授業を活性化するLTD
協同を理解し実践する紙上研修会

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協同学習では仲間と共に学ぶことで理解が深まり、LTD(Learning Through Discussion:話し合い学習法)では読解力や論理的思考力が育成できる。いずれも学習効果が期待できるアクティブラーニング。本書では、著者が実際に行っている研修を紙上で展開することで、読み手が協同学習の技法やLTDの手順を疑似体験しながら、その技法や手順を体得できるように工夫を凝らしている。1人で読み進めるだけでなく、複数名でグループ活動をすればより研修効果を実感できる。

安永 悟
発行 2019年09月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-03941-3
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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謝辞

 LTD話し合い学習法との出会いは平成6(1994)年の秋でした。あれから25年,四半世紀が過ぎようとしています。元号も平成から令和に変わりました。平成に出会い,慈しんできたLTDを,令和に伝え,行く末のさらなる展開を託して,この時代の節目に本書を上梓できることを大変嬉しく思っています。
 平成の25年間,LTDによる授業づくりを続けるなかで,協同学習を知り,協同学習を愛する素晴らしい仲間と出会いました。仲間との交流を通して,私の活動範囲は一挙に広がりました。日本協同教育学会や初年次教育学会,日本教育心理学会を中心とした学会活動,勤務大学で長年続けてきた「授業づくり研究会」や「協同教育フェスタ」,全国各地での研修や講演,学校現場での授業改善などを通して,研究の輪が広がり,実践の輪が広がりました。
 LTDとの出会いにより,私の人生はこのうえなく豊かなものになりました。LTDを共に学び,共に実践し,その成果を共に喜び合った仲間に本書の出版をご報告し,感謝の気持ちをお伝えします。そして本書を通して,さらに多くの皆さんとの出会いを心より楽しみにしています。
 令和はこれまで以上に先行きが読めない不確定な時代になると予見されます。これからの時代を豊かに過ごし,すべての人が平和で幸せに暮らせる人間尊重社会の実現に貢献できる人材の育成が強く求められています。この点に関して,本書が少しでも役立つことができれば,これほど嬉しいことはありません。
 本書の出版にあたり多くの皆様からご助力をいただきました。まず,医学書院看護出版部の藤居尚子さんと大野学さんには大変お世話になりました。昨今のe-Learningの時代に,紙上研修会という前近代的でアナログ的な提案を真摯に受けとめ,検討していただきました。お二人のご理解とご支援なくして本書が日の目を見ることはありませんでした。また,本書のイラストは私の研究室出身の山田慧美さん(宮崎県立みなみのかぜ支援学校)に作成をお願いしました。加えて,本書の出版を支えていただいたすべての方々に,この場をお借りして,心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

 令和元年皐月(2019年5月1日)
 著者

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まえがき
謝辞
「LTD研修会」開催のご案内

プロローグ

I 研修への導入
 1 挨拶
 2 研修の目的
 3 LTD授業モデルの紹介
 4 研修の内容と構成

II 学びの場づくり
 1 グループ編成
 2 環境整備・座席配置
 3 仲間づくり
  (1)自己紹介の方法
  (2)自己紹介の実践
  (3)手挙げの効果
 4 学び合いの基礎基本
  (1)傾聴とミラーリング
  (2)協同学習の基本構造
  (3)関連づけ
  (4)雰囲気づくりと配慮

III 教育の目的と方法
 1 求められる人材
 2 協同実践
 3 これからの教育

IV 協同学習の考え方
 1 協同の学習観
 2 協同学習の定義と効果
  (1)協同学習の定義
  (2)協同学習の効果
 3 協同の精神
  (1)協同学習の心構え
  (2)「協同の精神」の定義
  (3)「協同の精神」による学び
  (4)協同の意義
 4 協同学習の基本要素
  (1)ジグソー学習法
  (2)ジグソーで学ぶジョンソンの基本要素

V 1日目の振り返り
 1 1日目の内容確認
 2 授業記録紙
事前準備(2日目)
 1 グループの位置と座席の変更
 2 授業通信

VI 導入・授業通信
 1 挨拶
 2 手挙げの終了
 3 研修目的と内容
 4 授業通信
  (1)授業通信の読解
  (2)技法「特派員」の体験

VII LTD話し合い学習法
 1 LTDの基本事項
 2 LTD過程プラン
 3 ジグソーで学ぶLTD
  (1)ジグソー学習法の実践
  (2)ステップ5と6の区別

VIII 分割型LTDの体験
 1 分割型LTDの特徴
 2 LTDの体験的理解

IX LTD授業モデル
 1 LTD授業モデルの特徴
 2 実践・LTDによる文章作成
 3 実践・LTD基盤型PBL

X 全体の振り返り
 1 研修全体の振り返り
 2 仲間への感謝

エピローグ

あとがき
引用文献
資料
索引

Column 一覧
 1-1:参加者数
 1-2:学びの見通し
 2-1:社会認知的葛藤
 2-2:心のノート
 2-3:ミラーリングの応用
 3-1:トヨタの「カイゼン」
 3-2:総合的な探究の時間
 3-3:久留米大学医学科の教育目標
 3-4:アクティブラーニングの定義
 4-1:質問への対応
 4-2:「きょうどう」の漢字
 4-3:社会的スキル訓練(SST)
 4-4:協同の認識
 4-5:ケーガンの基本要素
 5-1:授業記録紙の質問項目
 6-1:授業通信の作成
 6-2:不在者への配慮
 6-3:対話中心授業
 7-1:LTDを支える理論
 8-1:LTDミーティング中の留意点
 9-1:PBLの基本的な流れ

資料一覧
 資料1-1:研修計画:日程と内容
 資料4-1:協同学習の基本要素
 資料5-1:授業記録紙
 資料6-1:授業通信(1号)
 資料6-2:授業通信(2号)
 資料7-1:LTD解説資料
 資料8-1:LTD課題文

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「現場で活躍する人」を育てる方法を学ぶために(雑誌『看護教育』より)
書評者: 知念 榮子 (学校法人湘央学園浦添看護学校 校長)
 本書は、安永悟氏が数多くの研修会で永年取り組んでこられた「LTD話し合い学習法」を、紙上研修として著した書である。著者が紙上研修とした意図は、時間的制約や物理的制約を越えて、誰もが参加できるからとしている。そして「伝えたい内容を体系的かつ系統的に伝えられ」、著者が研修中に「なにを手がかりに、なにを考え、なにを意図して、どのように振る舞っているのかをタイミングよく盛り込むことができる」と述べている。確かに、本書はすべて語り口調で記されており、対面研修とほぼ同様な感覚が得られ、著者を身近に感じることができる。また、常に手元に置いて、疑問に思うことはすぐに、あるいは読み手の時間があるときに何度でも確認ができる。読みやすく、「LTD話し合い学習」に関する本を初めて手にする人でも容易に理解ができる。

 本書の構成内容は、大きく、①学びの場づくり、②教育の目的と方法、③協同学習の考え方、④LTD話し合い学習法、⑤分割型LTDの体験、⑥LTD授業モデル、からなっている。そのなかで私が注目したのは、「教育の目的と方法」の章である。著者が教育研究活動の目的とした「『現場で活躍できる人』の育成」で述べている人材像は、私自身も共感することができ、厚生労働省「看護基礎教育検討会報告書」で示された、看護師等養成所の運営に関する指導ガイドライン改正案の「教育の基本的考え方」に通ずるものがある。これからの看護基礎教育は、著者が本書で述べている「常に変化成長できる人」を育てることに尽きると思う。「常に変化成長できる人」とはどのような人材か、ぜひ本書で確認していただきたい。

 私がこの本を語るうえで欠かせないと思ったもう1つの点は、本書のテーマである「LTD話し合い学習法」である。「LTD話し合い学習法」は、読むということを7つのステップに区分している。そのステップをふむことで、自ずと「考えながら読む」ことにつながっていくと感じた。さらに、著者が「LTD授業モデル」の章で述べている「LTD基盤型PBL」は、先に挙げた報告書の指定規則改正案で強調されている臨床判断力の育成に必要な学習方法になると思われる。

 ところどころにあるコラムは、本文で示された著者の考えを補足しており、本文の理解を容易にしたり深めたりしてくれる。読み終えたとき、授業改善にチャレンジしたい、できそうだという気持ちにさせられる1冊である。

 本書には、協同学習においてどのあたりに目を配る必要があるかが詳細に記されているため、これから協同学習に挑戦しようとしている方だけでなく、すでに実践している方にもお勧めしたい。

(『看護教育』2020年1月号掲載)
協同学習やLTDのポイントが端的にまとまった実践書
書評者: 栗林 好子 (東京医療保健大助教・看護学)
 本書はLTD(Learning Through Discussion:話し合い学習法)に長年取り組んでおられる安永悟先生の著書です。協同学習に依拠したLTDの理解のため,本書前半は基本的な協同学習の活動(内容や手順),後半はLTDの活動について書かれています。特徴的なのは,紙上で研修会を再現して構成されていることです。

 本書を読みながら,以前に著者が講師をお務めになった研修会(協同学習ワークショップ〈ベーシック〉)に参加したことを思い出しました。その研修会が私の協同学習にかかわるきっかけになったのですが,正直に言うとその時の研修会はやや不消化に終わっていました。これは著者自身も本書の中で語っていますが,研修会では対象の人数やレディネスを考慮し,内容や方法も吟味した上で,限られた時間の中で伝える内容を絞っていくため,伝えたいことを全て盛り込むことはできず,研修会はきっかけにすぎないと割り切ることもあると。このような研修会の持つ時間的制約と物理的制約が,研修会で私が感じた不消化の要因になっていたのだと思います。

 しかし,本書においては著者の協同学習・LTDに関して伝えたい内容が,存分に盛り込まれていると感じますし,それらが体系的かつ系統的にまとめられて大変わかりやすくなっています。あの時,本書があったなら……と少々悔しい思いさえする内容でした。また,本書の約半分を占めるLTDについては,私自身の実践経験がなくこれまで理解不十分な点が多かったのですが,本書を読み進めながら紙上のLTD研修に参加する中で,協同学習の技法とのつながりとともに,LTDを支える理論(ブルームの教育理論)とLTDの実践のつながりを容易に理解できました。

 これは,読者を研修参加者に見立てて紙上で研修会を再現するという一見突拍子もない“紙上研修会”の構成が,実際の研修会で行われている研修方法と同様に,実践と理論の関係が理解しやすい画期的な研修受講方法(実際は読書なのですが……)になっている結果だと思います。さらに,研修会などで理解に時間を要する内容について「もう一度説明してほしい」「聞き逃した」ということはよくあります。そのような場合でも,本書の“紙上研修会”では「読み返す」という行為で簡単に解決でき,内容の理解を深めていけるのではないかと思います。

 協同学習やLTDの学習をする人にとって,端的にポイントをまとめている本書は理解を容易にすることは間違いないと思います。また,協同学習・LTDの理論や技法だけでなく,著者の授業づくりにおける秘訣など,参考になる内容がColumn(コラム)や脚注に書かれており授業運営にも大いに活用できると思います。

 ただ,協同学習やLTDを実践するにあたり,「知っている」と「できる」は違うということを日々実感している私としては,紙上ではないリアルな研修会への参加がより本書の理解を促すのだろうなとあらためて思っています。

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