看護師に知ってほしい足部の機能と役割
寄稿 園部 俊晴
2021.08.30 週刊医学界新聞(看護号):第3434号より
理学療法士として約30年,私は常に「足」を中心に診てきました。小さな子どもから高齢者まで,老若男女問わず幅広くさまざまな足を診ることができました。さらに,オリンピック選手やプロスポーツ選手など数多くのトップアスリートの診療を経験できたことで,足の機能をより深く知ることができたと感じています。本邦の理学療法士の中でも有数の臨床経験だと自負しています。
臨床経験から,足はどんなに深掘りしても機能の全てをとらえきることのない,どこまでも奥深い器官だと痛感します。これまでの30年は,いつもワクワクする発見の連続でした。今回は,筆者が臨床経験で培った知識の中で,看護師の皆さんにぜひ知ってほしい足部の機能と役割についてお伝えできればと考えています。
「足」が果たすセンサーとしての役割の重要性
私は今まで2万人以上にインソールを作製してきました。これだけの数のインソールを作製してもなお,なぜこれほどまでに足が身体に影響を与えるのだろうと感じます。インソールを施工する過程は常に謎に満ちているのです。
例えば,わずかな厚さのパッド1枚を足底に入れることで立位や身体動作が大きく改善することはよく経験します。さらにそのパッドを外すとたちまち元の状態に戻り,治療者と患者の双方がその場でパッドの必要性を認識できます。この理由として,足底に加えたパッドがその上の身体各部位の動きを物理的に変えているだけでなく,加わった感覚刺激によって変わる要素が大きいと考えています。つまり地面からの刺激に対し,足がセンサーとしての役割を果たしているのです。
特に荷重動作において,この役割は非常に大きいと考えます。例えば長期臥床を強いられた患者が体重をかけ始める時,足のセンサー機能は低下しています。看護師の皆さんは立ち上がりや移乗動作の際,座位や立ち上がるまでの姿勢を評価すると思います。その際「足を置く位置」や「足関節の肢位」が重心を支えられる状態にあるかを併せて確認すると,立ち上がりや移乗動作がより適正に行えるようになるはずです。そのため足への感覚導入が非常に重要であることを,ぜひ知っていただきたいと思います。
足部構造破綻の概念
アーチの低下と回内の相違
看護師の皆さんは,臨床で足や膝,腰の痛みを訴える患者さんに接することも多いのではないでしょうか。その場合,足部の構造破綻(写真1)1)がないか注目してみてください。膝や腰の痛みも,土台となる足に不調があることから生じているのかもしれません。
足部の構造破綻の概念として,筆者は「足部アーチの低下」と「足部回内」を区別しています。俗に言う「扁平足」は正確には前者を示すものの,この2つが混同されることが多いと感じます。
足部アーチの低下は,テント状の足部アーチが沈んでいる状態であり,足部構造が柔軟な足に生じやすい構造破綻です(写真1a)。これは回内(足部が内側に落ちることで,内側に荷重がかかること)の有無とは別の概念としてとらえる必要があります。なぜなら,足部アーチの低下と足部回内では,機能破綻を起こすメカニズムが異なるためです。逆に,足部アーチが低下しないために生じる障害(足部アーチの挙上)もあり,強固な足部構造を持つ足に生じる構造破綻です(写真1b)。
一方足部回内とは,足部アーチの低下の有無にかかわらず,足部全体としての回内の有無を示すもので,あくまでも前額面上で生じる構造破綻です(写真1c)。また回外足は,この逆の構造破綻です(写真1d)。
以上の構造破綻と,それに伴う足部の筋活動や運動などの機能破綻の関係性は,全ての足部・足関節周辺の疾患において重要な概念となります。足部・足関節周辺の多くの疼痛はこの関連性によって生じると言っても過言ではありません。
具体的な例を挙げると,足部アーチの低下による機能破綻は,足底の伸張負荷と足関節背屈が過度になることで多く生じます。反対に足部アーチが高いことで発生する機能破綻は,蹴り出し時に早い離踵による下腿後面の筋の過収縮や前足部の過剰な荷重負荷が加わることで生じる場合が多いです。
翻って足部の回内による機能破綻は,足関節と足部の内側の伸張負荷と外側の圧縮負荷が加わることで多く生じます。一方足部の回外による機能破綻の多くは,足関節と足部の外側の伸張負荷と内側の圧縮負荷,外側の過剰な過重負荷が加わることで生じます。
足部の構造破綻とそれに伴う機能破綻の関係がわかれば,痛みの生じる部位やメカニズムもわかり,患者さんが訴える痛みの評価に役立つでしょう。
足趾の変形を見落とさず機能の維持を
足趾の変形は,患者に痛みがなければ気に留める医療者は多くないかもしれません。しかし足趾も足の役割を考える上では重要です。足趾に変形があれば,身体の土台である足の踏ん張りが悪くなり,身体機能に大きく関係するからです。
足趾の異常としてハンマー趾(写真2a)2)が最も知名度の高いものの,実際にはめったにお目に掛かることはありません。臨床で問題となる異常の多くはクロウ趾です(写真2b)。クロウ趾は,脳血管障害の後遺症としての発症を中心に,よく見受けられる足趾変形です。
クロウ趾やマレット趾のように,足趾のDIP関節(最も遠位にある関節)が屈曲した足趾の使い方では,体重を前に乗せやすくするフィードフォワードの機能が発揮できません。なぜなら,趾の腹で床面をとらえることではじめて,フィードフォワードの機能が発揮されるからです。実際,足趾に機能障害のある症例では,体重をスムーズに前に乗せることができず,歩行が停滞する様子が見てとれます。
足趾は多くの機能を有するものの,臨床ではフィードフォワードの機能が最も重要だと考えます。すなわち,足趾の機能を考える上で,DIP関節が屈曲せず趾の腹で床面をとらえられるようにすることが最も重要な基本と言えます。写真2cに示すようなエクササイズをすると,即座に歩行時の体重が前に乗りやすくなり,安定性も向上します。
他に外反母趾や内反小趾のような変形でも,筋肉の腱がねじれてしまい,踏ん張りが効きにくくなります。これらの足趾変形に出合った際には,趾の間にガーゼを入れるなど工夫をしたり,趾の体操を取り入れ改善を図ったりすると良いでしょう。
*
「足」を中心に診てきた筆者の約30年の臨床経験から,看護師にぜひ知ってほしい「足」の重要な知識を凝縮してお伝えしました。看護師の皆さんの臨床の視野を広げる一助となれば幸いです。
参考文献
1)園部俊晴.歩くと痛い.福井勉(編).エキスパート直伝 運動器の機能破綻はこう診てこう治す[Web動画付].医学書院;2019.pp123-34.
2)園部俊晴.「足」が担う身体のベース機能.理療ジャーナル.2021;55(6):680-4.
園部 俊晴(そのべ・としはる)氏 理学療法士/コンディション・ラボ所長
1991年より関東労災病院リハビリテーション科にて理学療法士として研鑽を積む。2017年にコンディション・ラボを開業し現職。足・膝・股関節など,整形外科領域の下肢障害を専門に,一般からプロアスリートまで数多くの治療を手掛ける。
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