医学界新聞

寄稿 吉村 知哲,大川 龍之介,宮澤 靖,坂元 与志子,齊藤 正昭,佐藤 正惠

2021.05.17 週刊医学界新聞(レジデント号):第3420号より

3420_0101.jpg

 新年度が始まり,早1か月が過ぎました。新研修医の皆さんはオリエンテーションを終え,診断・治療に薬の処方や検査のオーダー,書類作成など,数え切れないほどの業務に日々懸命に取り組んでいることと思います。忙しい日々を送る中で,時には自分1人で判断できない問題に出合うこともあるでしょう。そんな時は,指導医だけでなく院内の他職種の知恵を借りることも大切です。

 そこで今回は,研修医とのかかわりの深い病院各部門の専門家6人に,病院内で活躍する研修医になるための“Tips(ヒント)”を3つずつ伝授してもらいました。


 薬剤師は,処方箋に基づいた調剤,服薬指導だけでなく,「安全性に寄与する」ことを目的とした処方監査が大きな役割となります。その際,適応,用法・用量,相互作用などを確認します。処方に困った際にはまず相談してくださると,「薬剤師からの問い合わせ(疑義照会)」を避けられます。

 最近では,がん,感染制御,精神科,妊婦・授乳婦,HIV感染症,小児,緩和などの専門・認定薬剤師資格を有する薬剤師が増えています。彼らはその領域の薬物療法に関するプロフェッショナルです。副作用や治療選択に関する知識を豊富に持ち合わせています。自施設の専門・認定薬剤師の存在をチェックしておき,相談するとよいでしょう。「当院では〇〇のように処方することが多いです」など,裏情報が手に入るかもしれません。

 医師によって処方の好みがあるように,先生方もいずれご自身の薬剤選択の基準が定まってくるはずです。経験を積むと,「この程度の処方なら許容範囲だろう」と思うことも出てくるでしょう。しかし,その何気なく処方された薬剤の組み合わせの中には「禁忌を踏む」という危険が潜んでいるのです。臨床では思わぬ禁忌がたくさんあります。例えば,パーキンソン病治療薬と咳止め,喘息と点眼薬などです。

 臨床の傍ら,一つひとつの薬の添付文書を参照するのは難しいかもしれませんが,「薬剤師は禁忌にうるさい」ことをぜひ覚えておいてください。患者と研修医の安全のため,「禁忌を踏ませまい」と,私たち薬剤師が見守っています。

 最近,ポリファーマシーが取り沙汰されることが増えました。一般的に,薬が6種類を超えると副作用の発現頻度が高まるといわれています。特に高齢者に対し,症状緩和のために追加処方した結果,不適切な薬物療法となり不利益をもたらすかもしれません。

 それから,調剤する者にも投薬する者にも優しい処方をお願いします。不必要な粉砕・半錠処方を避ける,点滴・服用時間や使用部位の不明確な処方を避ける,できる限り時間内に処方を行うなどです。たかが処方と思われるかもしれませんが,チームの一員である皆さんの人気は,ご配慮一つでうなぎ上りになること間違いなしです。

 薬剤師の業務内容は,施設間の違いが比較的大きいため,自施設の薬剤師の活動内容や専門性について確認しておくと,困った時の手助けになれると思います。われわれ薬剤師は医師や医療スタッフ,患者さんの力になりたいと思っています。ぜひ,ご活用ください。「薬に関する相談」をいつでもお待ちしています。


3420_0103.jpg


 患者の診断・治療をする過程で,たくさんの臨床検査データを判読すると思います。その中で,患者の病態と合わないなど,少しでも,「あれ? おかしいな」と思うことがあれば,指導医だけでなく検査部にも問い合わせましょう。

 特定の薬剤,患者が保有する特殊な抗体などによって検査値が真値とは異なることがあります。その場合,通常と別の測定法を用いる,特殊な前処理を行うなど,臨床検査技師はエラーを回避するためのノウハウをたくさん持っています。

 ただし,臨床検査技師はさまざまな診療科の検体を横断的に測定する中で,どのような薬剤を投与しているかなど,患者個々のバックグラウンドまでは必ずしも把握していません。医師と臨床検査技師がコミュニケーションを密に取り,互いに情報交換することによって解決できる検査の疑問もたくさんあります。

 私自身の経験として,電子カルテに「原因はわからないけれど,きっと検査機器のエラー」と書いてあり,詳しく伺うと案外簡単に解決したことがあります。最終的に影響を受けるのは患者さんです。遠慮なく,積極的に問い合わせをしてください。

 研修医の皆さんは,検査部への検体提出や追加の検査依頼など,現場で働く同年代の若い臨床検査技師と話す機会がたくさんあるはずです。研修期間中に,気軽に話せる臨床検査技師の友をぜひ作ってください。仲の良い人が一人でもいると,Tip 1にもあるように,何か困ったことや要望がある場合に尋ねやすいからです。困難な課題でも,その人が仲介役になって皆で解決策を考えてくれるはずです。意外と大きな改善につながるかもしれません。

 忙しくて学ぶことも多く,疲れていると思います。そんな中でもいろいろな頼まれ事や仕事が五月雨式に降ってくるでしょう。もちろん,あまりに無茶な依頼はさておき,一見無益と思えるものでも数年後,十数年後に,「あの時取り組んで本当によかった!」と思えることがたくさんあります。その仕事を通じて知り合った人が,将来想像もできない角度からリンクすることもあるでしょう。一つ一つの仕事,出会いを大切にしてください。

 ここで述べた3つのTipsは全てつながっています。研修医だけでなく,誰しもが持っていて損はしないコミュニケーション力。これを身につけるためには,「相手の立場になって考える」こと。これに尽きます。そして,意外と難しいです。


3420_0104.jpg


 医師として,これからたくさんのことを習得しなくてはなりませんね。診断・治療から投薬,検査,リハビリ,栄養管理,医療安全,保険診療,診断書作成……。数え切れないほどの業務が待ち受けています。全てを完璧に網羅するのは不可能です。そこで助けになるのが他職種のスタッフです。それぞれの専門職に「一緒に考えてくれない?」と声を掛けてみてください。

 例えば,われわれ管理栄養士であれば,食種(食事の種類),食形態(きざみ,ペースト,嚥下障害食のグレード等),経腸栄養剤の選択や投与速度,輸液や抗菌薬を含めた水分量やNa投与量,電解質補正など,担当患者さんの栄養について多岐にわたりご提案できます。私たちは,研修医の皆さんの診療を一生懸命にサポートします。

 「万病に効く薬はないが,栄養は全ての病気に共通する」。これは私の恩師の外科医が教えてくれた言葉です。患者さんの栄養状態が良ければ治療促進につながるとのエビデンスは,世界各国に数多くあります。

 患者さんの栄養状態が良ければ免疫力が高まり,感染症に罹患するリスクが軽減します。抗菌薬の投与量も減少し,早期退院も見込め,医療経済的な効果も期待できます。減塩食を徹底できれば心不全症例のイベント発生率が低下し,再入院率も低下します。さらに,糖尿病などの生活習慣病が引き起こす,虚血性心疾患や脳卒中の抑制も望めます。集中治療領域においても,早期に栄養介入ができれば生存率は上昇し合併症発生率は低下します。

 医師として治療成績を上げるため,「栄養も大切にする」ことを決して忘れないでください。

 患者さん,ご家族のみならず,院内の全スタッフに対して明るくあいさつをして丁寧な対応を心掛けましょう。先生が暗い顔をしていたり,乱暴な対応をしていたりすると患者さんは不安を抱きますし,私たちも話し掛けづらいですよ。

 栄養学は医学部で履修する機会があまりなかったはずです。どうしても検査,投薬に目を奪われがちなことは理解しています。そして「薬剤治療と比べると栄養って土臭いし……」というのも理解できます。でも「栄養は治療の土台」です。どんな高度先端医療を駆使しても,土台の栄養がしっかりしていなくては,特に重症症例や高齢者では描いた治療方針が崩れてしまいます。患者本来の回復力の源である栄養と研修医の皆さんの治療が融合してはじめて回復が期待できることを頭の隅に置いてください。


3420_0105.jpg


 どの病院でも,インシデントやアクシデントを報告するシステムがあると思います。インシデントレポートは反省文や謝罪文ではありません。インシデントレポートの本来の意義は,患者安全の確保はもとより,報告した時点で個人の問題から病院の管理となるため,医療者側のリスク分散やシステムの改善へつなげることにあります。さらに最も大切な意義は,インシデント,アクシデントの後に頭を冷やし,反省点はないか,どうすれば良かったかなど状況を改めて振り返る,いわゆるデブリーフィングができることです。

 また,報告数を増やしていくためには,常に周囲を気に掛けて何かあったらどんな些細なことでも報告しようとするマインドを,研修医一人ひとりが持たなければなりません。

 現在のコロナ禍では,上司や同僚とのコミュニケーションとして,仕事終わりの飲み会や食事会などのような「飲みニケーション」の機会を持つのは難しいと思います。今までのようなコミュニケーションの取り方を再開したいところですが,しばらくは無理だと思います。

 医療現場でも,新しい時代のコミュニケーションとしてWEB会議システムやSNSを利用したコミュニケーションが主流となりつつあります。これらも駆使しながら患者さんはもちろんのこと,その家族や同僚・先輩・後輩の医師,他科の先生,看護師さんをはじめとする多職種との接遇を心掛けた風通しの良いコミュニケーションが,いつでもとれるようにしておきましょう。

 「私,失敗しないんで」。とあるドラマで外科医が言ったこの言葉は,ある意味間違いです。重大な医療事故には至らないまでも,少しヒヤリとした程度のミスやインシデントには,誰しも必ず遭遇するはずだからです。人間は誰でも間違える(To Err is Human)という概念が,現在では常識となっています。

 どんどん失敗してくださいというのは間違いですが,失敗から学ぶことがあるのも事実です。また,上級医の指導の下,研修医であれば許される失敗もないわけではありません。

 研修医の間は先輩の胸を借りて,さまざまなトラブルシューティングを学ぶことも大切です。怖がって何も経験しなかった人といろいろ見て経験してきた人では,シニアレジデントとなった時やそれ以降の対応力に明らかな違いが出るはずです。

 医療現場での失敗やミス,あるいは想定外のことはいつでも,どこでも,誰にでも起こり得ます。明日は「自分が当事者」となるかもしれません。インシデントについて未然に防げるものは事前に対処し,もし発生してしまった場合でも最小限度の被害に食い止めることが重要です。

 同僚の研修医や先輩医師など,スタッフ間でのコミュニケーションを通じて情報を共有しオープン化して,日常業務に役立てていきましょう。


3420_0106.jpg


 私たち医療者にとって,患者さんの搬送時や入院中の状態がその患者さんの姿として印象に残りがちです。例えば,A氏:80歳代男性,肺炎,救急車搬送による入院。治療は抗菌薬投与と酸素吸入。入院直後は心電図モニター装着,指先にはパルスオキシメータプローブが挟まれ,夜間せん妄となり,末梢ルートの自己抜去に至る……。

 この患者さんの姿をとらえると,治療優先や安全確保も大切です。しかし,生活歴に目を向けると以下のことが明らかになりました。自営の町工場で職人として60年間働き,1週間前までは1人で買い物にも出掛けていた。楽しみは奥さまの手料理。家の構造は1階工場,2階住宅,3階長男の部屋。毎日面会に来る奥さまは股関節手術歴があり。杖歩行をしている。

 同じ80歳代の肺炎患者さんでも,生活歴により退院支援のアプローチはそれぞれ異なります。個別性に合わせた退院支援介入のためには,入院前の生活状況の情報収集がポイントです。少しでも早く元の生活に近い状態に戻すことで,2次的合併症や入院の長期化を防げます。入院中の患者さんの姿は人生のほんの一部分だと意識してください。

 看護師からのコール……それは先生を頼っている証拠です。研修医は担当患者の状態について,ファーストコールで各種報告や相談事を上級医よりも早く受けることが多いものです。もちろん,コールの条件などがあらかじめ指示された内容もあります。しかし,看護師が患者の状態に何らかの異常を察知した際には,そのコール対象の医師が報告しやすい存在なのか,そうでないのか……によって報告の質(特に迅速さ)が変わります。

 コールを受けた際の先生方の対応が「報告してくれて,ありがとう」という態度であれば,次の報告もしやすい存在として認識されます。逆に,その対応が,ゾンザイであったり,高圧的であったりしたなら,看護師も次に報告しようとは思わないでしょう。患者さんの状態に関して報告を躊躇させるような状況があるならば,それは由々しき事態です。自分以外の医療チームメンバーから得られる情報を大切にしてください。その姿勢は自然に態度に表れ,皆さんはおのずと報告の集まる医師に成長されることでしょう。

 地域医療連携室では,初期研修医の院内実習を受け入れています。可能な限り日常の診療行為とは異なる体験ができる機会となるよう,実習内容には退院支援活動の見学や地域医療連携活動の紹介,診療報酬の算定状況についての説明などを盛り込んでいます。

 先生方は普段触れない分野だけに,質問をしてみても明確に答えられないことも多いです。しかし,一生懸命に考え,答えようとする姿勢の先生は,知識が補充され,考え方の幅が広がり,個人のセンス向上につながっていくと思います。残念なことに,中には「そんなこと,今の自分には関係ないですよ」という表情をされる先生もいます。このような先生は,せっかくの実習で得られる知識もセンスも拾えず,とても損をしているように感じます。ぜひ,積極的に取り組んでみてください。

 院内連携が円滑に機能してこそ,地域連携を充実させることができます。「連携」には,お互いの役割認識が必要です。まずは,自分の役割をしっかりと認識し,その時,その場での役割を果たすために注力してください。それが,成長への近道になると思います。


3420_0107.jpg


 研修医の皆さん,入職おめでとうございます。病院図書館の司書から,すぐに役立つ! Tipsのごく一部をお伝えします。

 病院図書室は,医療法で地域医療支援病院に設置が義務付けられた施設です。私たち司書は医療チームへの学術的支援を行い,診療ガイドライン作成や論文の共同著者としても活動しています。さらに患者・家族のための「患者図書室」を設置する病院も増えています1)

 差し当たっての課題は,抄読会の論文探しでしょうか。PubMedのトップメニュー下にある,Trending ArticlesやLatest Literatureのトップジャーナル論文の抄録には日々目を通しておきましょう。PubMed検索の初心者は,トップページ中ほどのSingle Citation Matcherメニューから詳細検索を行うのがオススメです2)

 検索エンジンとしてGoogleを使う際は,Googleアプリでなく各ブラウザからgoogle.comと一度検索してWeb版を使いましょう。ページ下の方にある「設定」から「検索オプション」メニューを選ぶと,年月指定やand,or,not検索等ができます。

 若手医師の発表の場は,学会地方会や症例報告からスタートすることが多いでしょう。演題が採用されるためには文献レビュー(literature review)が必須です。医師が文献検索を体系的に学ぶ機会は少なく,自己流では検索漏れが生じることがあります。発表や論文作成の際には,漠然とした質問でも良いので必ず司書に文献検索を依頼してください。PubMedや医学系データベースの使い分け(),参考文献の書き方,投稿規定,著作権のことも併せて相談・確認しましょう。

3420_0108.png
 知っておきたい医学系データベースと使い分け

 論文を読む,もしくは書くためにはシソーラス(統制されたキーワード集)を意識することが重要です。医中誌Webシソーラスブラウザから,日本語でPubMedのシソーラス検索ができます。

 病院に司書がいれば,「図書館相互協力制度」を用いて,国立国会図書館や個人では利用できない全国の大学図書館へ文献複写の取り寄せや図書の貸借を依頼できます。研修先に司書がいない場合は,卒業した大学の医学部図書館や,勤務先近くの地域医療支援病院図書室に利用方法を尋ねてみてください。

 研修医の多くは社会人一年生です。医学に関すること以外でも,困ったとき,疲れたとき,悩んだとき,どうぞ気軽に図書室と司書を活用なさってください。図書室は世界へ開く扉,司書はドアノブのような存在です。全国の司書がつながって皆さんを応援し,サポートします!


1)佐藤正惠.信頼性の高い情報を「探して」「つなぐ」専門図書館と司書.週刊医学界新聞.2014. 
2)山口直比古.PubMedリニューアルでモバイル利用に適合化へ.週刊医学界新聞.2019.