医学界新聞

2019.06.10



Medical Library 書評・新刊案内


熱血講義! 心電図
匠が教える実践的判読法

杉山 裕章 執筆
小笹 寧子 執筆協力

《評者》佐田 政隆(徳島大大学院教授・循環器内科学)

患者を前にして心電図をいかにひもといていくかがわかる,世界一受けたい授業

 心電図はWillem Einthoven先生が100年以上前に発明し,ノーベル賞受賞につながった素晴らしい医療機器である。その当時とほぼ変わらない記録法であるが,超音波,CT,MRIなどが発達した現代であっても,聴診器と並んで,日常診療には欠かすことができず,多くの情報をもたらしてくれる。しかし,その「読影」にはチョットしたコツが要り,「心電図は苦手」という学生,研修医や循環器非専門医の声をよく聞く。

 本書の著者である杉山裕章先生も「心電図は元々大の苦手」だったそうであるが,誰よりも心電図を愛し,悩み苦労しながら,周りの大家の意見を参考にして,「匠の技」を磨いていったことが本書でよく理解できる。

 大体の心電図の教科書は,心電図の原理,刺激伝導系の解説から始まり,それぞれの波の意味や不整脈,虚血の心電図について解説されているが,本書は全く違う。どのような状況で,その異常心電図の波形を手にして,著者が,患者と心電図のどこをどのように診て,診断していったかが詳細に解説されている。中には,初診時に誤って診断して,どのようにして正解にたどり着いたかについての体験談もある。いろいろな鑑別診断が考えられる中,ヒヤヒヤしながら抗不整脈薬を注射して,自分の読み方が正しかったとわかりホッとする状況が臨場感をもって記述され,親しみが持てる。診断の遅れが生命予後を大きく左右するST上昇型急性心筋梗塞や肺塞栓なども,患者を前に心電図をいかに生かしていったかがよく理解できる。また,電極のつけ間違いに関しても丸々1章を割いて対処法が解説されているのも驚いた。ほとんどの心電図学の教科書にはまず書いていないが,実臨床では時々遭遇し対応が必要な「異常心電図」である。

 本書は,0章から10章までがオムニバス形式で書かれており,どこから読んでも,各章ごとで完結することができる。巻頭言に「すべての患者さまは私にいろいろなことを教え,そして気づかせてくださる最高の“教科書”です」と書いてあるように,患者に真摯に向き合い,心電図を奥深く読んでいく,著者の日常臨床が垣間見られる。私も,ハラハラドキドキしながら,思わず一気に読み上げることができた。

 本書には,いろいろなところに他の教科書には見られない工夫がされているのも特徴である。一枚一枚の心電図にはQRコードが付いており,高解像度でダウンロードできることもありがたい。また,各章の後ろには確認テストが用意されていて,理解を深めることができる。そして,各章,小笹寧子先生の「小笹流 私はこう読む」という別の循環器内科医としての所感を読むことができることも興味深い。

 全ての章が平易な言葉と非常にわかりやすい図で解説されており,まさしく,患者を前にして,心電図をどのように読んでいくべきかについて熱血講義を受けていることを実感できる型破りの心電図教科書である。心電図を苦手に思っている人にも,心電図に自信がある人にもお薦めの名著である。本書を読んだ後は,全ての読者がより心電図を愛することになるであろう。

A5・頁400 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03603-0


標準生理学 第9版

本間 研一 監修
大森 治紀,大橋 俊夫 総編集
河合 康明,黒澤 美枝子,鯉淵 典之,伊佐 正 編

《評者》小野 富三人(大阪医大教授・生理学/研究支援センター長/学長補佐)

信頼と伝統の安定感

 『標準生理学』は私が本郷で医学生だった頃から使っていた教科書で,あの頃の焦げ茶色でザラザラした革のような手触りを懐かしく思い出す。今は時代も変わり,新雪のような純白でサラサラの表紙の本になっている。見かけは変わったが,その重厚な内容や,医学生や生理学の教育者にとっての位置付けは変わらない。私が生理学の道に進み,現在でも生理学の分野で研究や教育に従事しているキッカケの一つを作ってくれた書物であることは間違いない。

 本書冒頭の初版序にある,「生理学は『理解する学問』である」の言葉は生理学の本質を突いている。医学知識の増大につれて,ますます膨大な暗記量を強いられる医学生は,生理学に出合った時にも暗記で乗り越えようと考えてしまいがちである。そんなときに本書の丁寧な説明を読み,“腑に落ちる”ことによって暗記をしなくても生体内の現象が理解できるという体験をすることは,学年が進んで臨床科目を学習する際の貴重な道しるべとなるだろう。

 とはいえ,本書の厚みを見ると,勤勉な学生であっても気圧されてしまうかもしれない。私はいつも講義の際,学生たちにまず講義で大筋をつかむことを勧めており,そのためにストーリー性を持った講義を心掛けている。そうやって

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