医学界新聞

低栄養評価ツール

寄稿 木田 圭亮

2020.01.20



【寄稿】

低栄養評価ツール
GLIM基準を心不全診療に生かす

木田 圭亮(聖マリアンナ医科大学薬理学准教授)


 これまでの循環器領域の栄養管理と言えば,高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満など,生活習慣病の改善やメタボリック症候群に対する栄養管理,つまり「痩せるための栄養管理」が二次予防の観点から求められ,カロリーや塩分を制限する栄養指導がなされてきた。

 一方で,心不全は低栄養,サルコペニア,心臓悪液質など,「痩せ」が予後不良であることが知られており,obesity paradoxと呼ばれている。そのため,心不全では「いかに太るか」が課題であり,太るための栄養指導へ向けたパラダイムシフトが重要である。

心不全診療における栄養分野のエビデンス構築を

 これまで心不全領域では,心臓リハビリテーションとしての運動療法が注目を浴び,多くのエビデンスが蓄積されてきたものの,栄養分野のエビデンス構築はまだ道半ばである1)。2018年に日本心不全学会から発表された『心不全患者における栄養評価・管理に関するステートメント2)では,心不全の栄養に関する既知と未知について,ある意味,問題提起がなされたと言えよう。

 心不全患者に対して推奨される運動療法のみを行うだけでは患者はより痩せてしまうリスクがあり,栄養補給なしの運動療法は一種の「修行」となってしまう。すなわち,心不全における運動療法と栄養療法は,切っても切り離せない関係なのである。そのため近年は,心不全の痩せや低栄養の原因と叫ばれるサルコペニア,心臓悪液質,そして,心不全と腸内細菌叢との関連などについても研究が行われ,栄養分野のエビデンス構築がめざされている。

心不全における低栄養の原因

 心不全では,筋タンパクの異化と同化のバランスが容易に崩れるために低栄養となるリスクが高い(図1)。さらに,心不全増悪などによる急性心不全の入院では,慢性心不全の場合と比較して,①炎症性サイトカイン,カテコラミン系,ナトリウム利尿ペプチド系のさらなる活性化によるタンパク質異化,脂肪分解の亢進,②努力呼吸による呼吸筋仕事量の増加,③肝うっ血によるアルブミン生成低下,④腸管浮腫による栄養素の吸収低下,⑤食事摂取量の減少などの理由からサルコペニアを引き起こしやすい2)。急性心不全の病態は時間軸を意識して,より早期にうっ血と低心拍出を解除することが重要である3)

図1 心不全における低栄養の原因
心不全では,種々の問題により栄養素の供給が減少しやすいにもかかわらず,エネルギー需要は増大する。そのため負のエネルギーバランスになりやすく,筋タンパクの異化が亢進する。

 一方で,過度な食事(カロリー)制限もしくは絶食による栄養不足,必要以上の安静による筋肉量の減少は医原性サルコペニアを引き起こす。心不全を恐れるあまり,長期臥床となることで,循環器病棟では医原性サルコペニアに陥るリスクが高い。そのため多職種による心不全チームで介入したい課題であり,特に栄養面で着目したいのは塩分摂取量のコントロールである。

 心不全の病態において過剰な塩分摂取は,増悪のリスクであることは間違いないものの,高齢者では塩分制限による食欲の低下,食事摂取量低下を招く可能性もあり,摂取量のさじ加減については栄養状態を考慮しつつ,塩分制限を解除することも必要となる。例えば,1日当たりの減塩目標値である6 gの食事を提供...

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