高齢者の咳症状では抗菌薬が必要な気管支炎・肺炎に注意(岸田直樹)
連載
2018.04.02
高齢者の「風邪」の診かた
実際どうする?どこまでやる?高齢者感染症の落としどころ
風邪様症状は最もよくある主訴だ。しかし高齢者の場合,風邪の判断が難しく,風邪にまぎれた風邪ではない疾患の判断も簡単ではない。本連載では高齢者の特徴を踏まえた「風邪」の診かたを解説する。
[第四回]高齢者の咳症状では抗菌薬が必要な気管支炎・肺炎に注意
岸田 直樹(総合診療医・感染症医/北海道薬科大学客員教授)
(前回よりつづく)
前回(第3263号)は,高齢者の鼻症状・喉症状メイン型について話しました。「高齢者は典型的風邪型の3症状チェックを満たしにくい」のですが,その中でも喉症状や鼻症状がメインの主訴となることは多くはありません。高齢者は多くのウイルスに対して暴露経験があるため症状が軽くなるだけでなく,鼻症状を来たすアレルギー性疾患は免疫老化により年齢とともに減少することが知られています。高齢者が鼻・喉症状メインで来院した場合には,「高齢者で鼻汁が出たり喉が明確に痛い風邪って珍しいな」と感じ,風邪以外の疾患を疑う癖を持ちましょう。鼻症状メイン型では薬剤性に加えて上咽頭がん,鼻腔の悪性リンパ腫などとの鑑別が重要です。また,喉症状メイン型では,カンジダやヘルペス,それ以外にも咽後膿瘍や咽頭結核,sudden onsetであれば大動脈解離などを考えます[『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた』(医学書院)もご参照ください]。今回は,高齢者の咳症状メイン型について考えてみたいと思います。
咳症状メイン型の原則
まず,風邪症状を丁寧に分類しましょう。咳症状メイン型ですので,風邪の3症状チェックによる程度のイメージは図1のようになります。喉,鼻症状はほぼなく,咳症状が一番つらいという患者さんになります。
図1 咳症状メイン型の風邪のイメージ図 |
さて,この咳症状メイン型ですが,その多くは急性気管支炎で,肺に基礎疾患のない健常成人では90%以上はウイルス性とされます1)。残りにマイコプラズマやクラミドフィラがありますが,基本的にはself-limitedです。特に,米国内科学会(ACP)の指針で「【原則1】70歳以下の健常成人かつ心拍数>100拍/分,呼吸数>24回/分,38℃以上の発熱の全てがなく,呼吸音で異常音を認めなければ肺炎の可能性は低い」とされています2)。よって咳症状メイン型であっても抗菌薬はほぼ不要なわけです。また,「【原則2】肺に慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの基礎疾患がなければ肺炎球菌やインフルエンザ桿菌,モラクセラ・カタラーリスといった一般細菌が気管支炎を起こすというエビデンスはない」というのは今も変わりありません1, 2)。では,高齢者ではこの原則をどのように考えたらよいでしょうか?
明確な持病がなくても高齢者の肺に“慢性肺臓病”あり
まず,【原則1】は高齢者には当てはまりません。免疫老化により健常成人のような免疫応答,バイタルサインの変化を示しません。例えば,発熱に関しては高齢者では38.3℃以上をカットオフとすると感染症の感度が40%しかないとされます3)。除外のために感度を高めるとすると37.2℃で感度83%となり,高齢者では「37℃以上でなければ」と変えたほうがよさそうだとなります。体温は絶対値ではなく,ベースラインからの変化で見るのも高齢者では重要です。「1.3℃の上昇では感染症の評価をすべき」ともされます3)。
では,【原則2】はどうでしょうか? 確かに,「肺に基礎疾患がなければ肺炎球菌やインフルエンザ桿菌,モラクセラといった一般細菌が気管支炎を起こすというエビデンスはない」というのはとてもしっくりくる原則です。ところが,高齢者では明確な肺の基礎疾患が指摘されていないのに細菌性気管支炎としか思えない患者さんにも出会います。この理由として高齢......
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