「入学前教育プログラム」と高大接続(井部俊子)
連載
2019.07.22
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部 俊子 長野保健医療大学教授 聖路加国際大学名誉教授 |
(前回よりつづく)
今期,一般入試以外で入学した本学(長野保健医療大)看護学部の入学生は「入学前教育プログラム」を受講していた。私は看護学部長としてこのしくみを十分認識していなかった。いったいどのようなからくりで彼ら・彼女らは大学入学前,つまり高校生の時に「入学前教育プログラム」に出会ったのかを調べてみた。
大学入学前教育プログラム
大学はまず,入学前年の11月にA社と業務委託契約を締結する。希望者受講とし,受講費は全額受講者負担である。入金先はA社が収納代行して前払いとしており,受講案内の送り先は「受講確定者在籍高校宛」の「3学年進路ご担当教諭」である。
保護者向け文書はA社が作成し,本学名で発送する。このような文面である。「(前略)本学ではご入学に向けて,『入学前教育プログラム』を実施しております。本プログラムは,入学後に必要な基礎学力の確認とともに,これからの学びに関する内容に触れ,学習意欲の向上を図ることを目的としております(後略)」。入学予定者への文章はもっと踏み込んでいる。「入学後の学びの土台となりますので,入学予定者の皆さまには受講されることを強く推奨いたします」とある。
入学前教育プログラムは,採点指導付き自宅学習の形態であり,「看護・医療系総合テキスト」「提出課題(テキストの確認)」「ワークブック」から構成される。プログラムの開始は1月中旬,最終課題の提出は2月下旬であり,受講料は2万7000円である。「本学の指揮監督により外部業者と協力して実施しています」と記載されているが,本学はほとんど関与していない。
受講者は氏名,住所,電話番号,受験番号,高校名などの個人情報をA社に提供し,入試方法の欄では,指定校推薦なのか公募推薦なのか,社会人入学なのかをチェックする。つまりA社は,受講者の成績結果は連結可能であり,特定できる。受講申込書の下段に小さく個人情報は本学が取得・管理すること,委託業務に必要な範囲で業務委託先に預ける場合があると記載した上で,保護者に署名を求めている。大学側は,業者から提出された採点結果をもとに集団の傾向のみならず特定化した個人データを知ることができる。
高大接続改革
「入学前教育プログラム」に遭遇して,私の脳裏に浮かんだことがある。それは「高大接続改革」である。2013年10月,教育再生実行会議の「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について(第四次提言)」を皮切りに,中央教育審議会は2014年12月に「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革について――すべての若者が夢や目標を芽吹かせ,未来に花開かせるために」と題した答申を出している。続けて,2015年1月に,文部科学大臣決定として「高大接続改革実行プラン」を公表し,さらに2016年3月には高大接続システム改革会議が「最終報告」をまとめている1)。
率直に言うと,私は大学人として大学教育と大学入学者選抜については関心を持っていたが,高等学校教育への関心は高くなかった。本稿では,高大接続システム改革会議の「最終報告」を確認したい。
まず,高大接続改革で論じられる「学力の3要素」がある。つまり,「これからの時代に向けた教育改革を進めるに当たり,身につけるべき力として特に重視すべきは,①十分な知識・技能,②それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力,そして③これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」である。
高等学校教育改革では3つの観点が示される。1つ目は,育成すべき資質・能力を踏まえた教科・科目等の見直しなどの「教育課程の見直し」であり,2つ目は,アクティブ・ラーニングの視点からの「学習・指導方法の改善」と教員の養成・採用・研修の改善を通じた「教員の指導力の向上」,3つ目は,学習評価の在り方の見直しや指導要録の改善などの「多面的な評価の推進」に取り組むことである。
中でも,高等学校段階の基礎学力の定着度合いを把握する仕組みの構築として「高等学校基礎学力テスト(仮称,当時)」の導入がかなりの頁を割いて説明される。具体的な実施内容や運営の方針等は「専門家や関係者の協力を得ながら実証的・専門的な検討を行い,具体化を進めていくことが必要」としつつも,2023年度からの実施を目指すとしている。
「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の実施に当たっては,可能な業務は積極的に民間事業者の知見を活用して効果的な連携を図ることとされることから,今回私が体験した「入学前教育プログラム」はその一環かもしれない。
さらに,「高等学校基礎学力テスト(仮称)」の活用も含め,各学校の教育目標の実現のための「カリキュラム・マネジメント」を確立し,学校における「PDCAサイクル」の構築を提唱している。
米国では,高校の課題を高校関係者だけで,大学の課題を大学関係者だけで話し合うのではなく,それぞれの課題を共有し合うという意識が高く,その象徴的存在としてNACAC(National Association for College Admission Counseling)という巨大な教育組織がある。わが国でも,「改革のステークホルダーが一堂に会して,利害を超えて自由に議論を交わし,解決への道筋を話し合っていくことが必要」2)という意見に賛成である。あらためて,高校教員と大学教員が連携し,教育を充実させる糸口として相互交流することが必要であることを認識した。
(つづく)
参考文献・URL
1)文科省.高大接続システム改革会議「最終報告」の公表について.2016.
2)東洋経済オンライン.教育の大転換「高大接続」を知っていますか?.2016.
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