PubMedリニューアルでモバイル利用に適合化へ(山口直比古)
寄稿
2019.07.15
【視点】
PubMedリニューアルでモバイル利用に適合化へ
山口 直比古(聖隷佐倉市民病院図書室司書)
米国立医学図書館(NLM)が作成する医学文献データベースであるPubMedが,2019年9月にリニューアルされる。これまでのパソコンによる利用から,スマートフォンやタブレットでの利用を中心とした使いやすくシンプルな構成となる予定だ。
PubMedには約5200誌の医学雑誌(和誌およそ160誌を含む)から,年間80万件の論文が収録され,現在2950万件のデータが蓄積されている。1997年に世界へ向けて無料公開されて以来,年間およそ3億3000万回利用されている。
リニューアルの目的はモバイル端末での利用をしやすくするためとされる。PubMedはモバイル端末対応の画面もすでに提供されているが,現在,利用の約50%がスマートフォンやタブレットからであり,病棟や外来での利用が想定される。医師が文献情報を探す場合の最たる障害は「時間が無い」点であるが,モバイル端末でのPubMed検索はその1つの解決方法となり得る。
以下,本稿執筆時点(6月27日)での変更点を述べる。最も大きな変更点は,画面の表示方法である。モバイル端末の画面は小さいため,見やすさ,論文の見つけやすさを重視した「Best match(適合度順表示)」を初期設定としている。つまり,検索に用いたキーワードに最も適合する文献から順に表示する方法である。さらに一画面の表示件数は10件とし,求める文献がすぐに見つかる。NLMの調査で,利用者は検索結果の最初の1~2ページしか見ない傾向が確認されており,適合度の高い文献が最初のページに表示される意義は大きい。もちろん,従来のPubMedのように最新の文献から表示するよう並べ替えたり,11件目以降の文献を表示させたりもできる。また,検索に用いたキーワードが太文字などで強調表示されるスニペットという表示方法も取り入れられており,論文のタイトルや抄録でそのキーワードがどう用いられているか読み取る手助けになっている。
初期設定の検索結果の表示画面では,従来のタイトルや第一著者,掲載雑誌名に加え,抄録の一部も示されるようになる。従来通り,より詳しい抄録も読めるAbstract形式の表示に切り替えることも可能だ。
新しい機能が加わった反面,私たち医学図書館員が便利に利用していた機能で削除されたものもある。例えば,NLMが提供するPubMed専用のLinkOutというユーティリティだ。この機能を利用し各図書館が個別のLinkOutを作成することにより,施設が購読する雑誌に掲載された論文に,フルテキストが見られるページにジャンプできるアイコンが表示できていた。NLMは解決策として,同様の機能を持つ外部のユーティリティであるリンクリゾルバの利用を推奨している。しかし,リンクリゾルバの導入には相当な経費が必要となるため,日本で利用に至るまでには課題がありそうだ。
また,著者名や論題,掲載雑誌名,掲載巻号ページなど,論文を特定する上で重要な情報である書誌事項の確認に便利なSingle Citation Matcherというユーティリティもサポートされず,医学図書館員としては書誌事項の確認にひと手間増えることになる。その他にも,PubMedの検索キーワードであるMeSH(Medical Subject Headings)を探すためのMeSH Databaseや,臨床論文としての信頼性が高い研究デザインに絞り込んで検索結果を提供するClinical Queriesなども新しいPubMedにはリンクが見当たらない。9月のスタートまでに準備されるのか心配である。
こうしたリニューアルの開始時点では現在のPubMedも同時並行で提供され,2020年1月に新しいPubMedに置き換わる予定である。この新しいPubMedの試験公開版は,PubMed Labsで現在利用できる。毎週のように新しい機能の追加や修正などが行われており,本公開されるまでにさらなる仕様の変更も考えられる。ただ,適合度順表示のような基本的な仕様が変更されることはないだろう。
いずれにしろ,モバイル端末での利用への適合化をめざしているので,利便性の向上には期待したい。なお,PubMed LabsにはFeedbackのアイコンがあり,改善点や希望,質問についてどしどしお問い合わせください,とのことだ。疑問点は遠慮なく質問するとよいだろう。
やまぐち・なおひこ氏
1974年図書館短大卒。阪大中之島図書館(医学部),旭川医大附属図書館,浜松医大附属図書館,東邦大医学メディアセンターなど,大学医学部図書館で図書館司書(医学図書館員)として勤務。2016年より現職。
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