医学界新聞

グラフィックレコーディングのはじめかた

連載 岸 智子

2020.02.10

今回は,グラフィックレコーディングの手法を使うことで,どのような効果があるのか,どういった場面で活用できるのかをご紹介したいと思います。

グラフィックレコーディングを用いると,大きく分けて記録,共有,振り返り,思考の整理,の4つのことが可能になります。以下,順を追って説明していきます。

授業や講演,あるいは会議での伝達事項など,さまざまな場面において私たちはメモやノートを取っています。おそらく,多くのメモは要点をとらえた短い文章や単語などで簡潔に記されていることでしょう。

もちろん,文字情報だけでも十分に記録としての役割を果たします。しかし,この記録という作業の中にグラフィックレコーディングの手法を取り入れることで,記憶の定着など,さらなる効果を生み出すことができると私は考えています。これまでのメモに,図や絵を取り入れることで,記録が楽しいものへと進化し,より価値あるものへと昇華するのです。

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個人のためのツールであるグラフィックレコーディングは,有用なコミュニケーションツールとしての役割も発揮します。例えば,友人と同じ講義を聴講したとして,終了後に印象に残った点や重要だと感じた点を共有してみると,友人と全く意見が異なっていたという経験をお持ちの方も多いはずです。この場面にグラフィックレコーディングを導入することで,「他者との違い」を「価値」に転換することができます。それはなぜか。人それぞれ物事の受け止め方が異なるため,意見の相違は往々にして起こり得ますが,同じ現場に居合わせた人と描いたものを共有することで,解釈や認識の違い,自分とは異なる視点に気付くことが可能になるからです。

また,その場に参加していなかった人に情報を共有する場合は,言葉だけではわかりにくいことでも図があれば話の流れがつかみやすくなりますし,記録した順に沿って伝えるだけで,短時間で簡潔に説明できます

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学生時代,テスト前にノートを読み返したり,まとめ直したりした経験があると思います。それは読み返すことで,忘れていたことを思い出したり,そのときに覚えた知識や体験の定着を図ったりするための行動でした。もちろん,簡潔にまとめられた文章やキーワードだけの記録でも振り返りは十分に可能ですが,言葉で表現された記録は,記載されている通りの情報しか受け取れないために,解釈の幅は広くありません。

一方で,絵や図を用いてイメージで表現された記録は,その場の臨場感や温度感も一緒に想起させられるので,情報の受け取り方や感じ方に大きな影響を与えます。そのため,あらためて記録を読み返すと,リアルタイムでは気付かなかったことや,考えもしなかったことにたどり着くケースもあるでしょう。

経験学習の考え方では,学んだことや経験したことを自分自身のコツにしていくために必要なプロセスが振り返りだとされています。グラフィックレコーディングの手法を取り入れたノートやメモを用い...

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