医学界新聞

連載

2018.02.12



賢く使う画像検査

本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。

[第10回]婦人科領域

藤井 進也(鳥取大学医学部画像診断治療学分野)
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)


前回からつづく

症例

 36歳女性。妊娠34週。右下腹部痛を主訴に受診した。原因検索のため経腹,経膣超音波検査にて精査が行われたが,確定診断に至らなかった。

妊婦の急性腹症の第一選択は超音波検査

 妊婦の急性腹症の原因には虫垂炎や尿管結石症,腸閉塞等があります。虫垂炎は最も代表的な疾患であり,妊娠女性の1500~1700人のうち1人に生じ得るとされています1, 2)。よって虫垂炎の可能性を視野に入れて検査を施行する必要があります。

 妊娠中の急性腹症に対する画像検査は超音波が第一選択です1~3)。しかしながら,妊娠週数が進むにつれて子宮のサイズが大きくなるため,超音波で虫垂を同定することは難しくなり,超音波検査の診断能は低下します。

超音波での診断が困難な場合に検査をどう進めるか?

 超音波での診断が困難な妊婦の急性腹症に対し,どのような画像検査を次に選択すべきでしょうか。本邦の『画像診断ガイドライン2016年版 第2版』3)では「超音波で診断が困難な場合には単純MRIを施行することを推奨する。単純MRIでも診断が困難な場合あるいはMRIが施行できない場合には,CTを施行することを考慮しても良い。必要があれば造影を行っても良い」としています。すなわち,単純MRIを施行し,それでも困難であった場合には単純CTもしくは造影CTを施行するという流れになっています。妊婦の虫垂炎に対する単純MRIの感度は90~100%,特異度93.6~98.1%と報告1)されており,高い診断能を有しています。では,造影MRIはどうなのでしょうか。

現在のところ,妊娠中に造影MRIを行うべきでない

 単純MRIで診断が困難な場合には,被曝の影響を考慮しなくてはならないCTよりも造影MRIが優先されるべきでしょうか。いいえ,造影MRIを推奨することはできません。その理由を以下で説明します。

 近年,MRI用造影剤の副作用である腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis;NSF)が関心を集めています。NSFはガドリニウム造影剤の投与後数日から数か月,時に数年後に皮膚の腫脹や硬化,疼痛などにて発症し,四肢関節の拘縮を生じる疾患です。

 ガドリニウム造影剤は胎盤を通過するため,妊......

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