医学界新聞


日米の内科専門研修の対比から見えてきたこと

対談・座談会 筒泉 貴彦,山田 悠史

2021.04.12 週刊医学界新聞(レジデント号):第3416号より

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 2018年の新内科専門医制度のスタートから3年。今年7月,ついに第1回内科専門医資格認定試験が実施される。「プロの内科医」をめざすために試験突破が重要なのはもちろんだが,その準備過程である内科専門研修では何を意識し日々の研鑽に励めばよいのだろうか。先ごろ,全国のトップ指導医を執筆陣に迎えた『THE内科専門医問題集1【WEB版付】』『THE内科専門医問題集2【WEB版付】』(いずれも医学書院)が上梓された。日米双方の内科専門医資格を有し,同書のチーフエディターを務めた筒泉氏,山田氏との対話を通じてその答えを探っていきたい。

筒泉 近年,内科志望の医師が徐々に減少していることを肌で感じます。理由の1つには見通しが定まらない新専門医制度の影響もあるのかもしれません。良かれと思い新制度が開始されたものの,その理念や具体的な方策が若い世代に十分に伝わっていないのではないかと考えます。

山田 おっしゃる通りです。今年7月には新しい内科専門医試験が実施されることもあり,これを内科医を育成する体制の見直しのチャンスととらえるべきです。

筒泉 日本の内科は今まさに岐路に立っていますよね。新内科専門医制度が理念として掲げる,「標準的かつ全人的な内科的医療の実践に必要な知識と技能を習得する」ための具体的な取り組みを考えなければならないでしょう。

山田 筒泉先生は,日本での臨床研修後,米ハワイ大学で内科レジデントとして研修されています。2012年に帰国後は練馬光が丘病院にて内科レジデントプログラムディレクターを務めるなど,現在は専攻医に教育を提供する立場としてご活躍中です。日米で内科専門研修を受けた経験からわかる,「日本の強み」を教えてください。

筒泉 良い意味で臨床教育システムが緩やかなことですかね。米国ほど厳密な教育体制が整えられているわけではなく,若いlearnerが追い詰められにくい環境だと感じます。

 山田先生も,米国の教育病院であるマウントサイナイベスイスラエル病院にて内科レジデントとして臨床留学をされていたと思います。日米での教育内容の違いをどのようにとらえていますか。

山田 米国ではカルテ記載や,プレゼンテーションの教育に力点が置かれている印象です。これらの技術は大きく上達する一方,ベッドサイドで患者を診る時間が限られてしまうのは難点と言えます。日本にいた頃のほうが,ベッドサイドで過ごす時間は長かったです。

筒泉 ベッドサイドでの教育は,患者との対話を通して,医学知識にとどまらないマナーやプロフェッショナリズム等を学ぶ機会の創出となるため,可能な限り取り入れたいポイントですよね。

山田 ええ。それに米国の内科専門研修はどこか分断されたイメージがあります。例えば研修体制で言えば,6週間入院病棟で研修し,その後2週間外来研修に励むという「6+2」と呼ばれるシステムがスタンダードです。外来研修であれば外来のみ,病棟研修であれば病棟のみと,セクションごとでの研修が行われます。それに伴い指導医も頻回に変更となります。

 日本の場合は,単一施設で比較的長期にわたる研修を受けます。担当患者を外来でフォローし,入院した際には自分で受け持てるために,患者に施される医療の流れを追うことができます。指導医の変更もほとんどなく,二人三脚で成長していくのが特徴です。診療・教育の継続性は日本の良さと言えるかもしれません。

筒泉 そうですね。ただ最近の日本の研修体制は,米国式に近づいている向きがあります。

山田 どのような点からそう感じるのでしょうか。

筒泉 冒頭に言及した新内科専門医制度です。同制度では広範な分野を横断的に研修し,さまざまな疾患の経験を積むことが求められています。内科医としての見識を広げるためには有用な取り組みだとは考えますが,例えば血液疾患などは容易に経験しづらい施設もあり,到達目標にある疾患のリストを埋める目的で複数の診療科をわたり歩く専攻医が現れ始めました。結果,初期研修のスーパーローテーションに似た研修生活を再度送る事態が発生しているのです。

山田 つまり,これまで日本の良さとして考えられてきた,自分の希望の診療科で師と共に成長していくスタイルの研修方法が変化しつつあるわけですね。

筒泉 その通りです。日米どちらの研修スタイルにも一長一短があるため優劣を付けることは一概にできませんが,今後,あらためての評価が必要な部分となるでしょう。

山田 では実際,臨床留学からの帰国後に教育者として指導に当たる中で,気付いた課題はありましたか。

筒泉 特に感じたのは,米国における研修体制がいかに恵まれていたかという点です。研修プログラム通りカンファレンスに出席しプレゼンテーションを行う日常を過ごせば,一定水準までは自然と成長できる体制ができあがっていました。もちろん,山田先生が指摘した「分断」というマイナス面はあるものの,アウトカムを重視した効率的な教育体制には見習うべきポイントが数多く存在します。

山田 米国卒後医学教育認定評議会(ACGME)を中心に進められる教育内容の標準化は,目を見張るものがあります。現在,さまざまな州の施設で研修を経てきた医師と共に勤務をしていますが,プロフェッショナリズムやタイムマネジメントなど必要最低限のスキルセットを全員が有していることに最初は驚きを隠せませんでした。

筒泉 翻って日本の状況を眺めてみると,各病院の指導医たちが研修プログラムを自作しなければなりません。私自身,これまでの経験等を盛り込みながら試行錯誤していますが,「現状の研修プログラムが,一人のプロの内科医を育てるために必要十分なのか?」との不安はいまだ拭えないままです。

山田 日本では研修を受けた施設によってスキルセットにバラつきが存在するのがある意味“普通”であり,足りない点については個別化し一から教育し直すことが当然のフローとして存在しますよね。

筒泉 そうですね。最初に出会った上級医のスタイルをスタンダードととらえてしまい,長所も短所もそのまま引き継いでしまう場合が多々あります。これは診療スタイルだけの問題に限りません。例えば,働き方改革が意識される昨今ですが,「夜中まで残って診療や研究に取り組むのが理想だ」と考える人が指導医であれば,同じような考えの医師が育ちやすいでしょう。これは教育が個々の施設や人材に委ねられている部分が大きいことの弊害と言えます。

山田 しかし本来は,日本全国どこの施設でも均質な医療が提供されるべきであり,研修を受けた施設の特性に依存しないことが求められるはずです。米国の教育体制に全て倣わなくてもよいとは考えていますが,ある程度の標準化をめざすためには何が必要だとお考えですか。

筒泉 取り組む治療のエビデンスを判断する能力をいかに涵養するかという点に帰結すると思います。例えば「著名なA先生の書籍に記載されていました」や,「以前ローテーションした先のB先生が言っていました」と情報を吟味せずに鵜呑みしてしまうケースが多く,臨床上,何をもって優先度の高い情報と判断するかの軸がまだまだ曖昧です。日本にはその判断のよりどころとなる,確固たる文献やWebサイトがほとんど存在していないような気がしています。

山田 米国では,臨床現場で学ぶエビデンスや指導医から学ぶ標準的な知識を自主学習できるツールとして,米国内科学会が発行するMKSAP(Medical Knowledge Self-Assessment Program)がよく使用されていますよね。同ツールは臨床現場さながらのシナリオに沿ってエビデンスをどう生かし判断するかを問う問題集です。内科医として押さえておくべき疾患,検査や治療が網羅されていて,私自身とても重宝していました。

筒泉 私も留学時に米国内科専門医の試験対策として少しずつ使用し始め,患者を受け持った際には患者の疾患を必ずMKSAPで復習し知識を定着させるよう意識していました。記載通りの対応をしていくと,患者の状態がみるみる改善していくことに衝撃を受けましたね。

山田 内容が逐次アップデートされていくのも大きなメリットでしょう。医学情報は数年もすれば変わってしまうものが多いために,なかなか書籍だけではキャッチアップできない点を補ってくれました。最新のエビデンスに基づいた問題が提供されていることを実感できます。

筒泉 けれども保険制度やガイドラインの違いなど,日本ならではの考慮しなければならない事情が存在するのもまた事実です。日本と世界の実情を併記するような,新たな形式の問題集が求められているように感じていました。

山田 そんな中で生まれたのが,『THE内科専門医問題集1【WEB版付】』『THE内科専門医問題集2【WEB版付】』(いずれも医学書院)です。MKSAPのように臨床シナリオを通じて内科の知識を網羅的に学べる問題集としての役割だけでなく,内科専門医試験の対策本ともなり得るはずです。チーフエディターを私も務めさせていただきましたが,もともと本書は筒泉先生の一声から企画がスタートしています。背景にはどのような思いがあったのでしょうか。

筒泉 臨床留学から帰国し練馬光が丘病院で総合診療科を立ち上げた時のことです。診療科のメンバーに対して内科の入院患者で診るような疾病を,エビデンスの紹介とともに日本の事情に鑑みてレクチャーしたところ,診療科内での医学知識の標準化を実感できました。この取り組みの成果は,山田先生にも編集を手伝っていただき,『総合内科病棟マニュアル』(MEDSi)という書籍でまとめています。

山田 ただ,この書籍はあくまで“マニュアル”であって,演習をするための“問題集”としての役割は持ち合わせていませんでしたよね。

筒泉 そうです。そこで実践的な症例問題を含めつつ,内科専門医として必要とされる知識を習得できるような書籍があればと思い,今回の企画に至った次第です。単にMKSAPの形式を踏襲しただけの内容ではなく,日本の文化に沿うよう工夫を凝らしました。記載されている内容を臨床にそのまま応用できることは,セールスポイントと言えるでしょう。

山田 ここまで細部にこだわったのも,「学習者にとって最善の教材でなければならない」という信条がわれわれにあったためであり,誇れる部分と言えます。筒泉先生は,手塩にかけて編んだこの問題集を,「プロの内科医」をめざす医師にどう活用してほしいですか。

筒泉 問題集として一般的なドリルのように用いる方法はもちろんですが,教科書に近いレベルの詳細な解説が記載されていますので,サッと流さずにしっかり読み込んでほしいですね。加えて,勉強したい領域の疾患を索引から検索して集中的に学習することも可能です。参考文献として日本発の文献と,海外発の文献をそれぞれ掲載していますので,さらなる深い知識を得たい方はそちらをご覧いただきたいと思います。

山田 本企画では,併せて「WEBアプリ」を作成し,スマートフォンやタブレット端末,PC上で全収載問題を解けるようにしました。解説にはガイドラインや基本文献へのリンクも貼られており,効果的な深い学習ができるようになっています。スマートフォンなどで効率よく学習できるのは多忙な医師にとってメリットでしょう。適時,内容やシステムをアップデートしていく予定ですので,ご期待ください。

筒泉 昨今は総合内科,総合診療というジェネラルに診られる診療科への期待が高まっています。もちろんその理念,理想は正しいでしょう。しかしながら本日話題に挙がったように,そうした診療科で活躍できるプロフェッショナルな内科医を具体的にどのようにめざしていくのか,という議論やアクションが足りていないように感じています。「米国ほど研修プログラムが整備されていない中で,内科医としての素養をいかに高めるか」。この点に対する回答を早急に用意しなければなりません。今回上梓した問題集がその一助になればと期待しています。

(了)


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高槻病院総合内科 主任部長

2004年神戸大医学部卒,同大病院にて初期研修。淀川キリスト教病院,神戸大病院での後期研修を経て,09年より米ハワイ大内科レジデントプログラムに留学。12年に帰国後,練馬光が丘病院にてプログラムディレクターとして総合診療科の立ち上げ,15年には明石医療センターの総合内科の立ち上げに従事する。17年より現職。総合内科専門医,米国内科専門医,米国内科学会上級委員。編著に『総合内科病棟マニュアル』(MEDSi),『THE内科専門医問題集1【WEB版付】』『THE内科専門医問題集2【WEB版付】』(いずれも医学書院)。

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マウントサイナイ医科大学 老年医学科フェロー

2008年慶大医学部卒。東京医歯大病院にて初期研修修了。川崎市立川崎病院総合内科,練馬光が丘病院総合診療科を経て15年に渡米。米マウントサイナイベスイスラエル病院にて内科レジデントとして勤務する。18年埼玉医大病院総合診療内科の助教として帰国した後,20年に再度渡米し現職。総合内科専門医,米国内科専門医。編著に『総合内科病棟マニュアル』(MEDSi),『THE内科専門医問題集1【WEB版付】』『THE内科専門医問題集2【WEB版付】』(いずれも医学書院)。