和食のエビデンスとその示唆(今村文昭)
連載
2018.08.06
栄養疫学者の視点から
栄養に関する研究の質は玉石混交。情報の渦に巻き込まれないために,栄養疫学を専門とする著者が「食と健康の関係」を考察します。
[第17話]和食のエビデンスとその示唆
今村 文昭(英国ケンブリッジ大学 MRC(Medical Research Council)疫学ユニット)
(前回よりつづく)
第15話(3275号)では,お米を多く食べている人ほど死亡率が低いという観察研究を紹介しました。お米は和食の中心ですが,そもそも和食と日本の長寿との関係はあるのでしょうか。日頃,私たちが食している和食。今回はその疫学について考察してみたいと思います。
和食に限らず,食全体のエビデンスを導き出すことはかなり困難であると私は考えています。この困難は地中海食(地中海ダイエット)の疫学の歴史に触れても感じました。食とは生活であり,どんな斬新な解析手法を駆使しても網羅できない部分が出てくるからです。
地中海沿岸地域の心血管疾患リスクが低いことは長年知られていたものの,地中海食の疫学研究が本格化したのは1990年代。鍵となる研究では,地中海食は文化的背景よりも健康との関係,具体的には死亡リスクの低下に寄与し得るかに基づいて考察され,その後の疫学研究の模範となっています(BMJ. 1995[PMID:8520331])。地中海食というとオリーブ油が強調されますが,同研究でそれに関する特に強い言及はありません。介入研究として有名なLyon Diet Heart Studyでも菜種油のマーガリンが無料で提供され,オリーブ油に限った主張はありません(Lancet. 1994[PMID:7911176])。またUNESCOの定義する地中海食には,ハム,サラミ,ケバブなども含まれています(註1)。それら肉・肉加工類の摂取量も無視できないはずですが,医学界の地中海食では摂取を抑えるべきものとされています。
医学界において健康への好影響に関するエビデンスが蓄積しているとされる地中海食は...
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