医学界新聞

こころが動く医療コミュニケーション

連載 中島 俊

2021.11.15 週刊医学界新聞(通常号):第3445号より

 コミュニケーションを円滑に行うためには,ただ相手の話を聴くだけでなく,自分の意見を伝えることが大切です。医療者同士のやり取りでは特に,お互いが思っていることを言わなければ,意思疎通が阻害されて医療事故の発生につながる場合もあります。とはいえ,あまりにも自分の意見を主張しすぎると攻撃的な言い方になってしまい,関係性の悪化を招きかねません。本稿では,自分の気持ちや考えについて角を立てずに表現する方法をご紹介します。

新人看護師Aさんは病棟勤務2か月目。先日点滴に失敗してしまい,一人で行うことに苦手意識を持っている。ある日,主任看護師Bさんに患者Cさんの点滴を依頼されたが自信がない。そのため,できれば今回だけ点滴業務を代わってほしいとBさんに伝えたいが,うまく言語化できずに悩んでいる。

 自己表現のスタイルは1)に示すように,ノンアサーティブ(非主張型),アサーティブ(主張型),アグレッシブ(攻撃型)の3つに分類されます。図1はCASEに基づく新人看護師Aさんと主任看護師Bさんの会話を示しています。Aさんは依頼された点滴業務に不安を感じているものの,それをBさんに伝えられていません。そのため現在の能力以上の業務を請け負ってしまっています。Aさんの消極的な自己表現のスタイルは,ノンアサーティブに分類されます。ではBさんのスタイルはどうでしょうか。Bさんは,Aさんが早く仕事を覚えて戦力になることを期待して点滴業務を依頼しています。しかし「そろそろ戦力として働いてもらわないといけない」という有無を言わせないコミュニケーションや,新人と主任という関係性も相まって,図1の会話ではAさんが意見を述べる余地がありません。そのためBさんの自己表現のスタイルは,アグレッシブに分類されます。

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表 自己表現の3つのスタイル(文献1をもとに作成)
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図1  自分の意見をうまく言えない新人看護師Aさんと,主任看護師Bさんの会話

 ノンアサーティブとアグレッシブの中間に位置する自己表現のスタイルがアサーティブです。アサーティブな自己表現の基本は「自分の意見を主張するだけではなく相手の反応を受け止めること」です。そのためには,①自分の気持ちを確かめる,②正直に言語化してみる,③自分の言葉を受ける相手の表現を大切にする,という3つのプロセスが必要です1)

 ①~③にのっとると,①自分の気持ちを確かめるプロセスでは,連載第2回で紹介した「自分の考え方や感情を客観視するモニタリング」が重要な役割を担います。Aさんの場合は,過去の失敗の不安に加えて,Bさんの気分を害することへの不安も感じているかもしれません。②正直に言語化してみるプロセスは,自分の気持ちや相手への要望を言語化するプロセスです。Aさんの場合は,「Bさんに点滴業務を代わってほしい」という要望を言語化できていません。そのため語尾や自信のなさそうな様子から「察してほしい」という婉曲的なコミュニケーションになり,Bさんに押し切られています。

 では,相手への要望をどう言語化すればよいのでしょうか。③自分の言葉を受ける相手の表現を大切にするプロセスを踏まえた言語化の方法として,DESC法があります2)図2はDESC法にのっとり,Aさんがアサーティブな自己表現をするために活用できるセリフを考えたものです。D(Describe:描写する)では,状況や相手の行動などの客観的な事実を描写し,E(Express, Explain, Empathize:表現する,説明する,共感する)ではDに対する主観的な思いを伝えます。そしてS(Specify:提案する)では相手に望む行動案などを具体的に提案し,C(Choose:選択する)では相手がSで提案した内容を受け入れてくれる場合とそうでない場合に分けて次の対応を提示します。DESC法のポイントは,客観的な事実と主観的な思いを分けて考えること,こちらの提案に対して相手がOKな場合とNGな場合の可能性を考えておくことにあります。

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図2  CASEにおけるDESC法の実践例

 周囲の自己表現がノンアサーティブだと感じる場合,相手のコミュニケーションの問題だけでなく,周りが意見を言いにくい状況をあなたが作っているのかもしれません。例えば新人看護師を対象として,先輩看護師に対してアサーティブになれない要因を調べた研究では,自分の意見や考えを伝えることで人間関係の悪化などのネガティブな結果につながる懸念を多くの新人看護師が持っていると報告されています3)。この状況を改善するために重要な概念が心理的安全性です。米ハーバードビジネススクールのエドモンドソン教授は,チームの心理的安全性を「対人関係にリスクのある行動を取ってもメンバーが互いに安心感を共有できるという信念」と表しています4)。チームの心理的安全性を高めることで,メンバーがリスクを考慮せずに自分の意見を主張できるようになります。

 もしあなたが「同僚が自分の意見を言わないことで業務に支障が出ている」と感じているならば,ノンアサーティブな同僚にコミュニケーションの変化を求める前に,職場における心理的安全性を高める工夫が必要かもしれません。

🖉 相手の権利と自分の権利を尊重したかかわり方が重要である。
🖉 アサーティブな自己表現は,自分も相手も大きなストレスを生じさせにくい。
🖉 心理的安全性が担保されない状況では,ノンアサーティブな自己主張が多くなる。


1)平木典子.アサーション入門――自分も相手も大切にする自己表現法.講談社;2012.
2)平木典子.三訂版 アサーション・トレーニング――さわやかな〈自己表現〉のために.日本・精神技術研究所;2021.
3)鈴木英子,他.新卒看護師が先輩看護師に対してアサーティブになれない状況とその理由.日看管理会誌.2014;18(1):36-46
4)Edmondson A. Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly. 1999;44(2):350-83.

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