LGBTQ2+(新福洋子)
連載
2019.08.26
未来の看護を彩る
国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。
[DAY 2]LGBTQ2+
新福 洋子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻家族看護学講座准教授)
(前回よりつづく)
先日,Global Young Academy(前回・3331号参照)の私の友人が「LGBT Ally」のピンバッジを着けていました。「私はLGBTの友人だから,気軽に相談してね」という合図なのだそうです。国際的な場では相手の考え方や受け止め方を知ることが難しいため,わかりやすい受容のサインであると思いました。
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“2+”の“2”は“two spirits”という先住民族の中で性的マイノリティであると自認する人たちが,LGBTコミュニティの中でもマイノリティでありLGBTとして自身を表現できなかったときに,先住民族のdecolonizationの意味合いも含め,“2”という別の表現を用いたようです。Decolonizationには,植民地の脱植民地化という意味に加え,「抑圧されて劣等感を抱かされ,自分を正直に表現できないことからの解放」という意味もあるようです。
“+”は,他にもさまざまなセクシュアリティがあることを,包括的に愛と受容をもって示す表現だそうです。確かにどんどん細分化されてアルファベットが増えると表記が大変になるので,“+”の表現はなるほどと思いました。
この議論に積極的な団体は,アンケートなどで性別を聞くときに「男女」に加えて「その他」を設けています。また,英語には第三人称があり,「he or she/him or her」とすることがありますが,実はこれも「その他」が含まれない表現であると,最近ではできるだけ「they/them」としていると聞きました。日本に帰ってくると,書類上「その他」のカテゴリーはなかなか見掛けません。日本でも「その他」がないことで困っている人がいるのだろうな,という気持ちになります。
他にも,「妊婦さん」は“pregnant woman”というのが一般的ですが,自分を女性というカテゴリーに入れたくない方もいるため,“pregnant person”が中立的な表現ではないかとの考え方もあります。一方で,「女性はこれまで抑圧されてきたのだから,“女性”を前面に出すことも必要」との議論もあり,現在は一般的に“pregnant woman”が使われています。“pregnant person”は「妊人さん」と訳されるのでしょうか? まだこれは先の議論になりそうです。
LGBTQ2+の議論は開発途上国では認められていない場合もあり,国際的な場で議論するのが難しい面もあります。先進国・途上国に限らず,文化によってもとらえ方はさまざまです。現在ソーシャルメディアも含めて,自身の意見を気軽に大勢の目に触れる場へ投稿することが可能です。私もこのコラムをできるだけ中立的に書いているつもりですが,自分への戒めも含めて言いたいことは,何か発言する際に,「この表現によって疎外される人はいないか」を意識する必要があるということです。それによって表現の自由との齟齬が生じる場合があると思いますが,誰かを疎外する可能性がある場合には,注釈等で「この表現を用いたが,○○を除外しない」という一言を付け加えると,この問題に敏感な人も安心して読めるのではないかと思います。
(つづく)
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