学びをとめるな,未来をつかめ
医学生・研修医のための「コロナ禍を生き抜くヒント」
寄稿 後藤徹,中山祐次郎,柴田綾子,堀向健太,山本健人
2020.11.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3395号より

家計収入およびアルバイト収入の低下,行動自粛による交友機会の喪失や精神的ストレス,臨床実習の縮小・中止,就職活動への支障……。新型コロナウイルスは,医学生のキャンパスライフに多大な影響を与えています。卒後教育においても,ベッドサイドティーチングやカンファレンスの機会が制限されました。打開策としてICTの活用が推進されているものの,喪失した教育の機会を全て補完できるわけではありません。
今後の見通しが不透明な中,将来を不安視する声が医学生・研修医から聞かれます。医学生・研修医は今,何を考え,どう行動すべきなのでしょうか。臨床の第一線で活躍する先輩方に,コロナ禍の医学生・研修医生活を生き抜くヒントを伝授してもらいました。

オンラインツールを使いこなす者がコロナ禍を制する!
新型コロナウイルスの流行により行動制限を余儀なくされる中,最も多感で成長する時期の医学生と若手医師への影響は甚大である。部活やバイトができない,講義はネット,病棟実習や病院見学が制限される医学生。感染の最前線で疲弊し,研究会や学会もオンライン開催,後期研修先の決定にも不安がある研修医。決してやる気が出る環境ではない。
私が医学生や研修医に転生し,この悪環境を乗り切るためにまず何をするか,いろいろ考えることはあるが,絶対に必要な武器は「オンラインツールを使いこなすこと」だと考える。
1)オンラインでつながる
第一に重要なことは感情を吐き出す場,すなわち仲間との交流を維持すること。大人数での飲み会や打ち上げがはばかられる現状は不要な職場の飲み会を避ける理由になりプラス面もあるが,同時に自分の世界も狭めてしまう。医学生や医師が抱えるストレスはかなり多いので,それを吐き出す場は必要である。LINEグループでもZoom飲みでも何でも構わないが,自分が信頼する友人や恋人と,喜びや愚痴など他愛ない会話をする機会を維持しよう!
2)オンライン学会でモチベーションを維持
ほとんどの研究会や学会はオンライン開催となり,学会の特典である旅行気分,おいしい食事などはなくなってしまったが,代わりに自分の好きな場所・時間にオンラインで学会に参加できるようになった。特に医学生や研修医は参加費無料のことが多く,学会場に行かなくても最前線の治療について学ぶことができるのは今までにないチャンスである。専門科を決められない者はさらに深い情報収集が可能であり,専門科を決めた者は演者を自分の将来像として視聴しモチベーションを高めよう!
3)将来を見据えたオンライン英会話の実践
多くの医学生は家にいる時間が長くなったはずだが,家でやることがないということはあり得ない。必要度順から言えばCBTや国家試験の勉強に始まり,アドバンスとして海外の医師国家試験の勉強まで十分に当てる時間がある。特に強くお勧めするのは,普段医師がないがしろにしている語学の勉強である。特に日本人が弱い英会話は将来診療や学会発表,留学に必要であり,これを機に定期的に英会話をする時間を確保しよう!
4)オンライン会議・面接を極める
Withコロナ時代に最も重要となるスキルは,オンライン会議のスキルである。しかしルールブックもない中,急にできるようになるわけではない。特に学会の発表や質疑応答では,多くの演者が十分なクオリティに達していない。さらに研修病院マッチング試験の面接はほとんどがオンライン面接となり,将来の進退に直接影響するものとなった。
私はちょうど北米でロックダウンの際にクリニカル・フェローの英語面接(SkypeとZoomで約7時間)を受け,それを勝ち抜いた経験から図に示す対策は最低限徹底してもらうと満点の印象であることは間違いないと思う。これに加え,短時間で自分の意見をロジカルに構成し,さらに感情やジェスチャーを交えてダイナミックに自分を表現できることが大きな差になると考えられる。

*
最も基本となることはコロナ禍でも変わらず,「自分が将来どうなりたいか,どういう知識や技術を身につけたいか」をいかに強固に,そして詳細にイメージできるかだと思う。それを具現化する際に,Withコロナでは上記の戦術を使って①モチベーションを保つための方法と②将来像をかなえるための具体的な攻略方法の2つを明確に意識する必要があるだけのことである。制限されるからこそ,何をするかをよく考えて実践する必要がある。
Withコロナの状況はいつまで続くかわからない。安全で有効なワクチンの普及や国民のほとんどが既感染となる状況に到達しなければ来年も再来年も感染の波を繰り返すかもしれない。でも若手のモチベーションや将来への明るい希望がウイルスごときに阻害されることはあってはならない。今の環境でできるだけの準備をして,腐らずに将来につながる努力をし続けた者だけが夢をかなえることができる。
今回紹介したネットスキルはこの時代の新しい必須能力のひとつであり,私も日々どうすればうまくいくか模索している。今苦労している,“コロナ世代”と後に言われるであろう医学生と研修医の皆さんには,この環境変化を逆手に取ってわれわれにはない部分でも成長してもらい,輝く将来を絶対につかんでいただきたい。

浮いた時間と金は本と英会話に投資せよ
1)本を買い込め
コロナのせいで出掛けなくなり,飲み会もなくなって浮いたお金で本をたくさん買いましょう。無料のネット記事やYouTubeではなく,本でなければなりません。なぜなら,本はそれらと比べてはるかに多くの高いハードルを越えて世に出ているからです。本の著者らはたいてい,金銭的にはかなり割に合わない仕事として執筆していますし,内容は何度も何度も吟味され,さらに面白く,伝わりやすいような渾身の工夫が込められています。どんな本が良いかというと,ひとつのテーマ(例えば輸液,X線の読み方,術後管理,血液ガスの見方)について一冊になっているものをおすすめします。雑誌よりも,一冊になっているもののほうがベターです。
そして,本は買わなければ決して身になりません。理由は簡単で,身銭を切らなければ本気で読まないからです。本を買うにあたり,ネットではなく本屋のほうがいいです。そのほうが立ち読みが簡単にできますし,厚さや雰囲気などが一目してわかりますからね。まず近所の大型書店に行き,医学書コーナーで面白そうな医学の教科書を5冊買ったら,次は一般書コーナーをぐるぐると歩き,今度は医学と全然関係のない,しかもできたらあなたが全く興味のない本を手に取りましょう。例えば,「バラの育て方」「経済ニュース」「俳句の本」「つりの本」や,小説など。興味と無関係の本はあなたの人生を広げ,豊かにします。そしていつか必ず役に立つのです。
2)オンラインで英会話を
在宅の時間が増えた今こそ,オンラインで英会話の勉強をするチャンスです。医学生・研修医の皆さんの世代は,英語を話せるということはひとつの評価ではなく,ただの前提になります。難しいことを言えなくても,ディスカッションができなくてもいいのですが,英語で日常的な話ができるくらいになっているのが理想です。例えば「コロナは大変だけどおたくの国はどう? マスク足りてるの?」や「彼氏(彼女)いるの? コロナだけどどうやって会ってる?」などです。オンライン英会話は1か月5000円くらいから始められてコストも安く,いろいろな人と話せるのでとてもおすすめです。私も,フィリピン人とのオンライン英会話を続けています。
「いやいや,翻訳機があるしこれからの時代に不要では」と考える人もいるでしょう。しかし,英語を話せることはコミュニケーションという点からとても大切です。英語を母国語とする人たち以外とも,例えばアジアやヨーロッパ諸国の人たちとも「親しくなる」ためには,下手でもいいので英語を話せることが必須ですよ。どうせ外出できないのですから,家で外国人と楽しくお話をし,さらに英語スキルも身につけておきましょう。
*
コロナのせいで外出ができず,ストレスが溜まりますよね。いつかは終わるものですが,焦る気持ちもあるでしょう。ですが逆転の発想で,この期間を「一人でいることができるチャンス」ととらえ,本を読み,「自分はどう生きたいのか」ということをじっくり考えてみてはいかがでしょうか。いろいろな人との対話はいつでもできますが,自分との対話は行う時間が案外ないものですから。

生き残るのは最強のものでも賢いものでもなく,最も変化に適応したものである
新型コロナウイルスによって世界中に激震が走り,医療だけでなく人類社会全体が大きな変革を迫られています...
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