MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2020.10.12
Medical Library 書評・新刊案内
安齋 眞一 著
《評者》鶴田 大輔(大阪市大大学院教授・皮膚病態学)
皮膚病理診断のための究極のリファレンスブック
日本皮膚病理組織学会理事長である安齋眞一氏の著書最新刊が発売された。ずっしりと重く,持つだけで賢くなれそうな1冊である。
安齋氏の著書は常にエキサイティングである。皮膚病理診断学は極めて膨大な学問分野であるので,その書籍は辞書的な1冊とならざるを得ない。しかし,安齋氏はこれまでストーリー性に富んだ斬新な書籍を手掛けてきた。例えば,制作責任者を務められた『実践! 皮膚病理道場』シリーズ(医学書院)は,書籍では初めてのバーチャルスライドを用いた皮膚病理診断学を試み,大成功を収めている。また,皮膚軟部腫瘍や皮膚付属器腫瘍というプロフェッショナルでなければ診断できない領域のアトラスも見事に作った。
今回,彼が挑戦したのは,初学者から名人まで,これ1冊を顕微鏡の横に置いておけば,確定診断に至ることができる皮膚病理診断のためのマニュアル本の作成である。本書は,安齋氏の単著であり,序文には,通読は想定しておらず,「顕微鏡のそばに置いてかわいがっていただけたら」とある。
本文を見てみると,まず,「炎症性疾患および類縁疾患の病理診断の考え方」に掲載されている炎症性疾患のパターン診断の表が極めてわかりやすい。これに従えば一直線に診断に至ることができるだろう。安齋氏は,炎症性疾患の診断過程として,まず病理のみをみて診断し,その上で臨床情報を加味して確定診断に至ると書いている。この表はそのようなアプローチにおいて極めて有用であろう。
また,炎症性疾患の各項では,「病期による所見の違い」という項目も立てられている。これにより経時的変化の把握に弱い病理診断学の弱点を補うことができる。
「腫瘍性疾患および類症」では,冒頭に「皮膚腫瘍の病理診断の考え方」が書かれている。良性・悪性腫瘍の鑑別の要点,免疫組織化学で用いられる抗体に関するまとめの表や,表皮や付属器上皮細胞の分化所見などをまとめた表が掲載されており,すぐに使えて有用である。
腫瘍性疾患の各項では,全ての腫瘍にわたって,弱拡大から強拡大まで多数の明瞭な写真が掲載されている。弱拡大でパターンを把握して,強拡大で疾患を鑑別し,確定診断に至ることができるだろう。
個別の疾患では,「臨床病理相関」の項目が立てられている。これにより,病理→臨床→病理診断確定というプロセスを踏むことができる。「病理診断の決め手」の項目も複数の鑑別診断がある場合にはうれしい。
しかし,何といっても白眉であるのは,「コメント」の項であろう。目からウロコの落ちるコメントが満載である。
本書の最後に掲載されている「診断の手がかり」と「用語集」も写真入りできれいにまとめられており有用である。
本書『皮膚病理診断リファレンス』は他の追随を許さない,究極のリファレンスといえよう。
A4・頁530 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04140-9


臨床研究の教科書
研究デザインとデータ処理のポイント 第2版
川村 孝 著
《評者》福岡 敏雄(倉敷中央病院副院長)
「やさしく,丁寧に,読みやすく」が貫かれた教科書
この『臨床研究の教科書』は,臨床研究にかかわるどんな人にも必ず役立つところがある,どんな人にも読む価値がある,そんな不思議な本である。
臨床研究の流れが,しっかり丁寧に順を追って網羅的に書かれている。「統計解析」に飛びつきがちな初心者は第1部で研究の計画の大切さを,さまざまなデータで統計解析を行ってきた中級者は第3部で統計解析の実践的な意義付けを,研究を計画し実行したことがある実践者は第2部でもっと上手に研究チームを動かすスキルを,これから臨床研究論文を書こうとしている執筆者には第4部でその注意点と秘訣を,それぞれ学ぶことができる。
第5部では,リサーチクエスチョンから,研究の運営,その結果と反省点,そして発表まで,実際の研究を題材に細かく赤裸々に書かれている。現場で気付いた疑問から研究につなげ出版に至る流れが記されている。ランダム化比較試験だけではなく,臨床予測モデルや記述研究などもあるし,研究が予定通りにいかなかったときの「転んでもただでは起きない」事例もある。
この本を貫いているのは,丁寧さと読みやすさである。基本概念を誤解なく伝える言い回しや事例も豊富に紹介されている。例えば,観察研究で行う擬似ランダム化試験として傾向スコアを用いた解析法が,不確実さの対応としての感度分析が紹介されている。それぞれIgA腎症やウシ海綿状脳症などの事例を用いて説明されている。経験ある人は丁寧さを冗長さと取るかもしれない。だが教える立場になったらその価値に気付くだろう。本書では統計解析や疫学用語にほぼ全て日本語と英語が併記されている。初心者向けの配慮でもあるだろうが,英語に慣れてしまった上級者が,正しい用語で説明する時に大いに助けられるはずだ。
本当の初心者から上級者・専門家まで幅広く,やさしく丁寧に根気強く,そして細かな用語に至るまで正しく指導する,そんな著者の姿勢を感じ...
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