典型的な風邪の高齢者はなぜいない?(岸田直樹)
連載
2018.02.05
高齢者の「風邪」の診かた
実際どうする?どこまでやる?高齢者感染症の落としどころ
風邪様症状は最もよくある主訴だ。しかし高齢者の場合,風邪の判断が難しく,風邪にまぎれた風邪ではない疾患の判断も簡単ではない。本連載では高齢者の特徴を踏まえた「風邪」の診かたを解説する。
[第二回]典型的な風邪の高齢者はなぜいない?
岸田 直樹(総合診療医・感染症医/北海道薬科大学客員教授)
(前回よりつづく)
男性,女性の半数が80~90歳まで生きる時代
前回は,“高齢者”と“風邪診療”の両方が注目される理由を人口と公衆衛生の現状と未来予測を交えて考えてみました。Challengingではありますが,これほどinterestingな状況はないと日々感じています。
ちなみに,高齢者診療を考える上で人口学的な情報をもう一つ。厚労省が出した平成28年簡易生命表1)にあるいわゆる平均寿命(0歳の平均余命)では男性が80.98歳,女性が87.14歳と過去最高を更新し,男女とも香港に次いで世界2位となっています。0歳の平均余命といわれてもイマイチぴんときませんが,生命表を見ると他にも興味深い数字があります。それは,0歳の人数を10万人とした場合の年齢別生存数です(図1)。平成28年のデータでは,8万人になるラインは男性でも70歳以上,女性では80歳以上です。すなわち「男性および女性の80%が70歳,80歳まで生きる」時代であることが示されています1)。また,半数が生きる5万人のラインは,男性が80歳以上,女性が90歳近くという状況です。このデータはここ数十年大きな変化はありません。これからの高齢者診療だけではなく,皆さんの人生設計も今一度見直してみてはどうでしょうか?
図1 0歳の人数を10万人とした場合の年齢別生存数(文献1より作成) |
高齢者は風邪を引きにくいのか?
「高齢者では風邪の3症状チェックを正確に満たす,いわゆる『典型的風邪型』の患者さんはとても少ないのでは?」という前回出したクリニカルクエスチョンを丁寧に考えてみましょう。この理由を理解すると,高齢者診療に限らず臨床の幅が大きく広がると思います。
まず,上記クリニカルクエスチョンを極論としてシンプルに変換してみると「高齢者は風邪を引きにくいのか?」となります。ここまでは言っていないのですが,まずはここから考えると見えてくるものがあります。実はそのような内容の文献はあります。急性の呼吸器感染症の有無を年齢層別に調査した研究です2)。この研究における急性呼吸器感染症の有無とは,風邪症状(熱,悪寒,咽頭痛,鼻汁,咳)の有無です。つまり基本は風邪やインフルエンザとなります。研究結果を簡単に言えば,高齢者は乳幼児の4分の1程度の発症確率だと示されています(図2)
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