医学界新聞

書評

2021.05.31 週刊医学界新聞(看護号):第3422号より

《評者》 日赤看護大教授・地域・在宅看護学

 本書は,「M-GTA」の全てが体系的に網羅されたテキストで,質的研究を理解するための辞書のような要素も有しています。「はじめに」の項に概要が記述されていますので,以下,木下康仁先生の言葉を拝借しながら,本書の概要と魅力をご紹介いたします。

 「質的研究に期待されている深い解釈と厚い記述,課題とされてきた分析方法の明確化と分析プロセスの明示化,そして,意味の解釈を分析とするときの厳密さの確保と分析結果の実践的活用……M-GTAはこれらに応えようとする研究法として開発されてきた」(p.iii)

 実際に,質的研究を研究手法で用いたことがある方は,誰でも一度はM-GTAを学んだことがあると思います。さらに,M-GTAを研究手法で選択された方は,「深い解釈」と「厚い記述」をめざしながらも思うように分析を進められず,自分自身に対する不甲斐なさに嘆息をもらしたことがあると思います。そして,木下先生の多数の著書を何度も読み直し,それぞれの本のエッセンスをつなぎ合わせながら「分析方法」と「分析プロセス」を探り,木下先生の研究会に参加して「意味解釈の厳密さ」を確保しながら,実践への活用を検討されてきたと思います。このように,時間をかけてやっとM-GTAを自分のものにしてこられた方が多いと思いますが,本書はこれらの努力を大幅にショートカットできるため,多くの研究者にとってはショッキングな内容となっています。M-GTAとは何か? 理論前提をどのようにとらえるとよいか? 研究計画書をどのように記載すればよいのか? 実際の分析をどのように進めるとよいか? など,研究者にとって知りたい全てがこの一冊に記されているだけでなく,読者の傍らで木下先生が伴走してくださるような構成になっているからです。

 「本書は入門書であると同時に質的研究に関する専門書としても成り立つように工夫している」(p.iv)

 「4部構成になっており,Part 1でM-GTAの基本特性と方法論的基盤をオリジナル版GTAとの関係で論じ,Part 2でインタビューデータにおける概念生成から結果図とストーリーラインの作成までの分析方法と分析プロセスを詳しく説明しており,その内容の学習方法として,Part 3でグループワークの仕方を具体的に提案している。最後のPart 4では視点を質的研究全体に広げ,質的データの分析におけるコーディングとは何か,質的研究論文の査読のあり方,そして(中略)批判的実在論との関係から,M-GTAの可能性を検討している」(p.iii)

 本書は,初学者だけでなく研究指導者や教育者も読者対象とされていることから,M-GTAを含む質的研究全体の査読の方法についても丁寧に言及されています(Chapter 12)。さらに,批判的実在論とM-GTAとの関係を考察するChapter 13では,M-GTAのさらなる可能性が客観的に論じられており,「研究者は成長をし続ける存在である」ということを,著者自身が体現されていることを知らしめる終わり方となっています。

 このように本書は,M-GTAを丸ごと理解しながら質的研究の可能性についても思考を拡大できる生きた書籍であり,全ての質的研究者が手元に置いておくべき一冊であると考えます。M-GTAの辞書で実践書,著者の集大成,至れり尽くせりの一冊です。

《評者》 日本訪問看護財団常務理事

 私は四十数年間,飽くことなく訪問看護を追い続けてきました。ナイチンゲールやヘンダーソンの理念をよりどころとしながら,訪問看護こそ看護の原点の実践であり,地域で暮らす人々の健康を守る番人であると。それでも,いまだに「訪問看護の根っこ探し」は続いています。「訪問看護は本当に役に立っていますか?」と後輩から問われると,「在宅療養者を最期まで支えているのは訪問看護師ですよ」と即答しますが,根拠や成果を細かく問われると自信が揺らいでしまうこともしばしばあります。

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