頭と首(福武敏夫)
連載
2018.09.17
漢字から見る神経学
普段何気なく使っている神経学用語。その由来を考えたことはありますか?漢字好きの神経内科医が,数千年の歴史を持つ漢字の成り立ちから現代の神経学を考察します。
[第3回]頭と首
福武 敏夫(亀田メディカルセンター神経内科部長)
(前回よりつづく)
「頭」の部首「頁」はオオガイ(大貝)と呼ばれ,頭部の象形であり,貝とは無縁です。「首」は毛髪と目の象形で「かしら」を意味し,「頁」と同類です。頁部には頭頚部を表す多くの漢字(顔,額,項,顎など)が属していますが,「頁」自体は「ページ」でおなじみです。これは『大漢語林』によれば,中国北方の近代音で「葉」と同音であり,借用したからのようです。
「頭」の「豆」は,形(長い脚のある器に供え物を盛った様子)からも音(トウ)からも「真っすぐ立つ」という意味を表します。「頭」は「脳」と区別されますが,「石頭」は構造の硬さにも精神機能の固さにも使われますね。
「頭」は頚部より上を指しますが,日本では「首」もほぼ同様に使われてきています(頭領と首領や乳頭と乳首)。医学用語を見ても,「首下がり病」や「首振り人形症候群」など,頭=head,首=neckと単純には言えません。斬り落とされた頭部を首と言ってきたことが「首塚」にも「道」(異民族の首を埋めて清めた通路)にも残っています。
本来「くび」は「くびれ」と同根で細い部分を意味しており,手首や足首がそれです。一方,「あたま」は頭蓋骨の隙間(大泉門?)を指す言葉だったようで,頭全体を指す言葉としては「かしら」がよく使われていたようですが,いつの間にか「あたま」が代表的な言葉になりました。
「首」ではどこを指すかわかりにくいせいか,学問的には「頚」が当てられます。これを「頸」と書かねばと言う人がいますが,その人も神経を「神經」とは書かないですし,日本医学会でも「頚」を推奨しています。ちなみに「巠」は機織りの縦糸の象形で「真っすぐ」の意味です(⇔「緯」は横糸の意味)。
(つづく)
この記事の連載
漢字から見る神経学(終了)
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