肺領域(隈丸加奈子,村山貞之)
連載
2017.11.13
賢く使う画像検査
本来は適応のない画像検査,「念のため」の画像検査,オーダーしていませんか?本連載では,放射線科医の立場から,医学生・研修医にぜひ知ってもらいたい「画像検査の適切な利用方法」をレクチャーします。検査のメリット・デメリットのバランスを見極める“目”を養い,賢い選択をしましょう。[第7回]肺領域
隈丸 加奈子(順天堂大学医学部放射線診断学講座)
村山 貞之(琉球大学大学院医学研究科放射線診断治療学)
(前回からつづく)
症例72歳女性。発熱と呼吸困難により近医を受診した。胸部X線写真を撮影したところ,全体にやや不均一なすりガラス陰影が確認された(図1)。
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市中肺炎の診断・重症度判定に使用される胸部X線写真
日常診療で市中肺炎の可能性を疑った場合,まずは胸部X線写真を撮影することになります。肺感染症は私たちが遭遇する「異常所見を示す胸部X線写真」の中で,おそらく最も頻度が高い疾患群でしょう。胸部X線写真でコンソリデーションや浸潤影が認められれば,容易に肺炎の診断を下すことができます(図2)。胸部X線写真で起炎菌まで同定することは難しいです。しかしながら,コンソリデーションや浸潤影を示す細菌性肺炎と,すりガラス陰影を主とするマイコプラズマやウイルス性肺炎による非定型肺炎は,胸部X線写真だけでも鑑別可能なことが多々あります。
図2 発熱・呼吸困難を訴える68歳男性の胸部X線写真 |
右上葉にminor fissureに接するコンソリデーションを認める。上内側はすりガラス陰影を呈している。ブドウ球菌による肺胞性肺炎として加療された。 |
日本呼吸器学会は,2007年,2008年にそれぞれ市中肺炎・院内肺炎の診療ガイドラインを作成しており1, 2),日本の呼吸器感染症の診断・治療はこのガイドラインに基づいて行われてきましたが,2017年に新たに「成人肺炎診療ガイドライン2017」が発行されました3)。このガイドラインでは,胸部X線写真は診断に用いられるのみならず,重症度判定の因子(胸部X線写真陰影の広がりが一側肺の3分の2以上)にも使用されています。
肺炎評価の胸部CT撮影法
肺炎評価のための胸部CTを撮影する場合は,通常の撮影と同じく,肺尖部から肺底部までを5~10 mmスライス厚で撮影し,肺野条件と縦隔条件の画像を作成して示します。病変が小さく,さらに詳細な情報が欲しい場合は,必要に応じてスライス厚1~2 mmの高分解能CTを追加します。しかしながら多列検出器CT(マルチスライスCT)の登場により,最初から薄層スライスで撮影し,5~10 mm厚の再構成画像を作成して示すことも多くなりました。その場合は,高分解能CTは必要に応じて後処理で作成することができます。肺炎評価のために造影CTが必要になることは少ないですが,肺膿瘍などが疑われる場合,背景に腫瘍が疑われる場合などでは有用です。
市中肺炎における胸部CTの適応と有用性
胸部X線写真でコンソリデーションや浸潤影が認められれば,肺炎の診断は容易です。「成人肺炎診療ガイドライン2017」では,「市中肺炎診断において,問診,身体診察と胸部X線画像で診断した肺炎に胸部CTを施行することは推奨されるか」というCQがあり,「実施しないことを弱く推奨する」と定められています。解説部分には「胸部X線の読影が困難な場合に,胸部CTを否定するものではない。また,異常陰影を見逃すリスクもあるが,負の側面(被ばく,コスト)を考慮すると,全例に胸部CTを行うのは問題がある」と記載されています。
このように市中肺炎に対してルーチンの胸部CTは推奨されませんが,次のステップの胸部CTが必要なケースとして,...
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