脳と神経(福武敏夫)
連載
2018.08.06
漢字から見る神経学
普段何気なく使っている神経学用語。その由来を考えたことはありますか?漢字好きの神経内科医が,数千年の歴史を持つ漢字の成り立ちから現代の神経学を考察します。
[第2回]脳と神経
福武 敏夫(亀田メディカルセンター神経内科部長)
(前回よりつづく)
今回は「脳」と「神経」です。「脳」の旧字体は「腦」です。「月」の意味はいいですね(前回・3281号参照)。右上の「くくく」は髪の毛です。囟は(乳児の)頭蓋骨の象形で,もともとは上部が開いていた(大泉門)そうで,「メ」は脳みそということになっています。漢字学者の白川静先生によると,「メ」は文様のことだそうですが,私は,シルビウス裂と中心溝を示しているのではないかと考えています。
次に「神経」です。日本神経学会は標榜診療科名を「神経内科」から「脳神経内科」に変更すると決定しました。私は「漢字の立場」からは反対ですが,神経内科をもっとポピュラーにすることになるなら,あえて固執しません。でもなぜ異論があるかと言いますと,「神経」という言葉の歴史に理由があります。
「脳」ははるか昔からあるのに対し,「神経」は『解体新書』(1774年)において歴史上初めて登場し,中国に逆輸出されました。杉田玄白が建部清庵に宛てた手紙によると,「神経」は「神気」の「神」と「経脉(脈の異字体)」の「経」を合わせて作られています。すなわち,「神経」には中枢神経と末梢神経ともが含まれているのです。脳神経外科医の中にも「神経外科」として脳・脊髄も末梢神経も扱うのだと考えている方がいます。『新装版 解体新書』(酒井シヅ訳,講談社学術文庫,1998年)では,巻の一の「解体大意篇(解剖学総論)」に,解剖の方法の「その三は,神経を調べることである」とされ,その原注には「これは,中国人がいままでに記述していないもので,視覚,聴覚,言動はこれによって支配されているのである」とあります。一方で,巻の二には「脳髄,ならびに神経篇」があり,「脳」と「神経」を分けて理解していたのかもしれません。
(つづく)
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