病院総合診療医のキャリアをどう描く
志水 太郎氏に聞く
インタビュー 志水 太郎,緒方 理子,中川 暁子
2021.10.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3440号より

総合診療専門医のサブスペシャルティ研修として,日本病院総合診療医学会が主導する「病院総合診療専門医プログラム」が2022年4月にスタートする。2018年度に総合診療専門医制度が始まって4年。これまで未定だった,総合診療専門医研修を修了した後のサブスペシャルティが明示された(図)。
これを受け総合診療医を志望する医学生や研修医は,病院総合診療医のキャリアをどう描けるようになるのか。日本病院総合診療医学会理事として病院総合診療専門医プログラムの策定に中心的役割を果たした志水太郎氏に,総合診療医をめざす医学生2人が聞いた。[聞き手=産業医大5年・緒方理子さん,東海大5年・中川暁子さん]
志水 緒方さんと中川さんは総合診療医を志望していると聞いています。
緒方・中川 はい!
緒方 総合診療医の存在を知ったきっかけは高校生の時,志水先生が出演されていたNHKの番組「ドクターG」を見たことです。私が思い描く医師像とぴったりで,「総合診療医になりたい!」と医学部に進学しました。
中川 私は健康問題に困っている身近な人を助けたいと医師を志しました。そこで,患者さんの病気だけでなく,家族や社会的背景まで広く深く診る総合診療医の道に将来進みたいと考えています。
志水 総合診療医として共に働ける日が待ち遠しいですね。お二人のように総合診療医をめざすには,初期研修後に総合診療の専門研修に進むことになります。さらにその先のサブスペシャルティ領域について,新たに「病院総合診療専門医」と「新・家庭医療専門医」の2つの道が用意されています1)。

病院総合診療医の専門性とは
志水 お二人は総合診療医のキャリアを考える上で何か不安はありますか?
緒方 病院総合診療医と家庭医のどちらに進むか,まだ具体的なイメージを持てていないことです。働き方にどのような違いがあるのでしょうか。
志水 両者のアイデンティティは同じです。どちらもBio,Psycho,Social(BPS)の面から臓器横断的に全人的な統合ケアを行います。違いを挙げるなら,病院総合診療医は医療リソースを背景に,診断やマネジメント困難なケースを含め各臓器専門科とも連携して統合ケアを行う点です。BPSでは,セッティングからBioを考える割合が多くなります。
一方家庭医の働く場は,診療所や地域の小規模病院が多いため,後方支援病院や地域資源と連携し,BPSをバランスよく担いながら地域での統合ケアの提供に中心的な役割を果たします。
中川 実際に病院で働く志水先生が考える,病院総合診療医の強みとは何ですか。
志水 強調すべきことの一つとして,これは総合診療全般ですが未分化の問題に強い点が挙げられます。どのような疾患・病態の患者でも断らず,全人的医療を実践するのが総合診療医のマインドです。
特に病院総合診療医は,急性期・慢性期を問わずBioの視点をベースに俯瞰的,横断的に見ながら,あらゆる角度から診断を突き詰めるところに面白さがある。社会医学や精神医学など幅広い視点を交え,自分の持つ知識と経験値を総動員して患者さんのケアに努めます。
中川 総合診療医に興味を持つ医学生の中には救急医を考える人もいます。自分の中でもまだ違いが明確になっていなくて……。決断のポイントはどこにあるでしょうか。
志水 救急外来から病棟管理まで全方位の診療を担いたい意欲があれば病院総合診療医をお勧めします。一次・二次救急やER型救急のように両者が重なる部分もあります。救急で来院される患者さん以外にも,外来や病棟で未分化の問題に広く向き合い,時間経過を追いながら患者さんのケアに連続的に携われるのが病院総合診療医のやりがいを感じる部分です。
病院総合診療のリーダーへの成長を期待
緒方 病院総合診療医には全人的医療の深い理解と高度な実践スキルが求められるのですね。キャリアを考える上で研修先選びのポイントはありますか。
志水 病院総合診療医の育成に熱意のある施設が良いでしょう。研修プログラムを環境に応じて工夫している施設で,かつ尊敬できると思う指導医の下で学ぶのが望ましいです。また,これまでとは規模の違う病院で研修することで,異なるセッティングの現場の上級医からフィードバックを得られるでしょう。
中川 出産などでどうしても臨床現場から離れざるを得ない期間のある女性医師にとって,臨床経験をどう補完すればよいかは心配な点です。
志水 自身やパートナーの出産,育児に伴う産休・育休は,男女問わず医師のキャリアと密接で不可分のテーマですね。
緒方 私も結婚や出産,育児を考えると,キャリアの中断は気掛かりです。
志水 それには総合診療医の働き方が最適になるよう配慮された病院や,サスティナブルな働き方を志向する上級医の有無が勤務先を選ぶ一つの指標になります。例えば,産休・育休に合わせ......
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志水 太郎(しみず・たろう)氏 獨協医科大学総合診療医学講座 主任教授
2005年愛媛大卒,18年より現職。これまで練馬光が丘病院,東京城東病院,現職場の3つの病院にて総合診療部門の立ち上げに関与。日本病院総合診療医学会理事として病院総合診療医専門医制度準備委員会委員長を務める。本制度を軸に,日本の病院総合診療の最適化への貢献をめざす。MPH,MBA,博士(医学)。Diagnosis(DeGruyter)国際編集委員。主な著書に『診断戦略』(医学書院)。
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