医学界新聞

連載

2018.03.12



賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第11回]検診

前田 恵理子(東京大学医学部附属病院放射線科)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 40歳女性会社員Aさん。誕生日を過ぎたある日,市役所から大腸がん,乳がん,子宮頸がん,胃がんの検診案内が届いた。

 がんを患った身近な同世代の話は聞かないが,忙しい日々の中から時間を割いて本当にこんなにたくさんの検診を受けなくてはいけないのだろうか? と思ったという。

がん検診の目的は?

 がん検診の目的は,がんをできるだけ多く見つけることではありません。普段,病気を抱えた方を相手にしていると忘れてしまいがちですが,対策型がん検診の考え方は独特で,あくまでも対象となる集団において対象とする疾患による死亡率を低下させることが目的です。

 対策型検診は,適度に有病率が高く余命が十分ある集団に対して,進行が適度に遅く,有効な治療法があるがんについて,対象集団全員に行っても検査合併症やコストの点で許容できる方法で行うものです。

 進行が非常に速い,有効な治療法がない,あるいは進行が非常に遅いがんは,死亡率減少効果を示す相応な証拠がなく,がん検診の対象にはなりません。一方,非常にまれながんも偽陽性のほうが多くなり,適切な正診率を担保できないため,検診の対象にはなりません。対象集団については,早期発見,早期治療を行っても十分な余命がないと判断される高齢者は検診の対象から外れますし,がんの罹患率が低い若年者も外れます。すでに症状がある方は検診ではなく通常の保険診療を受診すべきです。

 十分なエビデンスの積み重ねの上に,各国で検診による対がん政策が取られ,公費による検診が実施されています。米国ではU.S. Preventive Services Task Force(USPSTF)1)が,がん検診を目的としたスクリーニング検査で,推奨グレードがAまたはBであるものを定めています()。日本では,これに加えて50歳以上の胃がんに対する胃X線検査,胃内視鏡検査がグレードB〔利益(死亡率減少効果)が不利益を上回ることから,対策型検診・任意型検診の実施を勧める〕とされています2)

 米国で推奨グレードの高い検診(U.S. Preventive Services Task Force(USPSTF)より作成)(クリックで拡大)

 集団の死亡率低下が期待できるのは,集団のがん検診受診率が高い場合に限られます。がん検診受診率は年々改善してはいますが,それでも2016年の国民生活基礎調査によると男性の肺がん(51.0%)を除くと全て男女とも50%未満です3)。米英の受診率(70~80%程度)と比較するとまだ低いといえます。これが,米国では年々減少傾向にある大腸がんや乳がんによる死亡率が日本では低下していない要因の一つと考えられます4, 5)

任意型検診では医療被ばくや検査の限界を吟味すべき

 対策型検診の受診率が低い一方で,日本人の中には無料の自治体検診では飽き足らず,自費でより高度な検診を受けたい層も少なくありません。任意型検診は「自分の死亡率を低下させたい」というニーズに応え...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook