海外の大学院で看護を学ぶ(鈴木美穂,岡田彩子)
対談・座談会
2018.09.24
【対談】
海外の大学院で看護を学ぶ
鈴木 美穂氏(がん研究会有明病院看護部副看護部長)
岡田 彩子氏(兵庫県立大学看護学部准教授)
国内の看護系大学院が充足する中,大学院進学を目指す看護師の多くは国内をまずは考えるかもしれません。そのような中で「海外の大学院で看護を学ぶ」という選択肢はどのような意義を持つのでしょうか。
本紙では,米国大学院博士課程修了の看護師による対談を企画。海外の大学院に進学した経緯や大学院で学んだこと日米の大学院教育の比較などを語り合いました。また,本対談の収録に際しては「大学院進学を目指す看護師の会」(参照)から見学者を募り,対談の後半では質疑応答の場を設けました。
鈴木 私は日本の大学院で修士課程を修了後,大学病院に勤務しました。当時は米国の大学院に進学するなんて考えたこともなかったです。渡米した理由は「ニューヨークで生活してみたかったから」(笑)。語学留学生として,半年ぐらい滞在するつもりでした。
渡米後間もなく,目的がないと英語を勉強する気になれない自分に気付き,博士課程進学を目指しました。進学後,学内でリサーチアシスタント(RA)をしていましたが,臨床で看護師として働きたくなり,その後は勤務先のナース・プラクティショナー(NP)に憧れて修士課程のNPコースに進みました。という次第で,行き当たりばったりの留学なのです。
私に比べて岡田先生は,計画的な留学であることがご経歴からわかります。
岡田 私も人の縁でつながっていくうちに二度の留学に至ったにすぎません。最初の渡米は編入して学士号を取得するための留学で,大学院に進学するつもりはなかったのです。ところが,学部生最後の臨床実習でプリセプターに進学を促されて,勧められるままに彼女の出身校であるUCSF(カリフォルニア大サンフランシスコ校)を受験しました。
鈴木 修士課程を修了後,いったんは日本の病院で働き,再び博士課程進学のために渡米されていますよね。どういった経緯ですか。
岡田 日本の病院では看護部全体の人材育成に携わる機会を得て,エビデンスを取り入れた育成プログラムの開発や臨床教育に携わりました。ただ,プログラムの“開発”はできても,“評価”が自分にはできなかった。もちろん,スタッフや病棟師長からは「勉強になった」「参加したスタッフの意識が変わった」などのフィードバックはありました。教育者としてはそれで十分かもしれません。でも,もっと学術的な評価が必要ではないか。そうは思ったものの,当時の私には時間的にも能力的にも難しいタスクでした。
こうした課題を感じていた時期に,修士課程時代の指導教員と国際学会で会って相談したところ,博士課程への進学を勧められたという経緯です。
鈴木 国内の選択肢はなかった?
岡田 探してはみたものの,自分が求める教育環境は見つかりませんでした。知人には「また米国に行くの?」と言われましたが,私自身は米国の大学院に行きたかったわけではなくて,必要な能力を身につけるには米国しかなかったのです。
留学費用はなんとかなるけど
鈴木 留学の相談を受ける際,必ず話題に上るのがお金の問題です。
岡田 私は学内外の奨学金制度をフル活用して,学費は奨学金でほぼカバーできました。
鈴木 生活費を稼ぐために働いたりもしましたか。
岡田 学生ビザなので学外ではお金を稼げませんから,RAやティーチングアシスタント(TA)ですね。あとは夏休みに帰国して時間があるときはアルバイト(非常勤講師)や,帰国しないときは視察等で渡米する方の簡単な通訳等をしたこともありました。ただ修士課程は実習などで時間的な余裕がなく,親に援助してもらったこともあります。
鈴木 私の場合,ニューヨーク大(NYU)への進学の決め手は学費援助のオファーです。RAになると学費が免除されるだけはなく,給料をもらえて健康保険までカバーされるという内容でした。受験したもう一校も入学後の経済的サポートを約束されたのですが,事前に具体的な話を聞けたNYUを選んだのです。
岡田 修士課程はやや厳しいですが,博士課程ならRA/TAの制度を利用すれば,費用はなんとかなる気がします。
鈴木 お金よりもむしろ,米国大学院の出願に必要なGRE®(Graduate Record Examinations)のスコアを心配したほうがいいですよね。アナリティカル(analytical writing)や数学(quantitative reasoning)は日本の高卒レベルの学力があれば余裕ですが,言語能力(verbal reasoning)は手ごわい! 言語能力だけは,結局最後まで基準点に達しませんでした。
岡田 私もそうです。大学院の合格通知をもらったときに真っ先に思ったのも,「もうこれでGRE®対策の英語の勉強をしなくて済む」。でも振り返ってみると,後に博士課程で難解な論文を読むためにも,大量の英語にexposeされる時期があったのは良かったです。多少わからない単語があっても,ある一定の速さで本質的な内容を読み取ったり,探し出すトレーニングになりました。
鈴木 結論としては,留学費用はなんとかなる。けれども……。
岡田 英語はどうにもならない(笑)。お金は仮に足りなくなったら,一度帰国して稼いでから大学院をやり直すことができます。でもGRE®をパスしないことにはそもそも受験できませんからね。
論文を読む力,書く力
鈴木 修士課程は私がNP,岡田先生はCNS(Clinical Nurse Specialist)の育成プログラム。NPコースは実践力が重視されることもあって,研究に関しては文献レビューのみでした。CNSコースだと修士論文は必須ですか?
岡田 UCSFは必須ではなかったです。その代わり,特定のテーマに関連する論文を批判的に吟味する課題があり,相当に鍛えられました。後になって気付くのですが,エビデンスを自施設の臨床実践に落とし込むことがCNSには求められていて,その役割を果たすために必要な能力なのですね。
鈴木 日米の大きな違いとして,日本は学部レベルから卒業論文を課す一方,米国は博士課程になって初めて研究を行うのが一般的です。研究を“遂行する”のが後回しのぶん,“読む”能力は米国の修士課程のほうが鍛えられる印象を受けました。
岡田 そして博士課程ともなると,“書く”ことに求められる水準が修士とは段違いになります。机に向かうだけで気持ちが悪くなるくらいのプレッシャーでした。
鈴木 私の場合,語学学校時代にアカデミック・ライティングの訓練を受けて,その経験が役立ちました。読み...
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