーション不足が生じるのでしょうか? これには仕事の忙しさや,職種や経験年数などのヒエラルキー構造が関係しています。このような場合における医療者同士のコミュニケーションの難しさは,連載第13回で述べた通りです。重要なのは,医療者個人のコミュニケーション能力に原因を求めるのではなく,忙しさやヒエラルキー構造に左右されずにコミュニケーションを促す項目をチェックリストに取り入れることです。これによりコミュニケーション不足に起因する医療事故の発生を防ぎ得るのです。複数の研究から,忙しい医師がすぐに手術を開始せずに,術前ブリーフィングなどを通じてスタッフ間で手術の目的や困難さを共有することが,ミスを減らして患者さんの予後......
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