医学界新聞

名画で鍛える診療のエッセンス

連載 森永 康平

2021.03.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3411号より

 これまでの連載内容で,一口に“観察”と言っても時間のかけ方や見る順番の工夫で,得られる情報の質や量,それを基に考察できるストーリーも段違いに向上することを解説してきました。診療に有用な視覚情報は,患者さんの体型や歩き方,皮膚の色,呼吸様式など無数に存在します。その中で今回は,膨大な情報を秘め得る“表情”に焦点を当ててみましょう。

 扉を入ってくる患者さんの観察から,診療は始まります。「診療中は体を患者さんに向けなさい」とは,学生の頃に口酸っぱく言われることです。しかし臨床実習,初期研修と学年が上がると患者さんではなくモニタに視線が向き,カルテ記録に忙しくなりがちです。私も初期研修医の頃はよく叱られました。

 当たり前ですが,患者さんを観察して対話するのは“対面”しなければできません。一方,カルテは後からでも記入できるものです。理想を言えば,対面している間は観察や診察,対話によって患者さんの唯一無二の情報を収集することに全神経を注ぐのがベストではないでしょうか。

 不思議なことですが,私たちは顔面の筋肉の動きと感情の組み合わせを習ったわけではないのに,表情を見れば相手の感情を大体認識することができます。さらに表情でわかるのは,感情だけではありません。私たちが提供する話題への関心の程度や理解の程度,自ら発言している内容の真偽や自信の度合い,双方の信頼関係まで,多くのヒントが隠されています。

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 今回の名画を見てみましょう。服のシワから筋肉の張り,そして表情までリアリティをもって描き込まれています。額にはシワこそ寄っていませんが目はかっと見開かれ,上

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