ケースで学ぶマルチモビディティ
[第10回] 悪性腫瘍/消化器/泌尿器パターン 悪性腫瘍を軸にしたアプローチ
連載 大浦 誠
2021.01.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3403号より
CASE
75歳男性。妻と2人で農業を営む。長男夫婦は隣県在住。50歳より2型糖尿病,高血圧,脂質異常症,アルコール性脂肪肝,COPDのため内科通院中。55歳時に早期胃がんの診断で内視鏡的粘膜下層剥離術。喫煙は1日10本を55年継続,日本酒は2合/日。父親に大腸がんの既往あり。
1か月前から腰痛で徐々に動けなくなり精査。前立腺がんの肝転移と骨転移をみとめステージIVの診断であった。疼痛管理のため入院後,自宅退院に。今後は泌尿器科と内科で併診することになった。
【処方薬】一般内科でエナラプリル,ロスバスタチン,メトホルミン,ロキソプロフェンナトリウム,オキシコドン,エソメプラゾール,デキサメタゾン,チオトロピウム吸入,泌尿器科でリュープロレリン皮下注。
今回はマルモのプロブレムリスト(表)が心血管/腎/代謝パターンと悪性腫瘍/消化器/泌尿器パターンに偏っています。ポリファーマシーチェックでは,デキサメタゾンによる血糖関連/感染関連,ロキソプロフェンによる腎機能関連/排便・消化器関連,リュープロレリン皮下注による高額薬剤が挙がります。心理社会的問題は,末期がんと告知されたことで,今後の療養や治療費の心配,農業の跡継ぎがいないことに対する不安があるようです。

がん診療においてもマルモは避けて通れない
がん患者のマルモをまとめた“Multi-Morbidity and Cancer”という特集が2020年のClinical Oncology誌に掲載されています1)。また,2019年のCurrent Opinion in Supportive and Palliative Care誌では,悪性腫瘍とマルモに関する論文が同時に2本出て注目されています2, 3)。
英国のがん患者30万人のマルモ有病率を調べた2020年発表のコホート研究では,がん患者の3分の2がマルモ状態であると言われています4)。別のマルモパターン研究では,がんの有病率は8.3%で,高血圧,喘息,がんの組み合わせが最も多い状態であり,そのほか不安,うつ病,湿疹・皮膚炎,過敏性腸症候群,片頭痛と関連していました5)。がんは喫煙,肥満,アルコール,社会経済的要因との相関が見られます5, 6)。また,がんの診断を受けた患者は,日常生活活動(ADL),生活の質(QOL)が有意に低く,疼痛,倦怠感,不眠,末梢神経障害,リンパ浮腫,消化器症状,膀胱直腸障害,早期閉経など永続的な症状があるため,マルモパターンの悪性腫瘍/消化器/泌尿器パターンに分類されるイメージと一致します7)。
がんのマルモで気をつける段階は4つある
がんとマルモ診療では①予防から早期発見,②がんの治療中,③治療後,④終末期においてマルモへの介入が必要です1)。例えば,①ではマルモ患者は乳がん検診受診率が低く8),受診しても見逃されやすいと言われています。②ではマルモのがん治療のエビデンスがなく,治療負担が多くなり,マルモのためにパフォーマンスステータスや予後が推定しにくく,治療選択や治療の中止を判断できる意思決定能力にも影響を受けがちです。③治療後はがんサバイバーのケアにおいて再発の早期発見が必要ですし,慢性疾患の管理も重要です。④終末期のケアでもマルモの介入やACP,心理社会的問題への介入が重要となります。
悪性腫瘍マルモは心理社会的ニーズが高い
がんのマルモ患者のほとんどが,不安やうつ,身体障害,脱毛,不妊,孤独感に悩むと言われています9)。プライマリ・ケアでは患者の治療負担と......
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