一歩進んだ臨床判断
[第2回] 血液培養の採取基準と採取方法
連載 谷崎 隆太郎
2019.08.26
一歩進んだ臨床判断
外来・病棟などあらゆる場面で遭遇する機会の多い感染症を中心に,明日からの診療とケアに使える実践的な思考回路とスキルを磨きましょう。
[第2回]血液培養の採取基準と採取方法
谷崎 隆太郎(市立伊勢総合病院内科・総合診療科副部長)(前回よりつづく)
こんな時どう考える?
70歳男性,肺炎治療のため入院中。「寒いから毛布をください」とナースコールがあり,訪室すると,ガタガタと全身を震わせている場面に遭遇した。体温は37.0℃,血圧110/56 mmHg,脈拍99回/分,呼吸数25回/分,SpO2 94%(RA)。次に取るべき行動は何だろうか? |
看護師の重要なスキルの一つに,末梢静脈経路確保や採血があります。今回は採血に関する話のうち,血液培養の必要性と採取時のポイントについて説明します。まずは,菌血症と敗血症の用語の確認から始めましょう。
菌血症と敗血症の違いは?
菌血症とは,血液の中に細菌がいる状態を指します。もともと血液内は無菌ですので,細菌がいるということはもうそれだけで異常事態です。血液培養検査は,この異常事態を見つけに行くことが主な目的になります。多くは敗血症を合併しています。
では敗血症とはどのような状況でしょうか。敗血症は,感染症によって全身性の炎症反応が起こり,臓器障害を来している状態を指します。敗血症の定義は数十年の時を経て徐々に変化してきましたが,現在の定義では菌血症合併の有無は問いません。ですので,菌血症でない(血液培養陰性の)敗血症という病態は一般に存在します。ただし,菌血症を合併していると治療期間が変わったり,合併症のリスクが変わったりと,結果によってはその後の治療方針に大きく影響しますので,「敗血症かな?」と思ったときは血液培養が必須の検査となるのです。
血液培養をなぜ採取するのか?
血液培養を採取する理由は何か。それはズバリ,菌血症を見逃さずに診断するためです!(細かいようですが,敗血症の診断ではなく,菌血症の診断です。血液培養陽性=菌血症と考えます)。多くの場合,血液培養が陽性になれば正確な診断がつき,そして正確な治療へとつながります。もしも最初に投与された抗菌薬が外れていても,血液培養結果が判明した時点で適切な抗菌薬に変更すれば,患者さんの予後悪化を防ぐことができると知られています1)。
なお,血液培養は1セットだけでは菌血症の30%ほどを見逃しますので(図)2),2セット採取が基本中の基本です。1本ではなく1セットと呼ぶのは,好気ボトルと嫌気ボトル2本で1セットと数えるからです。すなわち,2セットとは合計4本のボトルのことです。感染性心内膜炎を疑う場合には3セット以上が必要になります。医師から3セット目の指示が来たら,「感染性心内膜炎疑いですか?」と尋ねてみましょう。きっと,一目置かれること間違いなしです。
図 血液培養のセット数と検出感度の関係(文献2より作成) |
■備えておきたい思考回路
血液培養といえば,2セット(以上)の採取が基本!
血液培養をいつ採取するのか?
では,血液培養はいつどのような場面で採取すべきなのでしょうか? 「発熱したら血液培養採取との指示をよく受けるけれど,それ以外に取るべき状況ってあるの?」との疑問を持つ方も多いかもしれません。そう,そこなのです。確かに発熱は菌血症の主症状の一つなので,「発熱患者を見たら血液培養採取」,これは正解です。でも,血液培養を採取すべき場面は発熱時に限らず他にもあるのです。
まず覚えておきたいのが,悪寒戦慄です。シバリング(shivering)とも呼ばれます。これは,毛布を被りたくなるくらいにガチガチと震えるような強い寒気であり,菌血症を強く疑う所見として知られています。このように震えている人を見たら,すぐに医師に報告して血液培養検査の準備に取り掛かりましょう。
なお,この悪寒戦慄の時点で患者さんは必ずしも発熱しているとは限りません。ただし,震えている段階で,すでに血液中には菌が存在していますので,発熱の有無にかかわらず血液培養検査の準備をしてしまってOKです(多くの場合は,次第に発熱してきます)。これに加えて,原因不明の「ショック」「意識障害」「低血糖」なども菌血症の可能性がありますので,血液培養採取が必要です。「原因不明の」が判断のポイントです。
なお,熱の高さと血液培養の陽性率には相関がありませんので3),熱の高い低いに関係なく,上記のような臨床徴候を認めたら血液培養を採取しましょう。高熱どころか,最初の体温が低いほうがむしろ死亡率が高いとの報告もあります4)。
■備えておきたい思考回路
患者が震えていたら,熱の高さにかかわらず血液培養検査の準備を!
血液培養の取り方のポイント
最後に,具体的な血液培養採取時のポイントについて確認します(表)。私たちの皮膚表面には常在菌と呼ばれる細菌が住み着いていますので,消毒せずに血液培養を採取すると皮膚にいる常在菌が血液培養で生えてしまいます(コンタミネーションと呼びます。通称:コンタミ)。よって,まずは皮膚表面の消毒が必須です。消毒薬にはクロルヘキシジン,アルコール,ポビドンヨードなどを用います。これらの消毒薬のうち,クロルヘキシジンを用いたほうがコンタミネーションのリスクが低いとされています5)。
表 血液培養採取時のポイント | |
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採取部位は上肢が望ましく,汚染リスクの高い下肢からの採取はできる限り避けたいところです。また,採取時には針先を清潔にしたまま採取する必要がありますが,必ずしも,清潔手袋でなければいけない,ということはありません。とにかく,針先が清潔であることが必須です。
血液培養1セットあたり20 mLの血液を採取し,それぞれのボトルに10 mLずつ分注します。その際,嫌気ボトルに空気が混入しない方法を遵守することが重要です。針先まで血液で満たされている場合は「嫌気ボトル→好気ボトルの順」に分注してOKです。翼状針を用いた真空管採血など,現場ではさまざまな採血方法が選択されるかと思いますが,どんな方法であれシンプルに「嫌気ボトルには空気を絶対に入れない!」ことを遵守しましょう。
血液採取後は血液培養ボトルのキャップを指で開け,アルコール綿でボトル上部を清拭してから針を刺します。おっと,ここで針を替えなくていいですよ。確かに針を替えるとコンタミネーションは減りますが6),それは看護師の針刺しリスクを上回るほどのメリットでないと思いますので,針はそのままでOKです。
1セット目と2セット目は違う部位からの採取が望ましいとされています。でも,どうしても採取に適当な血管が見当たらない場合,時間を空けて同じ血管から採取することもやむなし,ということもあります(推奨はしませんが)。ちなみに,動脈採血でも静脈採血でも陽性率に差はありません。
■備えておきたい思考回路
清潔操作で採取し,嫌気ボトルに空気を入れない。この2つに注意する!
さて,冒頭の患者さんは血液培養2セットを採取したところ,Serratia marcescens(セラチア)が検出されました。他の臓器異常は見られず,末梢静脈カテーテルからの血流感染症と考えられました。適切なタイミングで血液培養が採取されたことで迅速な診断・治療につながり,患者さんは無事回復に向かいました。
今日のまとめメモ
血液培養の理解は深まりましたか? 身近な検査ながら,「皆さんの採血が患者さんの命の行方を左右する」と言っても過言ではないくらい重要な検査です。 血液培養検査の陽性率は全体ではそれほど高くないのですが,たとえ培養陰性でも「これは明らかに血流感染症ではないな」との有益な情報が得られます。つまり,陽性の結果だけでなく陰性という結果にも臨床的意義がありますので,ぜひ血液培養検査に親しみを持ってかかわってみてください。 |
(つづく)
参考文献
1)Clin Infect Dis. 1997 [PMID:9145732]
2)J Clin Microbiol. 2007 [PMID:17881544]
3)JAMA. 2012 [PMID:22851117]
4)Crit Care. 2013 [PMID:24220071]
5)PLoS One. 2012 [PMID:22984485]
6)Clin Infect Dis. 1995 [PMID:8589128]
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