痛み研究の増進に向けて
日本痛み関連学会連合発足記念シンポジウムの話題から
取材記事
2021.11.01 週刊医学界新聞(通常号):第3443号より
国際疼痛学会(IASP)により1979年に定められた痛みの定義が,2020年7月,41年ぶりに改定された。同学会の動向を受け,近年痛みに関する新しい用語・概念の提唱が続き,痛みの診療にかかわる多くの医療職からの注目を集めている。その要因の一つには,医療技術の進歩に伴い,これまで未解明であった痛みのメカニズムについての科学的理解が進んだ点が挙げられる。
本邦における痛み研究のさらなる増進に向け,2020年12月に日本痛み関連学会連合が発足した。同連合は,広く痛みに関する医療者・研究者の交流を主な目的に,痛みを伴う疾患の病態や治療に関する研究を行う8学会(註)が連携して運営する。2021年10月2日に,順大(東京都文京区)の会場およびオンライン配信のハイブリッド形式で開催された,同連合の発足記念シンポジウムの様子を報告する。
◆痛みに関する研究促進に向け,3つの役割で貢献する
連合の代表を務める兵庫医大の野口光一氏は,初めに学会連合が必要とされていた経緯を説明した。本邦では,痛みに関する諸研究や課題を発表・討議する場としての役割を,分野ごとに複数存在する学会がそれぞれ担ってきた。しかし患者のQOL向上に向けて痛みに関する研究・臨床への注目度が増す中,医療者・研究者の広域な連携や国との連絡窓口が求められていたという。氏は同連合発足の目的として,①痛みに関する医療者・研究者の交流の促進,②関連学会を代表する連合として国や地域社会への貢献,③国際的な研究機関および組織との連携協力を行う――の3点を強調した。
シンポジウム後半に登壇した加藤総夫氏(慈恵医大)は,自身が委員長を務める同連合の用語委員会の活動を紹介。本学会連合の最初の成果として,IASPが2016年に提唱した「nociplastic pain」の日本語訳を「痛覚変調性疼痛」に決定したことを発表した。「nociplastic pain」は侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛に続き,痛みの機構的記述に関する第3の分類となる新語で,日本語訳が求められていたと振り返った。一般市民でもわかりやすく,同時に専門用語としての厳密性も有する訳語をめざして検討を重ねた経緯を説明し,「今後も痛みに関する用語について,意見や提案を歓迎している」と講演を結んだ。
本シンポジウムではこの他,慢性疼痛患者の治療に当たる花岡一雄氏(JR東京総合病院名誉院長),運動療法と脳機能改善の関係について研究を続ける仙波恵美子氏(大阪行岡医療大)による記念講演や,矢吹省司氏(福島医大)による『慢性疼痛診療ガイドライン』(真興交易)発刊についての報告が行われた。
註:日本疼痛学会,日本ペインクリニック学会,日本慢性疼痛学会,日本腰痛学会,日本運動器疼痛学会,日本口腔顔面痛学会,日本ペインリハビリテーション学会,日本頭痛学会。
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