医学界新聞

2019.05.27



Medical Library 書評・新刊案内


新生児学入門
第5版

仁志田 博司 編
髙橋 尚人,豊島 勝昭 編集協力

《評者》横尾 京子(広島大名誉教授)

今日の新生児医療の実践に不可欠な知識が詰まった一冊

 『新生児学入門』の初版から30年,数度の改訂を経て第5版が発行されました。もちろん,本書でも「日常の臨床で行っていることの科学的な理由を理解してもらう」という初版からの目的が貫かれており,表紙に配された英文タイトルでも「Scientific Basis of Clinical Neonatology」とうたわれています。大きく変わったのは,より進歩した新生児医療に応えるべく,髙橋尚人先生と豊島勝昭先生の両先生を編集協力として立てられ,さらに,新生児学各分野の専門の先生方が新たに執筆担当に加わったことです。本書は全22章から成り,2つに大別されています。1つは,新生児医療を支えるフィロソフィーと基本知識(第1~8章,第22章),もう1つは,新生児の適応生理と発達,および病態やその臨床(第9~21章)です。残すべき内容,加えるべき内容が吟味され,全体として第4版と同じ分量(432ページ)が維持されています。

 第1~8章は,これまでのように仁志田博司先生が執筆されており,新生児医療の考え方に一貫性が維持されています。加えて,新しい知見や方向性が重視され,第1章「新生児学総論」には新生児の薬物動態の特徴,第2章「発育・発達とその評価」にはフォローアップが追加され,第22章として「災害と新生児医療」が新設されました。一方,第3章「新生児診断学」から「検査結果の読み方」は省かれています。続く各章「新生児の養護と管理」「母子関係と家族の支援」「新生児医療とあたたかい心」「新生児医療における生命倫理」「医療事故と医原性疾患」では,仁志田先生作詩「新生児(あなた)に生きる」(巻頭p.ⅴ)をほうふつとさせ,新生児にかかわることの幸せの意味を知ることができます。

 本書の後半もこれまで以上に洗練された構成と内容になっています。出生直後の適応生理が考慮され「体温調節と保温」の次に「新生児蘇生」「呼吸器系の基礎と臨床」「循環器系の基礎と臨床」と続きます。「新生児蘇生」は,第4版の「呼吸器系の基礎と臨床」から独立し章立てされたものです。そして「水・電解質バランスの基礎と臨床」「内分泌・代謝系の基礎と臨床」「栄養・消化器系の基礎と臨床」「黄疸の病態と臨床」「血液系の基礎と臨床」「免疫系と感染の基礎と臨床」「中枢神経系の基礎と臨床」「先天異常と遺伝」(本章は内容が一新されています)「主要疾患の病態と管理」と続き,いずれの章にも今日の新生児医療の実践に不可欠な知識やヒントが示されています。次版改訂の機会には,新生児のQOLを保証するためにも,「新生児の痛みの生理とケア」の記述が加わることを願っています。

 助産や新生児看護をめざす若者や,新生児医療に従事する臨床家の皆さまが,あらためて日常ケアの科学性を解き明かすためにも,本書を活用されることをお勧めいたします。

B5・頁456 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03625-2


インターライ方式ガイドブック
ケアプラン作成・質の管理・看護での活用

池上 直己,石橋 智昭,高野 龍昭 編
池上 直己,高野 龍昭,早尾 弘子,土屋 瑠美子,石橋 智昭,小野 恵子,阿部 詠子,五十嵐 歩 執筆

《評者》山田 雅子(聖路加国際大教授・在宅看護学)

病院でも,在宅でも,ケアの評価と質改善に活用できる

 インターライ方式は,自宅や施設で生活する要支援・要介護高齢者に多職種で提供するサービスの質を管理するために標準化されたツールです。病院では,看護診断や標準看護計画といったツールを用いて看護ケアの質を担保している例が多いかもしれません。しかし,患者が退院した後に介護保険サービスなど多職種チームで長期的な視野からケアを提供する場合には,院内で活用されている看護記録システムは役に立ちません。

 家で過ごす高齢者は多様です。在宅ケアにかかわる看護師は一人一人の高齢者に対して,超個別な看護サービスを提供しているかもしれません。それにより利用者満足度は高いかもしれません。ですが,そのサービスの質が本当に高いかについては,おしなべて評価することができません。例えば,訪問看護ステーションの利用者のうち,褥瘡発生者の割合やその改善率,栄養状態の改善や排泄の自立に向けた達成度の算出などは難しい状況が続いています。ですが,いつまでもそれでよいわけではありません。

 インターライ方式は,日頃から在宅ケアを利用する全ての高齢者のアセスメント,計画立案,モニタリングに使用すると,そのまま事業所の質管理指標としてデータ分析が可能となります。ケアマネジャーがインターライ方式を活用することによって,事業所ごとのケアの質を比較することができるでしょう。ケアマネジャーの多くが福祉職となった今,医療的な課題も含んだインターライ方式を活用することで,介護のみならず,最低限必要な医療に関する配慮について目を向けることができ,その対応の概要をケア指針から確認することもできます。

 インターライ方式の特徴は,A~Vのセクションからなるアセスメント表に沿って高齢者の情報を入力すると,27種類のケア指針(Clinical Assessment Protocol;CAP)につながるようになっていることです。例えば失禁や皮膚の状態に特定の情報が入力されると,「CAP18.褥瘡」を検討することが必要だとわかります。インターライにこれまで積み重ねられたデータを活用して,コンピュータで解析された結果,その高齢者に必要なCAPを確認できるという仕組みに作り上げられています。

 さて,ここまでは『インターライ方式ケアアセスメント――居宅・施設・高齢者住宅』(医学書院)という青い本の説明でした。今回紹介するのは,『インターライ方式ガイドブック――ケアプラン作成・質の管理・看護での活用』で,真っ赤な本です。青い本は英語を翻訳したものがベースですから,例えばCAPの根拠には英語文献が紹介されています。米国と日本の高齢者ケアの環境は異なりますので,真っ赤な本が必要となるのです。真っ赤な本では,具体的な事例が取り上げられていて,事例に基づくアセスメント,CAPの検討が介護保険で使用する様式に整理されており,日本のケアマネジャーが参考にすることができるのです。

 インターライ方式は,自宅や施設で暮らす高齢者をケアするための,米国で開発されたアセスメント手法です。インターライのインターはInternationalで,RAI(Resident Assessment Instrument)との造語です。すでにシステムは,コンピュータで利用できるサービスソフトとして活用可能な状態にあります。理論的には国際的なケア指標として活用し,ケアの質改善に利用することができるのです。ケアマネジャーが仕事の評価にも使えますし,自治体が地域全体のケアの質改善に活用することも可能です。また,地域ごとのケアの質を国際的に比較することもできるということです。

 冒頭に,病院ではインターライ方式が活用されていないとしましたが,実は病院での活用も含めて検討できるといわれています。急性期病院でもインターライ方式を活用することで,高齢者の生活に即した視点での看護を考えるきっかけになるかもしれません。

 このようにインターライ方式の活用はどこまでも広がっていく可能性がありますが,一つだけ注意が必要です。それは,複数のCAPが上がってきたとき,統合については人が考えるという点です。アセスメントの統合には,高齢者たちの意思決定とそれを支援する医療・介護専門職のチーム力が必要です。

 インターライ方式は,医療・介護に携わる多職種の仕事を広く支援してくれる道具であると考えます。病院内外に限らず,インターライ方式の文化に触れてみてはいかがですか。

A4・頁280 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03444-9


行動変容をうながす看護
患者の生きがいを支えるEASEプログラム

岡 美智代 編

《評者》安酸 史子(関西医大教授・看護学教育)

生きがいを支えることで,無理なく行動変容を導く

 編者の岡美智代氏は,社会心理学の研究家である山岸俊男氏の『心でっかちな日本人』(ちくま文庫,2010年)という著書で,理屈ばかりで行動が伴わない「頭でっかち」に対して,心の持ち方さえ変えれば全ての問題が改善できると考えることを「心でっかち」と呼ぶという内容を読んで,やる気にさえなってくれれば行動が変わるだろうと思っていた自分が「心でっかち」だったと気付いたという。どんなに精神論を強調しても,どうしていいかわからなければ患者は行動を変えられない。やり方だけ強調されても,やる気が起こらなければ患者は行動を変えようとしない。私は,看護学で扱う種々の理論を「絵に描いた餅」ではなく「食べられる餅」として具体に落とし込めなければ意味がないばかりでなく,看護者にとっても対象者にとっても有害でさえあると考えてきた。行動変容のためには,「頭でっかち」だけでも「心でっかち」だけでもダメで,頭と心のバランスが必要である。

 本書の第1部では,行動変容に関する基礎知識が概説され,中心的な概念として自己効力感について詳述してある。

 第2部「行動変容を支援するプログラムと技法」では,具体的なプログラムとして岡氏が開発したEASE(イーズ)プログラム®について記載してある。EASEプログラムver. 3.0は,「対象者の健康や病気,生活についての考えである生活重要事を前景化foregroundingさせたうえで,保健行動モデルなどを活用しながら,対象者に対するアセスメントと理解を行い,行動や認知の修正の基本的原理と方法論を認知行動療法を活用して構成されたもの」と定義される。ステップ1から6までの段階でEASEプログラムを活用するための具体的な手順がアクションプランとして提示してある。

 第3部では,行動変容を支える技法の活用事例が8事例,詳細に記載してある。中でも私が最も印象的だった事例は,CASE 8の生きがい連結法を用いたエピソードである。面倒くさそうな対応だったI氏が「トイレに行くたびに,お袋がいつも肩を貸してくれんだけど,だんだん小さくなってきてね。俺もいつまでも,お袋に面倒かけてちゃいけないなって思っているんだよ。だから,お袋にこれ以上迷惑をかけないためにも,リハビリをやんなきゃって思ってるよ」とぼそっと話したことから,生きがい連結法につなげていくくだりである。まさにEASEプログラムを「絵に描いた餅」ではなく,「食べられる餅」として活用した事例と言える。EASEプログラムは,これまで開発されてきた行動変容を支える種々の理論を平易な表現で整理し,患者の生きがいを支えることを軸に置くことで,患者が無理なく行動変容できるように構築された優れたプログラムと言える。

 本書は当事者のやる気や意欲など精神性ばかりを問い詰めることなく,看護者も対象者も気分的に楽に取り組むことができる患者教育方法論の模索の歴史が凝縮された本と言えるだろう。患者の行動変容に困難を感じている全ての看護者に読んでほしい一冊である。

B5・頁240 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-00106-9


研究の育て方
ゴールとプロセスの「見える化」

近藤 克則 著

《評者》麻原 きよみ(聖路加国際大大学院看護学研究科・公衆衛生看護学)

著者の研究者としての経験を惜しみなく「見える化」

 「初心者が最初に読んで,研究全体の流れや,目指すべきもの,各段階で必要となる考え方や進め方など,研究(テーマ/プロジェクト/論文/者)の育て方が1冊でわかる本」(序)である。研究方法や論文の書き方だけでは研究を実施できない。試行錯誤や途方に暮れた日々があり,また論文がアクセプトされたときの喜びがある。このような経験や感情を含めて研究のプロセスであり,より良い研究にするために手間をかけ力を尽くして育む,まさに「研究の育て方」である。

 本書は,学生目線で学生に語り掛けるように書かれている。学生がつまずいたり陥りやすい落とし穴について取り上げ,具体的な対処法を提示する。知りたいことについてすぐ答えを求めたい今どきの学生のために,研究プロセスにおける進め方や考え方について,あの手この手で理解できるように工夫されている。文章の表現の仕方を例示したり,コラム,図表を多用したり,研究の各段階でやることの落ちがないようにチェックリストで確認できるようにしている。分析の視点について理解を促すために,「串だんご」(p.162),「駅のプラットホームの写真」(p.174)などを例示し,「なるほど」と納得させる。本の表見返しには,「目的」「対象と方法」など各研究段階が書かれているページが,また裏見返しには各チェックリストの書かれているページが示されており,すぐに目的のページにたどり着くことができる。中でも,「目的が3つあれば結論も3つ」(p.74),「優れた文献だけを20~50本選んで引用する」(p.74),「考察分量の目安は,主な所見:研究目的を達成するうえでの重要な点:研究の限界が1:3~4:1~2程度」(p.177),「5~7回は推敲する」(p.190)と数字で目安を断定した記載は小気味よいほどであり,学生の心強い目安となり安心感を与えてくれることだろう。これは卓越した研究実績と豊富な学生指導の経験を持つ著者ならではのエビデンスに基づくものであり,どれも納得のいく数字である。これらはまさに「見える化」である。

 本書は,「研究の育て方」だけでなく「研究者の育て(ち)方」,すなわち研究者としての態度も教示している。「よい研究デザインの3条件」「意義・新規性・実現可能性」を文中で何度でも繰り返す。「よい研究は,質の高い臨床や健康長寿社会の実現のために必要で,普遍的な価値があるもの」(p.231)と研究者としての姿勢を説く。しかし一方で,研究の意義や価値はどこにあるのか,「それを追究すること自体が楽しいとか,面白いとか意義が大きいと思える研究テーマや指導者と出会えることが重要」(p.55)と,現実的で肩の力を抜くような語り掛けをし,その中に著者自身の研究者としての経験を惜しみなく織り込んでいる。

 本書は,学生や研究初心者に最適である。私は研究指導している学生に,本書を一度読んでから来てほしいと思う。しかし本書は,学生だけでなく,研究者にも研究指導者にも新たな気付きを与えてくれるそんな一冊である。

A5・頁272 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03674-0

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