トランプ大統領の成績表(井部俊子)
連載
2019.02.25
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加国際大学名誉教授 |
(前回よりつづく)
ラテンアメリカと世界の発展途上国を研究対象としているスティーブン・レビツキーと,19世紀から現在までのヨーロッパを研究しているダニエル・ジブラットの2人の米ハーバード大教授が,多くの文献(ざっと数えて654)を駆使して『民主主義の死に方――二極化する政治が招く独裁への道(原題:How Democracies Die)』(濱野大道訳,新潮社,2018年)を著した。今回,第8章「トランプの1年目――独裁者の成績表」を中心に紹介したい。
選挙で選ばれた独裁者が権力強化のために使う戦略
就任から1年,ドナルド・トランプ大統領は,選挙で選ばれた典型的な独裁者と同じ特徴を示したと著者らは指摘する。それらは,①審判を抱き込む,②主要なプレーヤーを欠場に追い込む,③対戦相手に不利になるようにルールを書き換えるという3つの戦略である。
トランプ大統領は,法執行機関,諜報機関,倫理機関,裁判所などの審判に対して激しい敵意をあらわにした。政府とは異なる独自の判断で行動した機関を処罰・排除しようとする。その最たる例がロシア疑惑の捜査にさらに踏み込もうとしたジェームズ・コミーFBI長官の解任であった。トランプ大統領はさらに,自分に不利な判決を下した裁判官を間接的に攻撃した。独立した監視機関である政府倫理局も骨抜きにしようとした。
トランプ政権は,政治制度の主要なプレーヤーを脇へと追い込む作戦にも力を入れた。彼は「ニューヨーク・タイムズ」やCNNなどのメディアが“フェイク・ニュース”を拡散し,自分に対して陰謀を企てていると繰り返し批判した。2016年の大統領選挙期間中,アマゾンと「ワシントン・ポスト」紙のオーナーであるジェフ・ベゾスに対して,独占禁止法の適用をちらつかせてツイッターで脅した。また,就任早々に大統領令を出し,不法移民の取り締まりへの協力を拒否した「聖域都市」に対して,補助金交付を一時的に停止するよう連邦政府機関に命じた(しかし,彼の計画は裁判所によって阻止された)。
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