医学界新聞


換気カプセル型発汗計の開発と活用

寄稿 大橋 俊夫

2020.11.02



【視点】

汗を診よう
換気カプセル型発汗計の開発と活用

大橋 俊夫(信州大学医学部メディカル・ヘルスイノベーション講座 特任教授)


 11月に入り,夏の猛暑はうそのように涼しくなりました。しかし,今年8月の熱中症による救急搬送者数4万3060人と過去最高を記録しました。その約6割を高齢者が占めています1)

 暑い日に屋外で運動すると,額や背中に汗をかき,喉が渇きます。それでも運動を続けていると,汗は止まりますが,休んで水分を補給した途端,一気に汗が噴き出します。これは口渇中枢と浸透圧受容器の連携により,血液の浸透圧が調整されているからなのです。しかし,高齢者では口渇中枢の感受性が低下しています。そのため汗をかいても喉が渇きにくく,あまり水分を摂りません。

 日本救急医学会によると,熱中症の診断では,体温,発汗の程度,意識障害の程度などが利用されます2)が,発汗量の具体的な計測方法や定量化の手法は明確に定められていません。この現状を受け,簡単かつ正確に発汗量を計測するため,私たちは「換気カプセル型発汗計」(写真)を開発しました。そしてこれを活用することで,高齢者の熱中症の予兆を把握できるのではないかと考えました。こうして2020年5月,温熱性発汗量の定量的な連続記録から発汗量の低下傾向を感知し,熱中症アラートを個々のスマートフォンに送信するシステムを開発したのです。

写真 換気カプセル型発汗計

 以下では,この換気カプセル型発汗計の開発の経緯についてご紹介します。

換気カプセル型発汗計のしくみ

 まず私たちは,運動などにより生じる温熱性発汗量はもちろんのこと,無毛部における微量の精神性発汗量までも迅速かつ定量的に測定できる装置を開発しました。これには,スマートフォンなどにも使用されているコンデンサーを活用しました。このコンデンサーは湿度に高い感受性を持っています。発汗計は2階建ての構造をしており,この1階と2階の部分にそれぞれコンデンサーを取り付け,空気を流します。その流入・流出する空気の湿度の差分から,分泌した汗の量をコンピューターで換算して記録するのです3)

 この発汗計は信州大学発のベンチャー,株式会社スキノス(百瀬英哉社長)の協力を得て開発され,1991年に厚労省から医療機器としての認可が下りました。2017年には自律神経機能検査法の1つとして保険適用を受け,発汗異常を呈するパーキンソン病や膠原病の診断・治療などに利用されています。

発汗量を測定し,水分摂取を促す装置へ

 次に,この発汗計を小型化して生体に装着することを試みました。発汗量の低下を検知することで,熱中症を防ぐシステムができるのではないかと考えたからです。そこで信州大医学部倫理委員会の認可を受け,口渇中枢が正常なボランティアの方々に,小型化した発汗計を装着の上,一定強度の運動を30分程度行ってもらいました。運動の前後で発汗量を測定し,さらに血液検査と尿検査を行いました。その結果,全員が発汗量が低下した時に喉が渇き,血液が顕著に濃縮していることを確認できました。この実験から,発汗量の低下と喉の乾きとの間に相関性があることが明らかになりました。

 この結果が,温熱性発汗量の連続記録から発汗量の低下を感知し,個別の熱中症アラートを提供するシステム開発へとつながったのです。

「汗」に秘められた可能性

 私は,現在も汗にまつわる研究を続けています。具体的には,①手掌部の精神性発汗から心理状況を客観的に判断する装置の開発,②精神電流現象との併用から運転時の眠気を検知し,アラートを流す装置の開発,③温熱性発汗や運動性発汗において汗が気化する時のガス組成の分析,④汗の内容物の測定などです。今後も「汗」を起点に,健康科学から医学的診断まで,人々の役に立つイノベーションにつながる研究を続けたいと考えています。

参考文献・URL
1)総務省.令和2年8月の熱中症による救急搬送状況.2020.
2)日本救急医学会.熱中症診療ガイドライン2015.2015.
3)Physiol Meas. 1998[PMID:9863672]


おおはし・としお氏
1974年信州大医学部医学科卒。同大器官制御生理学教授を経て,2014年より現職。2017年より株式会社スキノス顧問。日本リンパ学会理事長。日本発汗学会名誉理事長。『標準生理学 第9版』,『生きているしくみがわかる生理学』(医学書院)など編著書多数。