血液腫瘍と感染症② 急性骨髄性白血病以外の白血病と感染症(森信好)
連載
2018.03.19
目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症
がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。
[第22回]血液腫瘍と感染症② 急性骨髄性白血病以外の白血病と感染症
森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)
(前回からつづく)
前回(第21回・3261号)は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)と感染症リスクについてお話ししました。「バリアの破綻」と「好中球減少」が非常に重要であることを強調しました。今回はAML以外の白血病と感染症リスクについて解説します。そこで,急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia;ALL),慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia;CML),慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia;CLL)を取り上げることにしましょう。
ALLと感染症リスク
ALLと聞けば,「子どもの白血病」とピンとくる方も多いかもしれません。確かに小児に多い急性白血病ですが,成人でも年間およそ10万人当たり1人ほどの発症率だとされています。大きくはB細胞系とT細胞系に分類されますが,ほとんどがB細胞系になります。
さて,ALLを診た場合は,フィラデルフィア染色体(Ph染色体)というキーワードを押さえておきましょう。これは主にALLやCMLで見られる染色体異常ですが,22番染色体と9番染色体の一部が切れて互いに入れ替わってしまう相互転座によって,それぞれの染色体の切り口にあるBCR遺伝子とABL遺伝子が融合して新しくBCR-ABL融合遺伝子が出来上がります。このBCR-ABL融合遺伝子を持つ染色体がPh染色体です。Ph陽性のALLでは異常なBCR-ABLタンパク(チロシンキナーゼ)が産生されることによって無秩序な細胞増殖が起こっているのです。
かつてはPh陽性のALLは陰性のものに比べて予後不良でしたが,チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブやダサチニブなど)という薬剤が開発されて以来,むしろ予後は良好となっています。Ph陽性ALLに対してはチロシンキナーゼ阻害薬に加えてHyper CVAD(シクロホスファミド,ビンクリスチン,ドキソルビシン,デキサメタゾン)という化学療法が主流です。Hyperとはhyperfractionated(多分割)のことで,副作用を軽減させるために「少ない量を頻回に投与する」ことを指します。
それでは,ALLではどのような免疫不全によりどのような感染症のリスクが上がるのでしょうか。
まずALLでは,疾患そのもの,また化学療法による骨髄抑制により「好中球減少」が見られますし,「バリアの破綻」も起こります。また,シクロホスファミドやデキサメタゾンにより「細胞性免疫低下」も見られます。さらに,ALLは中枢神経に浸潤しやすいため,予防的に化学療法の髄注を行います。そのため,髄膜炎のリスクと隣り合わせであることに注意が必要です。なお,チロシンキナーゼ阻害薬による免疫不全としては軽度の「好中球減少」や「細胞性免疫低下」があり,特にサイトメガロウイルス感染症,ニューモシスチス肺炎,B型肝炎ウイルス再活性化の報告があります1~3)。
CMLと感染症リスク
次にCMLです。Ph染色体が関与していますので,治療はチロシンキナーゼ阻害薬の単剤投与になります。したがって,軽度の「好中球減少」や「細胞性免疫低下」が見られますが,感染症のリスクはさほど高くありません。
CLLと感染症リスク
CLLは本連載でしばしばAMLと並ぶ要注意疾患として登場してきましたね。AMLでは「好中球減少」をケアすれば良いですが,CLLは疾患そのものと治療によって,それぞれ免疫低下が複雑に絡み合っているという意味で非常に重要です4)。欧米では比較的多い白血病ですが,日本では非常に少なく年間の発症率は10万人あたり0.3人程度とされています。無症状のCLLは治療せずに経過観察しますが,有症状や活動性のあるCLLには治療が必要です。治療にはアルキル化剤のChlorambucilやプリンアナログのフルダラビン,あるいは抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブや抗CD52モノクローナル抗体であるアレムツズマブなどを用います。
それではCLLでは具体的にどのような免疫低下と感染症リスクがあるのでしょうか。まずCLLそのものでは,何と言っても「液性免疫不全」が主体となります。これは免疫グロブリンの低下が関与しています。その他,軽度の好中球数の低下や機能異常が見られることもありますし,T細胞サブセットの異常に起因する「細胞性免疫低下」が軽度起こるとされていますが,いずれも感染症リスクは軽微です5)。
治療による影響は用いる治療薬によって多少異なってきますが,注意すべきはフルダラビンやアレムツズマブでしたね。第12回(3224号)で詳しくお話ししましたが,いずれも著しい細胞性免疫低下を来しますので注意が必要です。
今回はAML以外の白血病で見られる免疫低下や感染症リスクについて解説しました。AMLでは「好中球減少」がメインでしたが,他の白血病では「液性免疫低下」や「細胞性免疫低下」が,疾患そのものや治療によって起こります。白血病と一言で言ってもその免疫不全には多様性があることをご理解いただけたでしょうか。 |
(つづく)
[参考文献]
1)Leuk Lymphoma. 2012[PMID:22263567]
2)Biomark Insights. 2016[PMID:27127405]
3)Clin Microbiol Infect. 2018[PMID:29454849]
4)Mediterr J Hematol Infect Dis. 2012[PMID:23205258]
5)Cancer Immunol Immunother. 2006[PMID:16025268]
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