身体抑制ゼロへの道のり(井部俊子)
連載
2017.12.11
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加国際大学名誉教授 |
(前回よりつづく)
2017年11月初旬の土曜日,私は北陸新幹線「かがやき」に乗り金沢を訪れた。急性期病院で身体抑制ゼロを実現したとして注目されている金沢大学附属病院(病床数838床)の看護部長・副病院長である小藤幹恵さんに会うためであった。
金沢大学附属病院の広々とした玄関ホールに立ち,見上げるとお花畑の描かれたパノラマスクリーンがあり,10時を告げるオルゴールハート時計からは童謡「みかんの花咲く丘」のメロディーが語りかけるように時を告げた。
「今,やらなければ未来永劫できません」
看護部長13年目となる小藤さんは看護管理者として円熟していた。
始まりは精神科病棟であった。2013年,行動制限を最小化する試みを開始。師長交代もあって,2014年には小藤部長は「身体抑制を減少させよう」と病棟師長に伝えた。「ためらいながら」であったという。人が人を縛るという行為はどういうことなのかに小藤さんはとらわれていた。言い換えると,小藤部長は「人が人を縛る」ことをなんとかしなければならないという観念に“抑制”されていたのである。
精神科病棟では,抑制した患者に褥瘡ができた。自分で訴えることができない人に抑制をしているのではないかという疑念が生じた。また,一般病棟の廊下を歩いていると,看護師が「抑制帯を借りてきたから~」と言っている。小藤部長はこの声に衝撃を受けた。
小藤部長が身体抑制をなくそうという施策に本格的に着手したのは2014年であった。これには伏線があった。2008年,7対1入院基本料を算定するために180人もの看護師を大量採用した。あれから6年が過ぎ,彼女たちは中堅看護師となっていた。小藤部長は師長会でこう宣言した。「今,やらなければ未来永劫できません」と。
身体抑制減少化への試み開始の初年度はやや消極的であった。「抑制を早くやめよう」「抑制はしないでおこう」といった院内発表がみられるようになったものの,根底には「抑制は仕方がない」という認識がスタッフにはあった。
身体抑制減少化への取り組みの2年目,年度始めの師長会で,小藤部長はしかけた。「今年度の目標は,身体抑制を〈激減〉させることです。〈時は今〉です」と師長たちを鼓舞した。「激減とはなんですか」と師長たちが聞いてきた。「アウトブレイクの反対です」と答えた。
10月の中間面接は大きな成果があった。各病棟の師長は,看護部長や複数の副看護部長に囲まれるなか弁明した。「抑制はしないようにしています……」「抑制ゼロはできない……」等々。「掲げた目標を達成しよう」と小藤部長は励ました。さらに,「患者にはどのような変化が現れているのかを,できるだけ数字でわかるようにしてほしい」と伝えた。
優れた師長はみるみる実績を挙げた。最初はうまく説明できなかった師長も2年目に入るとめきめきと変わった,と小藤さんは言う。「求められていること」に向き合う力をつけ,師長同士の横の助け合いが実を結んだ。
こうして,金沢大学附属病院では2016年2月に,一般病棟・精神科病棟で身体抑制ゼロ,その年の12月に集中治療室でも身体抑制ゼロを達成した。小藤部長は次のようなメッセージを院内誌の「臨床看護検討会誌」(7巻1号,2016年)に残している。「各看護チームが,その道のりで乗り越えたものとその力を患者さんの快や苦痛・不安の少なさに活か...
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