名画で鍛える診療のエッセンス
[第5回] 物語の構造を意識しよう
連載 森永 康平
2021.02.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3407号より
「物語」の構造が診療に役立つと考える人は多くないと思います。しかし人々は「物語」を囲んでつながり,危険回避など生き延びるために必要な知恵や経験を後世に紡いできました。
哲学者の野家啓一は『物語の哲学』(岩波現代文庫)で,「物語とは経験を伝承し,共同化する言語装置である」と説きました。「物語」は人に寄り添いながら遥かな時間や場所を越え,洗練されてきた文化装置なのです。この構造を理解することは,診療に役立つ大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。
物語の構造には起承転結や序破急,ヒーローズジャーニーなどいくつかの種類がありますが,最初に舞台や登場人物の説明が入る点は共通しています。この導入のおかげで私たちは物語をスムーズに追体験し,理解することができるのです。
どうして絵画の青年は倒れているのだろうか?
物語の構造を意識して図を眺めると何が見えるでしょう。第4回で取り上げた「大枠から細部へ」の原則も生かして考えてみましょう。

舞台背景は?
窓の外の景色,部屋の構造,異国風のおしゃれな服装から,アジア系というよりも西欧系でしょうか。
人物は?
シワのない整った顔立ちを見ると10~20代の若い男性のようです。服には黒いすす状のものがこびりついており,薄汚れたベッドの様子から貧しさが伝わってきます。
細かい描写は?
右のベッド脇のテーブルには煙が漂うロウソク台があ...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
“19番目の専門医”,「総合診療医」の仕事とは?
可視化と言語化で総合診療へのモヤモヤをスッキリ解決!寄稿 2025.09.09
-
医学界新聞プラス
[第1回]多形紅斑
『がん患者の皮膚障害アトラス』より連載 2024.02.09
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
最新の記事
-
対談・座談会 2025.09.09
-
看護におけるコンフリクト・マネジメント
対立を乗り越え,より良い組織を築く対談・座談会 2025.09.09
-
対談・座談会 2025.09.09
-
“19番目の専門医”,「総合診療医」の仕事とは?
可視化と言語化で総合診療へのモヤモヤをスッキリ解決!寄稿 2025.09.09
-
がんゲノム医療と緩和ケアの融合
進歩するがん治療をどう支えるか寄稿 2025.09.09
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。