医学界新聞


メンター・メンティー関係をアップデートせよ!

対談・座談会 徳田 安春,髙橋 宏瑞

2020.12.07

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研修医はメンティーとして,メンターである優秀な指導医に学び,時に刺激を与え合いながら共に成長していく――。これが理想的なメンタリングだ。しかし日々膨大な業務に追われる中で,どこかうまくいっていないメンタリングも多いのではないだろうか?

このたび,米ミシガン大のVineet Chopra氏,Sanjay Saint氏らの手による体系的なメンタリングの翻訳版『医療者のための 成功するメンタリングガイド』(医学書院)が上梓された。本書の監訳を務めた徳田氏と,国内外で研修医教育の活動を行う髙橋氏の対話から,新時代のメンタリングについて考える。

徳田 教育は組織の価値を大いに高める重要な要素です。しかし病院では教育の重要性が十分に認識されていないと感じます。髙橋先生の周りでは,メンターとメンティーが学び合うメンタリングの考え方はどのくらい普及していますか?

髙橋 まだ十分とは言えません。多くのメンターは,教育は指導医が一方的に提供するものとしてとらえている印象です。教育を通じてメンターが得られる価値を十分に知らないため,メンタリングを体系的に学んで教育に生かしている人は多くありません。

特に初期研修医は数か月のスパンでローテーションするため,1人の指導医から学べる期間は短く,指導医が初期研修医のパーソナリティーを理解した頃に研修医は次の診療科に移動してしまいます。これも病院でメンタリングが根付きにくい理由の1つでしょう。

徳田 わが国でなかなかメンタリングが根付いていないことは課題です。以前,ある研修プログラムで初期研修医と指導医に対してメンターとメンティーをランダムに指定したことがありました。

髙橋 それは面白い試みですね。結果はいかがでしたか。

徳田 残念なことに,ほとんどのメンターとメンティーは継続的なミーティングをしませんでした。見かねた私は食費を出すからミーティングをしてくれと言いましたが,それでもやらない(笑)。これは極端な例ですが,組織が指定して行うメンタリングはあまりうまくいかないのではないかと感じるようになりました。

髙橋 同感です。大学病院によっては教授クラスの指導医が1年間,研修医を手助けする仕組みがありますが,チェックリストに沿って項目を埋めることが目的になってしまいがちです。一人ひとりがお互いのことを「メンター・メンティー」だととらえることが,最初の一歩です。

徳田 研修医には組織に指定されるメンターを待つだけではなく,スキルアップのためにメンターに働き掛けていく積極性を求めたいです。

髙橋 一口にメンターといっても,メンティーへのかかわりに応じたさまざまな在り方が考えられます。まず研修医はそれぞれのメンターの特徴を把握した上でメンター探しを行うべきでしょう。

徳田 ええ。メンターの特徴を考えるために,『医療者のための 成功するメンタリングガイド』の中ではメンターを伝統的なメンター,コーチ,スポンサー,コネクターの4つに分類()しています。

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 メンターの4分類(『医療者のための 成功するメンタリングガイド』p.22より作成)

髙橋 わが国ではいまだに多くの時間を掛けてメンティーを育てる「伝統的なメンター」が研修医教育の中心を担っています。しかしメンターとして多くのメンティーに広く教えていくためには,時間の負担が大きい伝統的なメンターだけではなく,コーチやスポンサー,コネクターといった選択肢も検討すべきだと思います。

徳田 メンターとメンティーは1対1の関係である必要はありませんね。新時代のメンタリングでは,より多くの人々が教える/教わる中で成長していくために,複数のメンターと複数のメンティーでつくられる多対多の関係が望まれます。さらに言えば,所属する組織を越えた人たちをメンターにしても全く構いません。これまで病院組織では,メンバーは組織の中にとどまって外部との交流が少ない現状がありました。しかし時代は変わったのです。メンティーは組織の外で積極的にコネクションを作り,メンターを増やしていくべきだと考えています。

髙橋 おっしゃる通りです。私は徳田先生や感染症コンサルタントの青木眞先生と出会って所属組織外の人たちと交流し,刺激を受ける重要性を実感しました。そのため,積極的に多くのメンティーを巻き込んで所属組織の外の人との交流を増やす,スポンサーやコネクターとしての役割を担うようにしました。これからは組織外にも積極的にコネクションを増やしていく時代ですね。

髙橋 病院間の垣根は従来に比べると低くなりましたが,まだ残っているように感じます。特に大学病院の若手は講座の教授以外の先生に積極的に教えを乞うことはなかなか難しい印象です。徳田先生はどのように組織外の人との交流を始めたのでしょうか。

徳田 論文や書籍を通じて「この先生に会いたい!」と憧れを抱いたロールモデルの人物に直接会いに行ったことです。私は沖縄県立中部病院に勤務していた20代の頃,ロールモデルとして掲げた日野原重明先生(当時・聖路加国際病院)にメンターになってもらえないかと考えて会いに行きました。

髙橋 沖縄から東京まで行かれたのですか。

徳田 ええ。日野原先生にメンターになってもらい組織は違えどプロフェッショナリズムやリーダーシップについて指導を受けたことがきっかけとなり,後に聖路加国際病院に所属して直接教えを受けることになりました。また先生の講演会の前座で話をする機会を得る経験を通じて,自身のパフォーマンスをメンティーに直接示すことが重要だと認識できました。

髙橋 ロールモデルの先生に会いに行く行動力はどこから湧くのでしょうか?

徳田 学びたいと感じたことをとことん追究する気持ちが源泉です。身体所見で著名なJoseph Sapira先生が来日した際,身体所見と病歴で診断するSapira先生の姿を目の当たりにして感銘を受けました。身体所見について深く勉強しようと決心し,その後渡米しセントルイスの先生のご自宅に1か月くらい住み込んで学ばせてもらいました。朝から晩まで一緒に行動してラウンドにも同行するなど,貴重な経験となりました。

髙橋 国をも越えてしまう,徳田先生のフットワークの軽さは大変魅力的です。現代ではFacebookやTwitterなどのSNS,ZoomなどのWeb会議システムの発展で組織外の人と容易につながることができます。身近な人にこだわらず国内外のメンターを積極的に探しに行くことが容易な令和時代では,一人ひとりの独自のキャリア形成が可能になっていますね。

髙橋 メンティーは,医学以外の領域に触れることも大切でしょう。例えば病院組織よりも一般企業のほうが,若手に対する教育を「価値創出のための投資」と認識しているように思います。病院組織も“外部の風”を積極的に取り入れることが必要です。

徳田 経営の神様と呼ばれるドラッカーは「人類が作った組織の中で,病院ほど複雑な組織はない」との言葉を残しています。病院という複雑な組織をマネジメントする上で,組織行動学やマネジメント論などの医学・医療以外の分野の知見が生きてきます。

髙橋 私が行っている「三銃士」()という活動の中では,「この人からは学べる!」と思う人にはどんどんメンターになってもらうべきという話をしています。例えば膨大な医学知識を持っていてもIT領域の知識がない年配の先生は,若い先生をITのメンターにしてもいい。メンターになってもらうようお願いする上で着眼すべき点は,相手の人格や相手が持っている知識や技術,人脈です。もちろん医師としては,より医学的な知識や経験を持っていることが重要です。しかし広い視野で「教える」ことをとらえれば,どんな人にでもメンターになってもらうことができるのです。

徳田 『医療者のための 成功するメンタリングガイド』には,良好なメンタリング関係を構築するためにメンターもメンティーも相手を選んでいいとあります。

髙橋 これは衝撃的でした。「もしかしたら相手に選ばれないかもしれない」という焦りが出てきます。

徳田 新時代のメンタリングではメンターとメンティーのお互いが成長し合える関係が望ましいです。感染症に興味があれば,膨大な微生物学の知識を持っている細菌検査室の臨床検査技師にメンターになってもらう。メンタルケアに興味があれば,大きな経験と知恵を持っている臨床心理士にメンターになってもらう。自分より若い人からも教えを乞い,学ばせてもらうのです。

髙橋 地位や年齢にあぐらをかくのではなく,自分に足りない点はほかの人から真摯に学ぶ姿勢が大切ですね。相手に対するリスペクトは欠かせません。

しかし不幸にしてメンターとメンティーが良好なメンタリングを築けなかった場合には,関係を終わらせることも必要です。

徳田 そうですね。基本的にメンティーはメンターよりも立場が弱いので,自身の身を守るためにどのようなメンターであれば関係を解消すべきか知っておくべきです。

髙橋 例えばメンティーから聞く新鮮な情報に対して正直に「それは知らなかった!」と向き合えない,プライドが高くて柔軟性がない人はメンターに向かないでしょう。メンティーが恐縮して「はい」しか答えられない関係ではなく,同じ視点で物事をディスカッションできる関係が望ましいです。

徳田 一方通行のコミュニケーションではなく,メンターはメンティーが率直に相談しやすい雰囲気を創出して双方向のコミュニケーションを心掛けることで理想的な関係を築いてほしいですね。

徳田 メンターとメンティーがお互いを選ぶ際に重視するポイントはどこだと考えますか。

髙橋 もちろん個人の能力は考慮しますが,要素の1つにすぎません。メンターとメンティーで良好な人間関係が構築できるか,共通したビジョンを持てているかが大切です。

昨年,私が病棟医長をやっていた時には週に1回,1対1でミーティングを行って自分のビジョンを全員と共有していました。その際には医療分野に限らずやりたいことやプライベートも含めた今の課題を医局員からヒアリングし,それぞれの人に合ったアプローチを考える取り組みを行っていました。

徳田 素晴らしい取り組みですね。

髙橋 ありがとうございます。これまではメンター自身がさらに上の指導医から教わる機会が少なかったため,研修医の教育を担う立場になっても教え方がわからず,背中を見せて学ばせる伝統的なスタイルが多かったと思います。しかし新時代のメンタリングでは,メンターはメンティーにきちんと向き合って本気でかかわる必要があります。

一方,メンティーには将来のキャリア設計を見据えた自己分析をぜひ行ってもらいたいです。自分のキャリア像をイメージしながら足りていない能力を分析して,それを伸ばすためにどういうメンターと知り合いたいか,また知り合うためにどうすればいいかを戦略的に考えるのです。

徳田 お互いがほどよい緊張感を持った,プロフェッショナルとしてのメンタリングをめざしてほしいですね。メンティーはメンターと約束した課題をこなす。できない場合はその理由を説明する。“本気度”を担保するために,メンターはメンティーがどのくらい物事にコミットして取り組む気持ちがあるのか,そして能力があるのかテストしてもよいでしょう。

髙橋 メンティーはメンターから信頼される行動を心掛けることで,新天地で活躍する際にもメンターが心強い味方となってくれるはずです。

徳田 メンターもメンティーに対して教えるプロセスで,普段行っていることの目的や意味をとらえなおしたり,体系化したりすることを通して身につけられることが多くあります。メンタリングはメンターがメンティーを成長させるだけではなく,メンター自身をも成長させます。メンターとメンティーが共に成長し合う理想を実現させる,新時代のメンタリングが広まっていくことを期待しています。

(了)


:鎌田一宏氏(新潟大ミャンマー感染症研究拠点特任助教),坂本壮氏(国保旭中央病院救急救命科医長),髙橋宏瑞氏(順大医学部総合診療科非常勤助教)の3氏が行う活動に青木眞氏(感染症コンサルタント)が「三銃士」と名付けた。勉強会や医師同士のネットワークづくりなど,研修医の教育に関する幅広い活動を行っている。

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順天堂大学総合診療科 非常勤助教

2008年東海大卒。同大病院で初期研修後,順大総合診療科に入局。アイルランドNational Children's Research Centreへの留学や,新島村国民健康保険診療所での離島医療を経験する。カンボジアに総合診療医学会(APSARA)を立ち上げ,近年は活動の場をアジアへと広げている。

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群星沖縄臨床研修センター長

1988年琉球大卒。沖縄県立中部病院,聖路加国際病院,水戸協同病院,地域医療機能推進機構本部顧問などを経て,2017年より現職。

著書に『病歴と身体所見の診断学:検査なしでここまでわかる』,監訳書に『サパイラ 身体診察のアートとサイエンス』『医療者のための 成功するメンタリングガイド』(いずれも医学書院)など。

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