MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2019.03.11
Medical Library 書評・新刊案内
佐々木 淳 編
《評者》藤沼 康樹(医療福祉生協連家庭医療学開発センター)
未知の学びへと誘われる在宅医療の出会いの書
現代はフィルターバブルの時代である。インターネットの発達と検索テクノロジーの進歩により,知りたいことがあれば「何でも」調べられるようになった。何でも検索できるということは,実は「知りたいこと」以外の情報には接する機会が減っていると言えるだろう。自身が見たくない情報からは「居心地の良い泡で包まれたように遮断」されたまま暮らしているわけである。そんな中,かつて幅広い情報源であった雑誌,特に総合誌と呼ばれるメディアは,衰退の一途をたどっている。評者が雑誌を購入する目的は特定の(お目当ての)記事であることが多かったが,パラパラとめくっていると,これまで全く触れる機会のなかった情報や世界に出会うことがあり,新しい知への出会いが生じることがあった。それが魅力でもあった。かつての雑誌編集者は,自身の持つ哲学や思想,考え方を,多様な記事に通底させていたように思う。
さて,わが国の重要な課題である在宅医療の世界で現在,現場での実践と社会への提言を両立させており,最も注目すべきプレイヤーの一人である佐々木淳医師の編集による本書は,そうしたかつての雑誌・総合誌の最良の部分――読者がこれまで知らなかった世界やフィールドと出会える場を演出する力学を持っている。つまり,ある特定の専門領域のノウハウを提供するというつくりではなく,認知症ケア,高齢者の介護技術といった専門医が疎いジャンルから,哲学や倫理のテーマに踏み込む当事者の語りなどまで包摂したバラエティに富んだ講師による多種多様なテーマに出会うことができる。
とすると,編者がどのようなコンセプトに基づき,この本を編集したのかということに興味が出たのだが,それは編者自身が「はじめに」で述べているように,在宅医療にかかわる多職種と当事者たちが,学びのモチベーションを得て,成人教育・学習のキーである「自己決定型学習」がドライブされることをめざしているところにある。
ここで留意すべきなのは,フィルターバブルの時代においては,自分で課題設定し,自分で調べて学ぶという自己決定型学習がかえって学びを狭める可能性があるということだと思う。つまり,そもそも問題設定が自らの関心事のみに制限されやすくなっている時代においては,思いもよらぬ問題や話題との「遭遇」が生じにくくなっているのではないかということである。
編者が本書を「カレッジ=幅広い学問を提供する小さな大学」と名付けていることが非常に興味深い。つまり,編者から読者(学び手)へ,従来まで関心のないテーマであったり名前を知らない講師であったりしたとしても,それでもぜひ触れてほしい,知ってほしいという願いが感じられ,そして,その好奇心こそ多職種連携の基盤となる共通言語になり得るという通底するメッセージが,この「カレッジ」というタイトルに込められていると思うのだ。
本書を手に取った方には当面の関心事の記事だけでなく,ぜひ他領域の記事もパラパラと読んでほしい。きっと,あなたにとって新しい,未来につながる「問い」や「課題」に出会うことができると思う。
A5・頁264 定価:本体2,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03823-2


田島 康介 著
《評者》千葉 純司(女子医大東医療センター教授・整形外科学)
多くの症例経験を積んできた著者ならではの非常に論理的なマニュアル
藤田医大病院は,毎年日本で最も多くの救急搬送患者を受け入れており,その中で,中心的役割を果たしているのが,田島康介教授である。田島教授のより早く,より正確な診察,診療には,われわれ整形外科医も,畏敬の念を抱いている。
欧米では「外傷学」,「外傷整形外科学」が確立されているが,この分野においてわが国は,医療後進国と言わざるを得ない。その中で,田島教授は優れた指導者として,常に後輩医師たちの指導に当たっており,本書は多くの症例経験を積んできた田島教授ならではの非常に論理的な内容の解説書となっている。
医療の対象は当然ヒトではなく人であり人間である。患者さんの人権尊重を医療行為の基本とすべきは言うまでもない。この姿勢から患者さんの信頼を得るあらゆる具体的行動が生まれる。診療技術の優劣が患者さんの治療成績や信頼関係に重要であり,高度な医療技術を維持する必然性もここから派生する。
医師の世界,特に大学は,何か硬直したピラミッド型の閉鎖空間のように世間ではイメージされているが,本当は言うまでもなくダイナミックで激烈な競争社会である。医師であれば誰でも,自分のレジデント時代には良い意味でも悪い意味でもライバル意識をむき出しで切磋琢磨したことを思い出すであろう。レジデントに限らず医療界全体が他に遅れまいと必死になっている。これが国内だけならまだしも,今は世界と競争しなければならないので,油断しているとたちまち医療後進国になってしまう現実がある。もちろんこの競争が,医学を飛躍させ日本の高度な医療水準を維持している原動力なのであるが,その反面,...
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