医学界新聞

2020.09.14



Medical Library 書評・新刊案内


整形外科レジデントマニュアル 第2版

田中 栄 編
大島 寧,齋藤 琢,武冨 修治,廣瀬 旬,松原 全宏,森崎 裕 編集協力

《評者》中島 康晴(九大教授・整形外科学)

診断・治療の考え方を養える指南書兼実践書

 このたび,田中栄先生のご編集による『整形外科レジデントマニュアル 第2版』が医学書院より上梓された。本書は東大整形外科学教室の先生方が中心となって初期および後期研修医を対象に,整形外科診療の基本をまとめられたものである。通読して感じた本書の特徴は,決して疾患の羅列ではなく,目の前の患者さんの症状をどのようにとらえ,どのように診断し,治療法を選択していくかといった考える過程が極めてわかりやすく記載されている点である。加えて,整形外科の教科書には載っていないが日常診療ではとても重要なこと,例えば他科へのコンサルトやカンファランスでの発表の仕方なども詳しく書かれている。これから整形外科を学ぶ若いレジデントにとって,本書は診断・治療の考え方を養える指南書であると同時に「即役立つ」書籍である。

 まず総論が素晴らしい。「整復」「初期固定」「抗菌薬の使いかた」などの基本に加えて,日常診療で研修医が直面するであろうさまざまな問題に対するプラクティカルな対処法が多く盛り込まれている。「注射法(関節穿刺,関節内注射,トリガー注射,ブロック注射)+処方例」では具体的な針の刺し方や薬品の種類・使用量がわかりやすく書かれているし,「術前の評価,他科コンサルト,周術期に中止すべき薬剤」「文献の使いかた・調べかた/カンファランスでのプレゼンテーション」「術後疼痛管理」「小児の診かた」,「心構え」などは,上述したように教科書には載っていない,しかし日々の診療では必要な知識である。

 各論では研修医が知っておかなければいけない疾患が漏れなく取り上げられている。冒頭にその疾患が短くわかりやすい言葉で定義・解説され,「主訴」「問診で確認すべきポイント」「画像診断のポイント」「鑑別診断」「治療」と,診断と治療の過程が筋立ててわかるように仕立てられている。この思考過程こそが本書の特徴であり,田中先生も本書の序文にて,「どのようにして診断に至り治療方針を組み立てているのか,どのようなことに苦労してきたのか,という思考過程をたどること」の重要性を述べられている。さらに疾患によっては「患者説明と指導」という項が加えられており,説明に慣れていない研修医にとって重要なポイントになるであろう。分類や図も多過ぎず,少な過ぎず,必要なものだけが厳選されて理解しやすい。

 このような素晴らしい書籍を世に出していただいた田中先生はじめ東大整形外科学教室の皆さんに敬意を表したい。若い整形外科医はぜひ本書を手に取り,症例を経験するたびに該当箇所を読み返していただきたい。それを積み重ねることによって,皆さんの実力が向上していくことを確信する。

B6変型・頁458 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04157-7


スパルタ病理塾
あなたの臨床を変える!病理標本の読み方

小島 伊織 執筆

《評者》志水 太郎(獨協医大教授・総合診療医学)

病理診断を学ぶ全ての医学生・若手医師への最初の一冊

 本書は全ての医学生・若手臨床医にとって病理診断のロードマップを示してくれる重要な一冊です。診断にかかわる臨床家の私たちとしては,病理診断の技術や考え方は専門家に頼りきりではなく自らも理解する努力を払う必要があります。本書は,その学習のわかりやすい手順を与えてくれます。評者は個人的に,「病理診断はフィジカル診断の一環」くらいの距離感で,親近感を持っています(その意味では本書は《ジェネラリストBOOKS》シリーズでもよいのかとも思います)。なぜなら,フィジカルでは血管を直視できるのは眼底と爪くらいですが,病理の場合は全て直視,つまり病理は究極の視診ともいえるでしょう。フィジカルの延長という理解で行けば,「病理診断」のとっつきにくい(?)印象が少しでも払拭(ふっしょく)されるのではないでしょうか。

 個人的には愛媛大学在学時の基礎配属が病理学(第二病理学)だったために,病理(特に腎)にはとても親近感を持っていますが,そのような曝露でもないと,病理の魅力に行きつくまでには心理的距離があるかもしれません。本書はそのような距離をぐっとゼロに近づけてくれます。その理由は,おそらく本書の心臓となる第1章の病理総論の整理の表(p.9)に示されるように,病理組織の見方,考え方のbig pictureが示されていること,異常のパラメータをベクトル図で示したもの(p.12)をはじめとして,病理を理解するための視覚化が明快に行われていることだと思います。それに続く章では,弱拡大・強拡大のレンジを使い分けることで全体を見ることの重要性,さらに,組織を傷害する病態の代表的な分類である腫瘍・炎症で切り分けた病理の見方,また特殊染色・免疫染色の理解についての章というわかりやすい展開になっています。

 本書の著者・小島伊織先生は中部地方の総合診療教育で有名な大同病院の病理の先生だけあり,総合診療的な視点にあふれていることも本書の特徴です。目の前の病理像を通して臨床像のコンテクストを考える大切さが各章にちりばめられ,病理を通してdirect patient careを見据える視点などの本質的なメッセージも満載です。また,病理を読むことに加えて,最終章の病理プレゼンのエッセンスや,付録の「補習室 病理診断依頼時の心得」から医師間コミュニケーション上で必要な病理の考え方を身につけることができ,とても参考になります(そして,それは臨床力に直結します)。さらに,もう一つの付録「図書室 本書を読み終えて次のステップに進む本」では各章の次のステップを示してくれるリファレンスが付いていて,本書が病理診断学習の土台を担うロードマップの一冊目になり得ることを実感させてくれます。

 このように,本書はこれまでにない新鮮で独自性の高い病理学習に役立つ一冊です。医学生が読んでも(難しいところもあるかもしれませんが),病理を身近に感じられるようになる素晴らしい出合いが,この本を開くと待っているでしょう。幅広い読者層にお薦めです。

A5・頁206 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04130-0


高齢者ERレジデントマニュアル

増井 伸高 著

《評者》岩田 充永(藤田医大教授・救急総合内科学)

救急医と老年科医の懸け橋

 本当に挑戦的なマニュアルが出版されたものである。

 救急が好きな人間は,「18歳バイク事故で,血圧60で……」とホットラインで聞いた瞬間にアドレナリンが放出されるが,「82歳男性,今日はベッドから起きてくることができません……」と聞くとどのような反応になるであろうか?

 反対に,老年科医の中では,「ERはちょっとねえ~」と救急に対する苦手意識が見え隠れするのが現実であると感じる。

 救急医からも老年科医からも敬遠されがちなテーマを正面から扱って,マニュアルにする著者の勇気をまず心からたたえたい。マニュアルを執筆するアウトプット作業は,医師にとって本当に身を削る思いである。出版社だってそれなりの購入部数が見込めなければ発売しないだろう。15年前に,「高齢者救急」なんて誰も真剣に考えていなかった分野を自分の専門にしてみたいと思った立場としては,救急医と老年科医の懸け橋となるような本書の出版がうれしくて仕方がない。

 高齢者救急マニアは,すぐに手に取って全ページを読んでしまうわけだが,高齢者救急が苦手であっても「1 高齢者ER診療の基本」,「2 せん妄(元気がない,いつもと違う,動けない)」,「32 薬剤評価・ポリファーマシー」,「33 生活環境評価・介護保険」,「34 入院・帰宅の方針決定」だけは熟読してほしい。高齢者救急への処し方が理解できる。

 私たちが本書から学ぶべきことの1つは,ERで目の前の高齢者診療を適切に行うことである。しかし,もう1つ学ぶべき大切なことがあると感じる。それは,高齢者救急は小児・成人救急のようにスッキリと正解が1つに決まらない,「症例によって最適解が異なる」ということである。症例に出合うたびに,目の前の高齢者,そのご家族の状況を考えて最適解を考える……なんて高度な技量が必要な医療なのだろう。あらためて反省させられた。

 本書を手に取った若手医師には,ぜひ271ページの「力いっぱい悩むこと」を熟読し実践してほしい。本書が救急医と老年科医の懸け橋となることを願ってやまない。

B6変型・頁298 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04182-9


基礎から学ぶ 楽しい疫学 第4版

中村 好一 著

《評者》市原 真(札幌厚生病院病理診断科)

緻密に計算されたコンテキストブックの真髄

 手に取ったとき,とてもシンプルに見えた。タイトルも,表紙のデザインも,宣伝目的の帯でさえも。しかしパラパラパラと3めくりしたあたりで,おやっと思った。著者名や発行年月日などが載った「奥付」が冒頭に配置されていたからだ。

 若すぎる顔写真に謎が深まる。来歴にもナニヤラ遊び心がにじむ。表紙から想像していた堅物な印象からの違和感に思考が衝突して,立ちすくむような気分になる。発行日欄の一行目は「第1版第1刷 2002年3月」,最終行が「第4版第1刷 2020年8月」。着実に版を重ねてきた名著である。それなのにこのノリはなんだ?

 序文に目を通す。雑誌連載に端を発する原稿に,足かけ20年も手を加え続ける仕事の崇高さを思う。序文の最後には表紙デザインの真実が明かされる。第1章の頭にある「POINT」のデザインに笑みをこらえきれない。

 これらは全て制作陣の狙いであろう。早すぎる奥付と序文解説によって,冒頭から読者は「講師のナラティブ」を手に入れる。続けて展開される本文の筆致は王道,そこに物語性を生む役割を持つ脚注を連弾させる組み立て。本当に見事だ,思わずうなってしまう。「講師が語る姿」をイメージしながら楽しく読み進めることができる構成によって,本書は「勝っている」,それもかなり強い勝ち方をしている。優勝と言っていいだろう(何が?)。

 記述疫学の重要性。コホート研究と症例対照研究の違い。検定よりも推定のほうがよい理由。層化すればいいってものでもないということ。これまで何度も学ぼうとして,そのたびに睡魔との戦いを余儀なくされてきたが,親しみすら覚えるほどの講師から語られるとこれほどまでに血が通うものなのか。

 今から7,8年ほど前,どうにも疫学がわからなくて,疫学者たちにお勧めの勉強法を尋ねた。「米国時代の公衆衛生学講座のボスに師事した内容を自分でまとめたものを使っている」「ロスマンくらいは読んだほうがいい」。前者は参考にしようがないので,とりあえず『ロスマンの疫学』(篠原出版新社)を購入。当時読み終えてわかったことは,「拾い読みでは疫学には太刀打ちできない」ということだった。断片的な概念を単語帳のように覚えても歯が立たない。だから一度は何かを通読したほうがいいのだろうとは思ったが,残念ながらロスマンは私には少々読みにくかった。「ロスマン先生」から疫学を教わることに対する必然性とモチベーションが足りなかったのかもしれない。

 そんな怠惰な私もようやく疫学の師を見つけた思いである。皆さんも,著者の顔を思い浮かべながら,ぜひ「疫学の文脈」を手に入れてほしい。本書はテキストブックではなく優れたコンテキストブックである。もっと早くこの本を知っておけば良かったと悔しく思うが,時代の選択に耐えた名著を今手に入れる喜びもある。蛇足だが本書を通読した後にロスマンを読むと普通に読めたので笑ってしまった。私は疫学の文脈を一つ身につけたのであろう。

A5・頁242 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-04227-7

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