日本が迎えている未曽有の超高齢社会の「風邪」診療(岸田直樹)
連載
2018.01.15
高齢者の「風邪」の診かた
実際どうする?どこまでやる?高齢者感染症の落としどころ
風邪様症状は最もよくある主訴だ。しかし高齢者の場合,風邪の判断が難しく,風邪にまぎれた風邪ではない疾患の判断も簡単ではない。本連載では高齢者の特徴を踏まえた「風邪」の診かたを解説する。
[第一回]日本が迎えている未曽有の超高齢社会の「風邪」診療
岸田 直樹(総合診療医・感染症医/北海道薬科大学客員教授)
世界的な薬剤耐性菌拡大を受けた風邪診療への注目
「風邪」の診かたが近年,大きく注目されています。一番の理由は「耐性菌の世界的驚異的拡大」という背景が大きいでしょう1)。実際,現状のままでは2050年に世界で年間約1000万人がよくある感染症で死ぬ時代となると予測され,現在の日本の死亡原因1位のがんを上回る公衆衛生上の脅威とされています。この耐性菌の世界的急速拡大の最も大きな原因の一つが風邪診療をはじめとした不適切な抗菌薬使用とされています。風邪診療をしっかり学び,風邪様症状を丁寧に分類するというアプローチは,医師に限らず全ての医療者が知っておくべきでしょう。
ところが,一般的な風邪診療を学んでも,それを高齢者に当てはめようとするとなんだかうまくいかない,自信を持って風邪と言えるわかりやすい患者さんが意外に少ない,重篤になって戻ってくる……,となってはいないでしょうか? その感覚はあながち間違いではなく,とても鋭いと思います。
また,咳嗽,発熱といった風邪様症状を訴える患者さんは高齢者が多いです。そこには日本が抱える重要な背景がもう一つあります。それは高齢化です。「そんなの知っている」とぜひ言ってほしいのですが,この日本の高齢化の真の意味を理解している人は多くはないと思います。この高齢化,世界に類をみない状況なのです。図1にあるように,日本はすでに世界No. 1の高齢化率です。大切なのはその程度だけではなくスピードが世界一なことです。つまり,この2つが組み合わさった「高齢者の風邪診療」は日本が抱える最重要命題の一つと考えられます。医療を必要とする人の多くは高齢者であり,そのニーズは肌で感じるほど大きく変化しています。
図1 世界の高齢化率推移(文献2より作成) |
そしてもう一つ重大な問題があります。それは人口減少です。図2にあるように日本はここでも世界に類をみない人口の変化が予測されています。特に注目すべきポイントは年齢区分別の人口変化です。これほどの人口減少ですが,急速に増えている層があります。そうです。高齢者です。つまり,高齢者を支える人(15~64歳:生産年齢人口)が今後減り続ける中,2045年近くまでは高齢者人口は増え続けるのです。小児人口と高齢者人口の比は2000年にはほぼ1:1でしたが,2035年には1:3と3倍になります。この値は2060年には4倍弱にまで上昇します。2045年頃には高齢者人口は減り始めますが,小児人口
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