MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2018.02.19
Medical Library 書評・新刊案内
下郷 和雄 監訳
近藤 壽郎,前川 二郎,楠本 健司 訳者代表
《評 者》平野 明喜(日本赤十字社長崎原爆病院院長)
顔面骨骨折と顎矯正手術を的確に行うための教科書
顔面骨骨折などの頭蓋顎顔面骨領域での20世紀の最大の進歩は,診断分野におけるCTの開発と,治療分野におけるプレート固定法の開発である。頭蓋顎顔面骨のプレートによる内固定によって顔面骨骨折などの治療成績が飛躍的に向上し,1980年代に広く普及した。整形外科領域で培われたノウハウを基にAOは頭蓋顎顔面骨領域で使用できるプレートの供給を早期から行い,同時に頭蓋顎顔面骨領域での内固定法の普及を目的とした教育研修会を開催してきた。そういったこともあってか,本書は顔面骨骨折と顎矯正手術を的確に行うためのシラバスのような構成となっている。基本事項の顔面骨格の解剖や生理から頭蓋顎顔面外傷治療の一般的な原則,各種顔面骨折と顎矯正手術の固定法に関してそれぞれに単元を設けて,多くの図表を用いて簡潔に記述されており,完成度の高い教科書である。
ただ,原書に忠実に翻訳がなされているためか,多少難しい表現になっている箇所がみられた。わが国のそれぞれの分野のエキスパートによる翻訳書でもあり,もっと大胆に意訳されてもよかったかと思えた。また,308ページの顎骨骨切り術後の安定に関する項では,下顎の前方移動(10 mm以下)が「最も安定」した術式であり,下顎の後方移動が「やや不安定」な手技とされている記述がある。このような記述ではどのようなデータもしくは文献に基づく結論なのかを知るためにも引用文献の提示が必要かと思われた。各単元では最新のものまで幅広く網羅された多くの参考文献が提示されている。原書どおりなのだと思うが,それらの参考文献には引用箇所を記載してもらったほうがよかったのではないかと思えた。
いずれにしても,顔面骨骨折と顎矯正手術では強固な内固定が現在の治療の主流であり,これらの治療に当たる多くの形成外科医や歯科口腔外科医に本書は臨床現場で有用な一冊となり得る成書である。
A4・頁408 定価:本体28,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02869-1


循環器Physical Examination
[動画・心音186点付]
診断力に差がつく身体診察!
山崎 直仁 著
《評 者》水野 篤(聖路加国際病院循環器内科)
循環器診察の「暗黙知」をふんだんに盛り込んだ一冊
本書が持つ類書と比較にならないほどの明らかな優位性は,筆者の圧倒的なフィジカル能力を別として2点ある。一つは動画・音声コンテンツ。もう一つは温故知新である。
心音のみならず頸静脈などの動画を多く含んでいることに加え,筆者が心尖拍動といったかすかな視診・触診の所見を初学者にどう伝えるかを検討してきた末に到達した「ふせん」まで,過去にも動画音声を含む書籍は多数あるが,それらと比較してもかなり豊富なコンテンツが盛り込まれている。スマートフォンやデジタルカメラといったデバイスの進化で視診・触診のダイナミクスを実際に読者に伝えることが可能となった。なんといっても「百聞は一見にしかず」ということで,視診の大切さを再度思い出させてくれるだろう。実際に例年神戸で行われる,循環器Physical Examination講習会も,今は心音に加え頸静脈,心尖拍動といった所見がかなりの要素で含まれるようになってきており,そこの講師たちの中にある「暗黙知」をふんだんに盛り込んでいるので読んでいて“お得感”がある。視診および聴診を合わせることで診断に近づけるということを,他の誰より筆者が楽しんでいることが伝わると思う。
さらに,本書は動画や心音で,五感に直接訴えるだけではなく,偉大なる先人,吉川純一先生や福田信夫先生の書籍に近い含蓄,知恵というものを残している。ぜひ,細かな一言一句をかみしめて読んでほしい。これは自分のような若輩者にはできないことである。本書を読むことで,おそらく過去の先人たちが何を大切にしてきたかを感じられるだろう。
最後の症例集においては,ぜひ読者の皆さんには診断名を隠して疾患を当てることをしていただきたい。そういう意味では,自信がある読者には動画コンテンツから入るという楽しみ方もある。
一つだけ注意点がある。スマートフォンで閲覧できるようになったのは画期的だが,心尖拍動や頸静脈のコンテンツは本当にかすかな所見であるため,電車などの振動で容易にわからなくなる。特に新幹線などではせっかくの音や頸静脈拍動も台なしである(笑)。
落ち着いた環境で,穴があくほど見て,繰り返し聞いて,身体診察のアートを感じてほしい。
B5・頁188 定価:本体5,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03235-3


子宮頸部細胞診運用の実際 第2版
ベセスダシステム2014準拠
坂本 穆彦 編
坂本 穆彦,今野 良,小松 京子,大塚 重則,古田 則行 執筆
《評 者》植田 政嗣(日本臨床細胞学会細胞診専門医会会長/大阪がん循環器病予防センター副所長・婦人科検診部長)
ベセスダシステムを正しく理解するために最良の書
このたび,坂本穆彦先生の編集による『子宮頸部細胞診運用の実際――ベセスダシステム2014準拠 第2版』が出版された。
本書は全232ページから成り,2014年に改訂されたベセスダシステムに準拠し,その成立と変遷,判定の実際,各細胞異常,報告書の作成まで,坂本先生をはじめ,細胞診専門医である今野良先生ならびに小松京子氏,大塚重則氏,古田則行氏の3人のベテラン細胞検査士が分担執筆している。ベセスダシステム2014では,肛門や外陰にもHPV関連病変の細胞診の適用範囲が拡大されたが,判定区分などの分類内容については大きな変更はない。本書では子宮頸部細胞診に焦点を当ててまとめられており,日本の実情に合わせた視点から大変わかりやすく解説されている。
子宮頸癌は,HPV感染が原因となり,前癌病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を経て癌へと進行することが明らかにされており,早期発見,早期治療により予防し得る疾患である。そのためには検診が最も重要で,特に病巣部の的確な細胞診や組織診が不可欠である。現在,細胞診判定方式としてベセスダシステムは検診や日常臨床の場でほぼ定着しており,細胞診標本の適・不適を判定した上で,標本上に出現する全ての種類の細胞おのおのについて記述的に評価する方式がとられ,診断の客観性が図られている。
本書は,標本の評価に加えて,異型扁平上皮細胞(ASC)の解釈についても明確に論評されている。ASCは細胞個々に適用するカテゴリーではなく,標本全体を判断するためのカテゴリーであり,ASCの細胞判定は除外診断的な立場からグレーゾーン的な概念でとらえられるべきであると解説されている。これには全く同感であり,細胞判定を厳密にすべきと考えるわが国では,良性の反応性変化を安易にASCと判定すべきではない。これはASC-Hや異型腺細胞(AGC)についてもいえることであり,不要な精検を回避する意味でも重要な示唆を与えている。
一方,昨今液状化検体細胞診を導入する施設も増加しつつある。本法は,採取した細胞を専用の保存液中に回収し,浮遊した細胞を収集後スライドガラス上へ薄く塗抹し,固定した後染色を行う標本作製方法である。従来法に比べて採取細胞を液状化することで乾燥を防ぐとともに,保存液中で分散することで塗抹細胞の重なりを最小限にすることが可能となり,観察評価に適することが示されている。細胞判定の阻害因子となる粘液,血液なども除去され鏡検性能が向上した反面,個々の細胞の評価には従来法と若干異なる見方も必要になることがあり注意を要する。
本書では,検鏡上重要な細胞所見について両者を対比しつつ,細胞観察の要点をわかりやすく解説している。また,種々の液状検体処理法についても紹介されており,理解しやすい。今後,残余検体を用いたHPV-DNA検査などの分子生物学的解析がルーチン化すれば,ますますその重要性が増すものと思われ,本書が役立つであろう。
このように,本書はこれから細胞診を学ぶ人にとっても,熟練の細胞診専門家にとっても,ベセスダシステムに基づいた子宮頸部細胞診の理解を深めるために必読の書であり,特に細胞診専門医や細胞検査士資格認定試験の受験予定者には自信を持ってお薦めできる教材である。本書が細胞診従事者のみならず,日常臨床に携わる一般婦人科医師にも,価値ある一冊としてぜひとも手元に置いて活用されることを望む次第である。
B5・頁232 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-03237-7


小澤 竹俊 著
《評 者》勝俣 範之(日医大武蔵小杉病院教授・腫瘍内科学)
「積極的治療がなくなっても,できることがある」
進行がん患者さんに携わるがん治療医にとって,どのような治療薬を使い,より延命させるか? ということはもちろん重要なことであるが,治療ばかりに気を取られていると,何のために治療をしているのか,治療医も患者さんもわからなくなることがある。積極的治療はいつまでも続くわけではない。進行がんの場合には必ず限界が来る。その際に治療医は,「もうやることがありません」と言ってしまうと,患者さんは絶望に陥ってしまう。「もうやることがない」というのは,“積極的治療が難しい”ということであって,“やることがなくなった”という意味ではない。“人生が終わった”という意味でもない。
何のために治療をしているのか? それは,患者さんが“自分らしく,より良い人生を生きる”ためである。治療が中心になってしまうと,まるで“治療をするために人生がある”ように医師も患者さんも錯覚してしまうのではないだろうか。患者さんは自分の生活の質をも犠牲にして,積極的治療を優先していないだろうか? 優先すべきは積極的治療なのか,患者さんの生活の質なのか,よく考える必要がある。
たとえ積極的治療がなくなっても,患者さんが“より良く生きる”のを支えるために,われわれにできることはたくさんある。この本はそれに気付かせてくれる。われわれがん治療医は,患者さんの苦しみから目を背けていないだろうか? 苦しみを抱える目の前の患者さんから逃げてしまっていないか? 治療医が...
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