MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2020.05.25
Medical Library 書評・新刊案内
安永 悟 著
《評者》栗林 好子(東京医療保健大助教・看護学)
協同学習やLTDのポイントが端的にまとまった実践書
本書はLTD(Learning Through Discussion:話し合い学習法)に長年取り組んでおられる安永悟先生の著書です。協同学習に依拠したLTDの理解のため,本書前半は基本的な協同学習の活動(内容や手順),後半はLTDの活動について書かれています。特徴的なのは,紙上で研修会を再現して構成されていることです。
本書を読みながら,以前に著者が講師をお務めになった研修会(協同学習ワークショップ〈ベーシック〉)に参加したことを思い出しました。その研修会が私の協同学習にかかわるきっかけになったのですが,正直に言うとその時の研修会はやや不消化に終わっていました。これは著者自身も本書の中で語っていますが,研修会では対象の人数やレディネスを考慮し,内容や方法も吟味した上で,限られた時間の中で伝える内容を絞っていくため,伝えたいことを全て盛り込むことはできず,研修会はきっかけにすぎないと割り切ることもあると。このような研修会の持つ時間的制約と物理的制約が,研修会で私が感じた不消化の要因になっていたのだと思います。
しかし,本書においては著者の協同学習・LTDに関して伝えたい内容が,存分に盛り込まれていると感じますし,それらが体系的かつ系統的にまとめられて大変わかりやすくなっています。あの時,本書があったなら……と少々悔しい思いさえする内容でした。また,本書の約半分を占めるLTDについては,私自身の実践経験がなくこれまで理解不十分な点が多かったのですが,本書を読み進めながら紙上のLTD研修に参加する中で,協同学習の技法とのつながりとともに,LTDを支える理論(ブルームの教育理論)とLTDの実践のつながりを容易に理解できました。
これは,読者を研修参加者に見立てて紙上で研修会を再現するという一見突拍子もない“紙上研修会”の構成が,実際の研修会で行われている研修方法と同様に,実践と理論の関係が理解しやすい画期的な研修受講方法(実際は読書なのですが……)になっている結果だと思います。さらに,研修会などで理解に時間を要する内容について「もう一度説明してほしい」「聞き逃した」ということはよくあります。そのような場合でも,本書の“紙上研修会”では「読み返す」という行為で簡単に解決でき,内容の理解を深めていけるのではないかと思います。
協同学習やLTDの学習をする人にとって,端的にポイントをまとめている本書が理解を容易にすることは間違いないと思います。また,協同学習・LTDの理論や技法だけでなく,著者の授業づくりにおける秘訣など,参考になる内容がColumn(コラム)や脚注に書かれており授業運営にも大いに活用できると思います。
ただ,協同学習やLTDを実践するにあたり,「知っている」と「できる」は違うということを日々実感している私としては,紙上ではないリアルな研修会への参加が,より本書の理解を促すのだろうなとあらためて思っています。
B5・頁168 定価:本体2,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03941-3
片田 範子 編
《評者》濱田 米紀(兵庫県立こども病院看護部・小児看護専門看護師)
こどものセルフケアをとらえる拠りどころとなる書
「こどもは生きる力(生きている力と生きていく力)を持っている」「こどもは,自らを発達させることができる」――こどもセルフケア看護理論の根底に流れるこどもの力を信じる強い思いは大変魅力的である。この理論は,オレムのセルフケア看護理論を基盤とし,「こどもを主体とする看護実践」をめざして構築されている。従来,こどもは発達途上にあるがゆえに,その未熟性に焦点が当てられ,「何かをしてあげる」対象として見られる傾向があった。しかし,日々こどもの力を目の当たりにしている看護師としては,こどもをセルフケアという視点でとらえることの重要性を感じている。
本書は,「第1章 こどもの力を引き出す看護を創り出すために」「第2章 こどものセルフケア」「第3章 こどものセルフケア不足」「第4章 こどもへの看護支援」「第5章 こどもと家族」と展開される。どの章においても,日本文化や社会に適した表現に工夫され,用語や概念が整理されている。また,具体的な場面や事例を挙げ丁寧に説明されているため,理解しやすく,活用につながる。「第6章 こどもセルフケア看護理論の活用事例」では,発達段階ごとに,この理論を実際に活用した事例が掲載されており,より具体的に身近なものとして理解できる。さらに,「付章 こどもセルフケア看護理論の構築に向けた取り組み」には,理論構築のプロセスが詳細に示されており,その道筋を知れることはとても興味深い。
子どものセルフケアは,親の影響が強く,どのようにとらえるとよいのか難しいところがあったが,この理論では,セルフケアを「卵の図」で表現してあり,複雑なこどもと親のセルフケアの状況を容易にイメージできる。また,「こどもセルフケア看護のアセスメントと計画策定の枠組み」がシート(表)として示されていることで,情報収集からアセスメント,看護デザイン・計画策定,評価までを整理し共有しやすくなっている。
この理論は,さまざまな臨床の場で広く活用されることをめざしている。評者はこれまでに,小児看護領域においてセルフケア理論を活用しようと試みたが,用語の難しさ,新生児や乳児のセルフケアのとらえ方,子どもと親のケアバランスのアセスメントの仕方などに戸惑い,うまく活用が進まなかった経験がある。この理論は,これらの悩みを解決に導いてくれると期待する。臨床現場で理論を活用する中で,子どものセルフケアを的確にとらえ,より良いケア提供につなげていきたいと考える。そして,こどもセルフケア看護理論を拠りどころとし,常にこどもを大切にできる看護師となれるよう努めていきたいものである。
B5・頁256 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03929-1
精神疾患をもつ人を,病院でない所で支援するときにまず読む本
“横綱級”困難ケースにしないための技と型
小瀬古 伸幸 著
《評者》福山 敦子(NPO法人ハートフル/訪問看護ステーション聲・看護師)
「自分も相手も楽になる」これが専門職の技術
私も本書の著者と同じく,精神特化型の訪問看護ステーションで長く実践をしており,多くの「横綱級ケース」と呼ばれる人たちに出会ってきました。
精神疾患をお持ちの方の中にはエネルギー水準が高い人も多いです。そしてエネルギーの使いどころがわからず空回りしていたり,あまりにも一点集中していたり,あるいは多岐に広がり過ぎて収拾がつかなくなっていたり,ということが起きます。
地域では関係者が点在していますので,関係者側の意思疎通が図れていないと,利用者に対する理解がバラバラになってしまいます。それがかかわりをさらに難航させ,利用者を「横綱」化させる要因にもなると感じます。
本書が伝えているのは,「横綱」化させるのはかかわる者のまなざしと対応だ,ということです。本書が示しているさまざまな技と型を使いながら,常に利用者主体に立ち返ることで,もう「横綱」ではなくなるのです。
さて,本書において特に役に立った,と私が感じるのは第3章です。これは「精神科訪問看護 必須の型」という章で,新規面接時にやるべきこと,重要事項説明書で説明すべきこと,看護計画の立て方,立ち戻り方,緊急電話や緊急訪問の判断と説明について書かれています。訪問看護は,新規面接時にご本人と契約することで,初めて導入がなされます。ですから新規面接時に,ご本人の動機や望む生活についてしっかりと話を聴き,訪問看護の役割――ご本人の自立を支援すること――を説明し,理解してもらうことが必要です。このタイミングを逃してしまうと,私たちの役割が誤解されたまま訪問看護が始まり,「横綱」化の要因を訪問看護がつくってしまうこととなるように思います。
実を言うと私自身,訪問看護ステーションを立ち上げたばかりの頃は,利用者を確保したいという思いから,つい「何でもしますよ」「いつでも行きますよ」「何でも電話してください」といったNGワードを頻発していました。これらの言葉が,利用者の主体性や自己決定力を奪い,セルフケアから遠ざけ,「横綱」化させているということに,後から気付いたのでした。
この本には,新規面接でしっかりと利用者の動機付けを確認していく方法が書かれています。何に着目し,ご本人の言葉で何を語ってもらうのか,が丁寧に示されています。実際,本書に書かれている通りに丁寧に項目を聴いていったところ,ご本人の考えや苦労の経験から,さまざまな困難を自分で乗り越えてきた力のある方なのだということの理解が深まりました。初回面接時に確認を入れたり,込み入った内容を聞くと,利用者にうんざりされてしまうのではないか,妄想的になったり拒否が始まるのではないか,とびくびくしていたのです。でもその不安は杞憂でした。あいまいさをなくすことで,それまでの契約時より,信頼を持ってくれる利用者が増えたように思います。
また,どういうときを緊急時と言うのか,緊急電話をかけてきたらこちらは何をするのか,という説明をあらかじめしておくため,イライラ,孤独感,寂しさなど感情的な理由で利用者が緊急電話をかけてくることが減り,かけてきたとしても対応に困ることが少なくなりました。
事務員の電話対応についてのコラムもあり,これを読んで,スタッフだけでなく事務員へ何を伝え,教育しておくべきかがわかりました。この第3章には,知っておくと自分も利用者もスタッフも助かる,具体的な「技」が書かれています。地域の関係者にも,この章をまず読んでもらいたいと薦めています。ケースの相談をしてきてくださるのはありがたいのですが,私たち訪問看護が何を目的として訪問するのか,チームとしてどの役割を担う事業所なのかという,精神科訪問看護の構造を理解してもらいたいからです。
帯には「自分も相手も楽になる」とあります。これが専門職の技術だと思います。精神科訪問看護技術書の1つとして,まず読んでいただいて間違いのない本です。
B5・頁184 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03952-9
渡邉 順子 著
《評者》山内 豊明(放送大大学院教授・生活健康科学プログラム)
「ちょっと待ってください」の「ちょっと」はいつまで?
医療者である皆さんご自身は,病院で検査や手術を受けた経験はありますか?
私は医療者として駆け出しの頃に,可能な限り病院での検査や医療処置を受けてみました。胃カメラ,大腸内視鏡,エコー,CT,MRI……。さすがに心臓カテーテル検査は勘弁してもらいましたが,検査がどう受け止められているのかを身をもって知っておきたかったのでした。全身麻酔をかけてもらい,静脈麻酔薬が血管に入った瞬間にヒヤッとし,その途端にスッと意識を失う経験もしました。意識のない間に膀胱内留置カテーテルを入れてもらいましたが,あれが完全覚醒時であったら失神してしまったかもしれません。それは痛みや違和感のためではなく,限りなく恥ずかしいためです。
命や生活を託することと考えれば,入院して医療ケアを受けるのは,旅客機に搭乗したり,ホテルに泊まることにも似ています。旅客機に乗って旅をし話題のホテルに泊まりワクワクすることはあるでしょう。しかし入院は好んでするものではなく,致し方なく医療ケアを受けざるを得なくてするものです。医療者にとっての日常場面である医療機関で過ごすことは,患者さんにとっては非日常の未知なる体験であり,期待が膨らんでワクワクするのとは逆の,何をされるのであろうかという予期不安が付いて回ることでしょう。
患者さんにしてみたら,MRI検査室が縁起でもない火葬場のように見えるかもしれません。意を決してナースコールを押した患者さんにとって,「ちょっと待ってください」の「ちょっと」はいつまで待たされることなのでしょうか。いきなりオムツの中に排泄をせよと言われても,到底できるものではありませんね。
「食べる」という行為と,「排泄」「トイレ」という行為は,共に身体の内外との「入口・出口」にかかわることで,本能的に強い羞恥心を引き起こします。胃や大腸の中を映し出されても恥ずかしくないですが,口の中や消化管の出口を見られるのは,とてつもなく恥ずかしいものです。睡眠中は完全に無防備な状態で命をさらけ出しています。これら「取り込む・出す・眠る」は人間にとって最も基本の自己完結的に行うこと故に,これらの行為についての意思表示も遠慮しがちになるでしょう。
その患者さんに一番身近に接するのが私たち看護職です。「こういう看護がしたい」では,主体が私たちになってしまいます。しかし本来の主人公は患者さんであり,その患者さんが「こういう看護をしてほしい」であるべきでしょう。事の進め方は,もしも自分自身が患者であったならば,という立ち位置で考えるべきです。そして「その人の生き方を考え抜き」(考えるでななく,考え抜く),さらにその気遣いを悟られないことこそが本当の気遣いでしょう。
随所にあるキーフレーズが心に響きます(昨今の言葉では「刺さります」?)。それを何倍にもするイラストはこの上もなく見事です。
本書はすてきなナースとなるための素晴らしい手引書なのです。
A5・頁184 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03831-7
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