医学界新聞

連載

2019.09.23



未来の看護を彩る

国際的・学際的な領域で活躍する著者が,日々の出来事の中から看護学の発展に向けたヒントを探ります。

[DAY 3]Gサイエンスと総理手交

新福 洋子(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻家族看護学講座准教授)


前回よりつづく

 例年,G7サミットに合わせてG7科学アカデミー会合(通称Gサイエンス)が開催されます。日本からは日本学術会議より推薦されたメンバーが派遣されます。2019年のG7議長国はフランスで,Gサイエンスは3月24~26日にパリで開催され,若手アカデミーからテーマに合った派遣者が募られました。私はこれまでGlobal Young Academy(GYA)の会合など,若手科学者同士の議論に参加し経験を積んできたため,シニアの科学技術のハイレベル会議にも参加してみたいと思い,手を挙げました。その後日本学術会議より推薦が得られ,私も参加することになりました。

 Gサイエンスは毎年議長国がテーマを選出します。今年は「科学と信頼」「人工知能と社会」「インターネット時代のシチズンサイエンス」の3つのテーマが提示されました。シチズンサイエンスに関しては,日本の若手アカデミーでも2018年から注力してイベントや議論を行っています。私も毎回参加して日本の現状を学んでいたため,そのテーマの専門家として派遣されることになりました。

 派遣前から提言書の素案が送られてきて,それに対し意見を出すという作業を数回繰り返しました。その段階で,同じシチズンサイエンスでも,国や場所が変わると,議論する内容が変わることを感じました。日本では,科学者と市民が一つの科学的な知見を共創するに当たっての関係性の在り方や,オープンサイエンスが推進される現代にシチズンサイエンスはどう発展していけるのか,具体的に実行していくために必要な資源等を中心に議論されています。一方Gサイエンスでの議論は,欧米で話題になっているDIYバイオロジー()やインターネット上でのゲームやコンペによるデータ収集などに対し,研究機関が介在しないために,倫理規定が守られないことや研究の科学的な質を保てないことへの懸念が前面に出ているように感じました。発展と統制はどちらも科学にとって重要な議論ですが,各国の置かれた状況により,このような違いが生じるようです。

 Gサイエンスの会議場では,G7参加各国の科学アカデミーの会長やノーベル賞受賞者が並び,非常に緊張しました。まず,参加者全体で各国アカデミーの状況報告や今後のGサイエンスでの議論の方向性などが話し合われました。若手が出席することが珍しかったため,議長からGYAや日本の若手アカデミーについて質問があり,発言の機会を得ました。グループに分かれての提言書の議論に移った後は,提言の細かな表現の確認や,優先順位に関する議論などが行われました。若手の参加者は日本人のみでしたが,若手も意見を言いやすい雰囲気で,意見は提言に反映されました。

 提言がまとまり日本に帰国した後は,G7サミットに参加する内閣総理大臣にGサイエンスの成果を報告するのが恒例です。今年は7月25日に記者会見を行い,8月8日に総理大臣官邸に伺って総理手交を経験しました。総理大臣の前で提言の内容を説明する機会を得られたことは非常に貴重で,国のために働いたという気持ちになりました。総理手交は科学的助言(DAY1・3331号参照)の最たるものです。科学的助言の機会が与えられたときに対応するには,普段からの学際的な議論・活動が重要だと考えました。

総理手交の様子,一番左が著者(日本学術会議提供)

 提言の原文と翻訳は日本学術会議ウェブサイトに掲載されています。

つづく

註:個人や共同体が研究機関外で生命科学や生物学の研究をすること。研究資源や道具が容易に手に入るようになったことで積極的に行われている。